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オークラ支配人「知って損はない高級ホテルのサービスの違い」

『一流の品格をつくるホテルオークラの流儀』の著者で、以前「ホテルオークラ支配人の教える、ホテルの上客になる方法」をお話しいただいた石原直氏に、ホテルのサービスについてより詳しくお聞きした。

オークラの考える「良いサービス」とは?

「ホテルにはそれぞれ“常識”があるとお話しさせていただきました。“常識”とは経営理念から出てくると言えます。そのホテルの経営者が何を大切にし、何を変え、何を変えないかを決めた結果が“常識”です。

 オークラはお金持ちのお客様だから、たくさんお支払いをしてくださる方だから優遇するといったことはしない、とお伝えさせていただきました。
 オークラがどのようなサービスを“良いサービス”と考えているか、それは『どの従業員も、お客様に常に均質なサービスを提供する』です。
 サービスとは『できるからやる』のではなく『やるべきことをやる』もの であり、“サービスは常に75点を目指すのがよい”と考えています。


Marc Piasecki/Getty Images
 どういうことかといいますと、たとえば従業員がお客様をお見送りする際、あるときはほかの仕事がなかったので、玄関までお見送りできたとします。

 しかし、別のときは取り込んでいて、そこまでのお見送りはしなかったとしたら、お客様はどう思われるでしょうか。
『前はちゃんと見送ってくれたのに、今日はサービスが悪い』とお考えになるかもしれません。

 手が空いていたので玄関までお見送りするのは、100点満点で言うと120点のサービスであり『できるからやっちゃった』サービスです。

 それよりも、いつもどの従業員でも同じサービスを提供できるほうがいい。今回は100点だったけれどその次は50点だったというようにバラつくならば、目指すのは常に75点。それがオークラの考える『良いサービス』です。そしてこの75点を80点、85点に上げてゆけば良いのです。
 良い方向にも悪い方向にもお客様の差別はしない、それがオークラの“常識”でもあるのです」

サービスの“常識”は異なる

「誤解のないように何度もお伝えしていますが、“常識”はホテルにより異なります。外国資本のホテルで、従業員に大きな権限があり、その人の判断でお客様に独自のサービスを提供してよい、としているところもあります。
 もちろんそれが悪いわけではありません。そのような形だから提供できる、素晴らしいサービスもあるでしょう。
 そのようなサービスが良いサービスである、という“常識”です。

 私が別のホテルのバーに行ったとき、カウンターに座りたいと言いましたが、満席だと断られました。確かに空いている席はありません。
 その後、常連と思われる方が来店され、カウンターに近づくと、1つ椅子が出てきた、そのような場に遭遇したことがあります。 
 オークラの“常識”では、これは良くないサービスです。お客様を差別していることになります。

 しかし、そのホテルの“常識”は、何度もご来店くださる方には手厚くサービスする、なわけです。サービス1つとっても、細かいところでそれぞれの違いが出ます。むしろ、細かいところにこそ、ホテルの経営理念に基づいた差が出てくるものです。

 ホテルをご利用になる方は、そのホテルの”常識”を知っていただくことで、ホテルでの滞在時間を快適なものにしていただけると思います。
 そのとき限りの特別なサービスを受けたいという方は、それがよいサービスと考える“常識”を持つホテルに行っていただくのがよいですし、いつでも常に同じクオリティのサービスを提供してほしいならばオークラに、というように、使い分けていただくのがよいのではないでしょうか」

“特別は何もない”がオークラ流一流のサービス

「ありがたいことに、多くのお客様よりホテルオークラのサービスは一流であるというご評価をいただいています。オークラの経営者は常に『サービスもベストを目指す』と公言しています。
 しかし、開業以来、オークラがつくり出した特別なサービスはないのではないか、と私は思っています。

 オークラ創業当時の一般的な日本人であれば、誰もが『お客様をお迎えする』という術を身に着けていたと思います。オークラは日本人が自然にできることを、提供するレベルをそろえ、良い部分はさらに伸ばしていった、その結果一流というご評価をいただいたと思っています。
 
 その意味では、オークラは何も特別なことはしていません。私たち日本人が、自分の家にお客様をお迎えするとしたら、どんなことをするか。部屋を片付ける、玄関や庭先の掃除をするといったことは誰もが行うことであり、人によってもそれほど差はないと思います。

 その作法の延長であり、それが良いと考える、それがオークラの“常識”であり“流儀”です」

ほかにない「和」を大切にしたホテル

「ホテルオークラは英国のチャールズ皇太子、米国のオバマ大統領、フランスのシラク大統領(当時)といった各国の賓客にご宿泊いただき、高い評価をいただいてまいりました。
 日本を代表する老舗高級ホテルであると思ってくださる方も、多々いらっしゃいます。


ホテルオークラの改装前の本館
 オークラがほかの老舗高級ホテルと異なる点は、“和”を大切にしたホテルであるということです。ホテルは外国から入ってきたものですから、元々が西洋的なものです。

 ホテルオークラは西洋のホテルをベースにしながらも、日本を感じさせるものであることを意識してつくられました。
 建物の意匠が日本を感じさせるものになっているほか、ロビーにいる女性は着物を着ています。

 オークラは1962年、東京オリンピックの2年前に開業しました。オリンピックを前に、戦後復興した日本を世界に認知してもらおうと努力をしている時期に建てられました。

 オークラは『オリンピック開催に向けて』といった単純な目的でつくられたわけではありません。
 大倉財閥の大倉喜七郎が“日本の伝統美によって諸外国からの貴賓を迎える”“日本の文化を、そして日本という国を世界に発信するホテルを目指す”という理念の下、自分の屋敷の土地を提供し、当代の有数の建築家や匠の手により建てられたのです。

 残念ながら本館は解体工事に入りましたが、創業の精神は引き継がれています。先ほどお話しさせていただいた『特別なことをしない一流のサービス』もその1つです。

 政府の方針もあり、日本を訪れる外国人旅行者の数は増えました。2020年の東京オリンピックまで、その数は増えていく一方でしょう。
 ホテル不足といった問題も抱え、一般の住宅に旅行者を宿泊させる「民泊」も盛んになってきたといいます。
 私は高級ホテルといわれるところの利用者と、民泊に宿泊する旅行者はバッティングしないと考えています。

 ホテルは単なる『宿泊機能を持つ箱』ではありません。今までお話しさせていただいたような様々なサービスを提供し、ご利用になる方に快適に過ごしていただく空間です。
 民泊のような宿泊形態を利用される方は、宿泊以外の点を重視されるということで、それも旅の楽しみ方と思います。
 ホテルをお使いいただく方には、ぜひそのホテルならではの魅力を味わっていただきたいですね」

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石原 直(いしはら・ただし)
 立教大学経済学部卒業後ホテルオークラに入社。ホテルの情報システムの草分けとして活躍。システム開発室長として、他ホテルへシステムを販売するなど業界のシステム化に貢献する。
 取締役社長室長時代には都市ホテルとしては世界で初めてISO9001の認証取得を指揮。常務取締役・ホテルオークラ東京総支配人兼務、ホテルオークラ新潟社長、芝パークホテル社長・会長、藤田観光副社長・事業本部長、フォーシーズンズホテル東京総支配人を兼務する。
 この間15年にわたり立教大学社会学部、観光学部にて兼任講師、運輸省(現国土交通省)、経済産業省、エネルギー庁などで各種委員会委員を務める。
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