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一晩で10億ドル儲けたジョージ・ソロスの「ブラックウェンズデー」【ヘッジファンドマネジャー列伝⑥】

 ジョージ・ソロスといえば「イングランド銀行をひざまずかせた男」という異名が有名だ。
 イギリスポンドの暴落を引き起こした「ブラックウェンズデー」の黒幕として暗躍した。
 その様子はどのようなものだったのか、そして彼のしたことは正しかったのだろうか?

 為替は、ソロスの哲学的な考えからすれば標的になる。市場には一定の効率性があるが、為替は往々にして、市場参加者と各国政府とのせめぎ合いを通して時に非効率に変化していくからだ。
 グローバル化が一層進んでいることにより、市場間の垣根が極めて低くなった今日、たいていの国の政府は、貿易価格のむやみな乱高下を防ぐために、為替レートを管理しようとしている。
 だが、ひとたび為替レートの動きにあまりな無理が生じると、政府のそのような動きを突き崩そうとする投機筋の標的になる。

きっかけは1990年の東西ドイツ統一

 イギリスは1990年に欧州為替相場メカニズム(ERM)への参加を決断した。ERMとは、欧州為替相場の変動を抑制し、通貨の安定性を確つために、欧州通貨制度(EMS)で採用された為替相場制度で、加盟国は2カ国間の為替レートの変動幅を当初レートの±2.25%に押さえることで合意していた。

 1979年に導入され、イギリスのサッチャー首相はこの制度への参加に乗り気ではなかったが、90年になり重い腰を上げた。
 EUが発足する前に存在していた制度だが「ドイツとそれ以外」という構造になるのは昔も今も同じで、西ドイツがインフレ率が最も低く、最大の外貨準備高となっていたため、加盟各国は、マルクに対して自国通貨の変動幅をほぼ固定していた。
 また加盟国は、自国通貨が変動制限幅の下限に近づいたらインフレを抑えるために利上げを行うという暗黙の合意があった。

 1990年代初め、ERMには重圧がかかっていた。1990年にベルリンの壁が崩壊し東西ドイツが統一したからだ。
 元々共産国家の東ドイツの生産性はそれまで極めて低かったが、統一に伴い西ドイツは、東ドイツの発展を助けようと、その名目賃金と所得を西ドイツ・マルクに連動させることにした。

 その結果、様々な物資が不足していた東ドイツでも西ドイツの製品を自由に買うことができるようになったことなどもあり、経済は一気に活性化、それまでの見通しを大幅に上回る巨額の所得が西側から東側へと移転した。
 その推定規模は西ドイツのGDPの4~5%、東ドイツのGDPの3分の1強だった。インフレの圧力も高まった。

 ドイツの政治家にはこの動きに見合った増税等に踏み切る豪胆さがなく、埋め合わせのために借り入れを行った。このような大がかりな財政出動がもたらすインフレ圧力を緩和するために、ドイツ連邦銀行のヘルムート・シュレジンガー総裁は、金利の大幅引き上げという手段に出たのだ。

 ほかのERM加盟諸国は、すでに景気後退局面に入っていたにもかかわらず、唯一経済が好調なドイツの動きに追随するほかなかった。イギリスのある下院議員は、ERMを「永久に不況が続くための仕掛け」と揶揄したほどだ。

 イギリスはそのとき、深刻な不況下にあった。ポンドは夏の初めから一貫して売り圧力にさらされ、対ドルで4%以上も下落していた。

 だが、イギリス保守党のジョン・メージャー首相はこれ以上のポンド安を何としても食い止めようとしていた。イギリス大蔵省は9月上旬、マルク建てで143億ドルの借り入れを行い、為替上でポンドを必死に買い支えた。

一晩で10億ドルの儲け

 イギリスで「ブラックウェンズデー(暗黒の水曜日)」と呼ばれる1992年9月16日、イングランド銀行は公定歩合を10%から12%に引き上げた。必要であれば15%にするとまで公約した。

 このとき、イギリスでは厳しい景気後退により世論の怒りが高まっていたため、このような公約は額面通りには受け取られなかった。

 一気にポンド売りの大波がここかしこから押し寄せ、政府が守ろうとしてきたポンドのイギリスの防波堤を破った。イギリスはERMからの離脱を発表し、ポンドはさらに価値を下げ、あっという間に10%ほど暴落、ERMは形骸化してしまった。



ジョージ・ソロス/Getty Images
 ポンド暴落の黒幕がソロスだったと判明したのは、10月も終わりのころだ。
 ポンドの売り浴びせを最初に発案したのは、ソロスがドレフェス・コーポレーションから引き抜き、ソロスのクォンタム・ファンドの日々の運用実務の責任者を務めていたスタンレー・ドラッケンミラーだ。

