富裕層の半分は高級住宅地に住んでいない「となりの億万長者」(富裕層本書評1)
富裕層の半分は高級住宅地にいない
富裕層関連本の古典の名著とも言うべき存在で、富裕層の基本的なメンタリティーを知るための良著。それが「となりの億万長者」だ。日本語訳版でもすでにおなじみとなっており、昨年は新版も出され、すでに読んだ人も多いことだろう。倹約を重んじる地味な富裕層にスポットを当てた内容が、まさしく日本人好みでもある。端的に言うならば、稼いで守る、というただそれだけなのだ。それでいて、小見出しを拾っていくと「医者に金持ちは少ない」「ごく普通の仕事が億万長者への近道」「所得税こそ最大の敵」など示唆に富む刺激的なものも多く、読者を飽きさせることがない。
おもしろいデータを取ることができたのも、従来の高級車の顧客や高級住宅街の住民という固定観念だけでなく、データの選別を正確に行ったことも理由の一つだ。意外に思うかもしれないが、コネチカット州、メリーランド州、アラスカ州などにも多く分布していたりする。
1970年代から富裕層についての調査研究を行ってきた著者のトマス・J・スタンリー氏。アンケート調査を有効にする上で、配布先が正しいかどうかが成否を分けると言っても過言ではない。IRS(米国歳入庁)のデータを基にすれば、富裕層の半分は高級住宅地に住んでいないのだ。それに、稼ぎの良い職業という要素も加えることで、正しく調査票を富裕層に配布できたために、おもしろいデータを補足できたとも言うことができる。
そこには、富裕層の資産が増える仕組みもハッキリと見えている。
所得税を抑えて資産を増やせ
平均的億万長者の年収は資産額の7%以下。資産を築くためには、課税対象となる現金所得を最小限に抑えて、含み益を最大限にする。所得税は資産の2%程度しか払っていないのだ。仮に資産が1億円だとしたら、200万円程度ということになる。だからこそ、さらに資産が増大していく。ご存じのとおり、米国には資産に課税する、いわゆる「富裕税」はない。だから給与所得を増やしていくよりも資産を増やしていくことに目を向ける。その基本となるのが倹約なのだ。IRSの職員2人が、こうした富裕層の資産から一生税金を取ることができないボヤキ節漫才も本の中では紹介されており、これもなかなか面白い。
最近、日本のメディア、あるいは読者が好きな話題の一つに、「年収1000万円」というカテゴリーがある。高収入だが資産額が低い家庭は、金のかかるライフスタイルを維持するために所得税がかかる現金収入を最大化しようとしてしまう。これでは、いつまで経ってもストックが増えることはない。しかし、これがそもそもの間違いの始まりとなっていることに、彼らは永遠に気が付かない。
収入を増やそうとしても絶対に安定した業界というものはなく、富裕層になるには倹約できる気質かどうかという点は絶対に外せないものだ。日本の富裕層人口は232万人(ワールドウエルスレポート)。50人強に1人が富裕層だ。まさに、あなたの隣の家のアノ人が、あなたの会社の隣の席のアノ人が、富裕層なのかもしれない。
評価(5点満点):4.5点
著者:トマス・J・スタンリー
米国の億万長者研究の第一人者。ニューヨーク州立大学教授。NYタイムズから出版の「となりの億万長者」などベストセラー多数。
【富裕層本書評シリーズ一覧】
富裕層の子供時代、落ちこぼれはいない? 「新・日本のお金持ち研究」(富裕層本書評2)
富裕層の増加は2割どころではなかった「富裕層はなぜ、YUCASEE(ゆかし)に入るのか?」(高岡壮一郎著)(富裕層本書評3)
「金持ちは税率70%でもいい VS みんな10%課税がいい」(富裕層本書評4)
「金持ちが確実に世界を支配する方法」(富裕層本書評5)
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