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慶応義塾大学・岸博幸教授インタビュー

「米ヘッジファンドによるソニー分割提案」に見る〝アベノミクス後の日本再生論〟

2013.05.31

慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科 岸博幸教授




サードポイントの提案内容は間違っているが……

米ヘッジファンドのサードポイントが、ソニーにエンターテインメント部門の分離と上場という大胆な提案をしたことが話題となっている。私はこの動きは、今後、日本企業が物言う株主と対話していく上で試金石となる重大な事例だと考えている。さらに、日本の企業や産業、社会の構造改革を進めるための第一歩になるかもしれない。

私自身は、今回、サードポイントがソニーに提案している内容には賛成できない。B/SやP/Lだけ見て考えれば、エンターテインメント部門を上場するという発想が出てくるのも理解できる。しかし、サードポイントの提案は、ネットビジネスのリアリティを無視しているからだ。

今、ソニーが取り組んでいるビジネスはネット上の勝負であり、ハードウェアもさることながら、ネット上でコンテンツをユーザーに届けるプラットフォームの構築が重要になっている。ソニーが今後収益を拡大するには、どうやってプラットフォームのシェアを握るかが大事であり、そのためにもコンテンツをつくるエンターテインメント部門はソニーの大事な資産だ。エンターテインメント部門を切り離さないほうが、ソニーの長期的な成長に役立つだろう。

もっと日本企業の新陳代謝を

しかしながら、今回のサードポイントの行動は、今後の日本経済の再生にとって重要な示唆を含んでいる。今、日本はアベノミクスによる金融緩和でデフレから脱却しようとしているが、本当の意味で日本経済が再生するには、企業や産業の競争力が強化されなければならない。安倍政権は6月に成長戦略をまとめるが、正直言ってあまり内容は期待できない。

企業や産業が本当に競争力を強化するためには、民間部門の新陳代謝がもっと行われなければならない。しかし残念ながら、日本には競争力がないのに生き残っている〝ゾンビ企業〟がまだたくさんある。終身雇用という古い慣行も残っており、〝ゾンビ企業〟の中に、大量の人員が囲い込まれたままになっている。

〝ゾンビ企業〟がなぜ大量に生き残っているかというと、政府がいろいろな補助金を出して生かしているからだ。リーマンショック後が典型例で、政府が雇用調整助成金を出して補助し、〝ゾンビ企業〟が人員をカットしなくても生きていけるようにした。政府がじゃぶじゃぶの補助金を使って〝ゾンビ企業〟を生かし、労働移動の円滑化を妨げてきた面がある。産業の新陳代謝が進まないと、残念ながら日本の産業の競争力は強化されない。

ダメな経営者はクビにする制度を

企業の新陳代謝を促すには、社外取締役より独立性の高い独立取締役の存在が必要だ。日本の問題点は、雇用の流動性が低いこともさることながら、経営陣の流動性が低いことにある。はっきり言えば、ダメな経営者が居座っている企業が多いことが問題だ。現状では、経営判断を間違った経営者もクビにはならない。

なぜかといえば、独立取締役が義務化されていないためだ。今の社外取締役は、ほとんどが利害関係者で、当然、ダメな社長でもクビにはしない。他の先進国では独立取締役を選任するのがあたりまえで、過半数を独立取締役にする義務を課している国もある。これはダメな経営者はクビにするための装置だ。

しかし、このような産業の新陳代謝を促す仕組みは、残念ながら今度の成長戦略には入らない。理由は簡単で、抵抗勢力が存在するためだ。補助金頼みの地方の苦しい中小企業は、当然ながらこのような改革には反対する。雇用規制の緩和には労働組合が反対する。参議院選挙を前にして閣僚もビビってしまい、肝心なことは議論すら進まないというのが現状だ。

ダメな経営者をクビにする制度である独立取締役の導入には役所も組合も反対しないが、今度は経団連が反対する。今の経営者は多くがサラリーマン社長であり、終身雇用制度の延長線上で考えるためか、経営者がクビになることなど想定していない。産業の新陳代謝、労働移動の円滑化など、一番重要な構造改革が政策ではなかなか進められない。

物言う投資家の活動が政策を補う

政策で行うのが無理な場合、市場の力を使うしかない。アベノミクスは金融緩和をしたことによって、外人投資家を惹きつけた。サードポイントのような物言う投資家は、ある意味で、市場の力で今の経営陣の間違った経営を変えさせる力がある。その延長線上には、経営陣をクビにするという選択肢も出てくる。企業も、そのような外部からの意見にしっかりと向き合わなければならなくなる。

政策として産業の新陳代謝を進める構造改革が進まない以上、市場の力を借りざるを得ない。それはなにを意味するかといえば、サードポイントのような大株主がどんどん企業に対して、経営を改善しろという提案を出す必要があるということだ。サードポイントの提案は、中身は間違っているが、サーベラスのように敵対的ではなく、大株主が友好的に、かつ厳しい提案を出す事例としては正しい。

それに対してソニーの経営陣が、どういう対応をするかが重要。提案が間違っていると思うなら、代わりにどういう選択肢があるのかを示す必要がある。ソニーはグローバル企業であり、そうした代替案を出す力を持っているはずだ。

ソニーがきちんと対応すれば、市場の力によって経営陣がより改革的な方向に向かう先行事例となるだろう。市場の力で産業の新陳代謝が進むようになることは非常に良いことであり大いに意味がある。

ソニーは堂々と正面から議論を

西武ホールディングスに敵対的買収を仕掛けているサーベラスのようなアクティビストは、短期的な自分の利益のみを考えている。簡単に言えば土地を買って、値上がりすれば売り払うようなものだ。しかし、サードポイントは短期的な視野よりも、長期的にソニーの企業価値を高めようとしている。従来の〝ハゲタカ〟的な提案ではなく、まっとうな提案が増えるのは日本企業のためにいいことだ。

それに対して日本企業が真っ向からちゃんと議論して、経営を変革していくことがサイクルとして起きるようになれば、政策でできない部分を市場が代替してくれることになる。今回の場合は、ソニーは正論で対案を出して、サードポイントと堂々と議論すればよい。ただ、「NO!」というだけでは何も変わらない。ちゃんとした長期的な代替案を示すことが大切だ。

金融緩和だけでは実体経済の競争力は高まらない。金融緩和策を受けて株価が上昇していることはすごく良いことで、これがさらに続くためには、実体経済が強くならなければいけない。それには企業、産業が自らどんどん構造改革して、より競争力を強化するしかない。

しかし、シャープやパナソニックのように、自分たちだけで独善的に経営判断をすると誤ることもある。外部からの厳しい意見をどんどん取り入れることで、こうした過ちを防ぐ道も広がるだろう。

イノベーションというのは何も先端技術分野だけではなく、成熟産業のビジネスイノベーションも含む。どんな産業でも、まだイノベーションの余地は山ほどある。日本企業にはまだまだ成長力があり、ビジネスモデルを変えれば、変革できる企業も多い。

ただし、経営者が怠慢な企業はどうしても停滞してしまう。サードポイントのようなアクティビストの行動にただ拒否反応を示すのではなく、経営の変革、ビジネスイノベーションの活性化に大いに活用すべきだ。
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