 ドラッケンミラーが示したポンド売りのアイディアをソロスは即決、「実行するなら極めて大がかりに」と言った。

 ポンド売りを仕掛けるに当たり、ソロスはドラッケンミラーとともに、水面下で世界中の銀行からポンドの信用枠を確保した。どの銀行にとってもソロスは最重要の取引先のため、どこも喜んで信用枠の供与に応じた。

 100ほどの支店から現地の様々な口座変更の元、合計で100億ドル相当(当時のレートで1兆2000億円)もの信用枠を取り付けた。

 ソロスはこの数週間前に、投資に関するカンファレンスに参加していた。その際にドイツ連邦銀行のシュレジンガー総裁は、事前に用意してあった見解でも、散会後の短いやり取りの中でも、ドイツがポンドを支えるために市場に介入することはないだろうという感触をソロスに伝えていた。

 ブラックウェンズデーの9月16日、イギリスが公定歩合を2%引き上げると、ソロスはそれを「手詰まり感の表れ」と受け止め、引き金を引いた。
 確保してあった信用枠を目いっぱい使用してポンド売り、マルク買いを敢行したのだ。
 突然、世界のここかしこから一斉にポンド売りが起こったため、各国の市場参加者はその流れに乗った。ソロスの動きだけでもイギリスに与えたダメージは大きかったが、市場全体がポンド売りに走ったため、イギリスは数時間後に白旗を上げた。

 イギリスのノーマン・ラモント大蔵大臣はのちに「できることなら市場で150億ドル相当のポンド買いを実行し、暴落を阻止したかった」と語った。それを聞いたソロスは「ならばこちらは、それと同額を買おうと考えたでしょう」と言っている。

 ブラックウェンズデーで、ポンドはおよそ10%も下落した。その晩、クォンタムの運用担当者たちは、前日にマルク買いを解消して売ったポンドを安値で買い戻すと、銀行に借入金を返済した。
 この空売りによる利益はおおむね10億ドルに上り、イギリス国債の買い持ちなど関連するポジションを含めた利益総額は、およそこの2倍だったという。

ソロスは悪役? ヒーロー?

「この勝負は決して賭けではなかった」
 ソロスは語っている。もともとイギリスがERMに留まれそうになかったのは明らかであり、景気が悪いにもかかわらず利上げが行われていたことに加え、公定歩合をさらに引き上げようものなら、政権崩壊の危機ですらあった。

 ソロスはこの空売りで、世界経済に混乱を、イギリスに多大な損害を与えたのだろうか? むしろ、ポンドが暴落以前の価格が、政治家たちの力によって高くあり続けたものだったと言える。
 ポンドが適正と思われる水準で安定すると、イギリスはすぐに公定歩合を引き下げ、輸出は秩序だって速やかに増加していったからだ。
 1990年から92年にかけて、イギリスの実質GDPは1.2%減少したが、ポンド暴落後の3年間は年平均で3.2%という実質成長を遂げた。

 イギリスはERMを離脱後、他国を気にすることなく、金利を自由に下げられるようになり、ポンド安にもなった。
 このことはイギリス経済にプラスの影響を与え、成長要因の1つになった。イギリス政府が必死に阻止しようとしたブラックウェンズデーにより、皮肉にも国の経済は好転していったのだった。
 ソロスの行為は、避けようのない事態の到来を速めたことであった。混乱を引き起こしたというよりも、むしろイギリスに恩恵をもたらしたとも言える。ERMに復帰しなかったことでイギリスはその後のユーロにも参加せず、イギリスの通貨はポンドのままであり続けた。

 2016年、イギリスはEU離脱を決めたが、もしイギリスの通貨がユーロだったならば、結果は違ったものになったかもしれない。

 それはのちの話だが、イギリス人も同じように考える人がたくさんおり、ポンド暴落の衝撃が収まったのち、イギリス社会にはソロスに対する強い敬慕の念が広がったという。

 ソロスはイギリスのEU離脱を前に現役復帰した。ソロスはイギリスがEUを離脱すればポンドは急落すると言っており、イギリスのEU離脱の予測も的中させた。EUの離脱予測に伴い進めていた金と金鉱株は上昇するなど、変わらぬ見立ての鋭さを見せている。

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前半記事「ジョージ・ソロスが2億3000万ドル儲けた「プラザ合意」」はこちら
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 本記事は、2017年2月に出版された『富裕層のNo.1投資戦略』(高岡壮一郎著・総合法令出版)の草稿を、ゆかしメディア編集部が編集したものです。
 本記事の完成版はこちらでご覧いただけます。

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