ゴールドマンサックス24年勤務の“投資家”ファンドマネジャー、レオン・クーパーマン【ヘッジファンドマネジャー列伝⑫】

 ヘッジファンドマネジャーのほとんどは、自分の資産もヘッジファンドに入れて運用を行っている。そうすることで扱う金額を大きくすることができ、それにより受けられる様々なメリットがあるからだ。

 そのようなヘッジファンドマネジャーの領域を超えて、あくまでも自分は1人の投資家であるというスタンスで運用しているのが、オメガ・アドバイザーズのレオン・クーパーマンだ。

 73歳という高齢ゆえ、ここ最近は第一線に姿を現すことは少なくなっているが、フォーブスが発表した2014年のヘッジファンドの長者番付で16位、資産額は34億ドルとされた。
 アブソリュートリターン+が集計した2013年のヘッジファンドの報酬ランキングでは、8.25億ドルで7位に入っている。
 ほかにも、大富豪の投資家たちが投資している銘柄「ビリオネア・インデックス」を決める基準の1人に選ばれるなど、長らく一線で活躍してきた人物だ。

組織人として大成功

 彼は、とにかく働く。週に90時間といわれる労働時間は、日曜日から土曜日まで働いたとしても1日あたり12.8時間になる。 
 朝7時には会社に着き、帰宅後も夕食を済ませるとコンピューターの前でポートフォリオやアジアのマーケット、最新ニュースなどをチェックする。情報がないと気が済まないタイプで、常に今何が起こっているかを知りたいのだという。


クーパーマン (コロンビアビジネススクールのHPより)
 彼が十代のときにクーパーマンと同じセーリングクラブに属していた友人は、クーパーマンは週末に船に乗るときも必ず企業の年次報告書を抱えて現れ、船内で読みふけっていたと言う。

 クーパーマンは言う。よい銘柄を見つける秘訣は存在しないのだと。
「平均的な知能指数(IQ)と強い勤労意欲があれば誰でも成功できる。自分がそれを証明している」とし、「仕事以外にはあまり関心がないので余暇の過ごし方が分からない。秩序ある生活が好きなんだ」と語った。

 クーパーマンが扱うのは主にアメリカ株だ。オメガの顧客でソロモン・ブラザーズ共同創設者の孫、ロバート・ S・ソロモン・ジュニア氏は言う。
「クーパーマンは特に手の込んだことをするわけではない。割安の株を探すだけだ。彼は銘柄の見極めでいくつかの素晴らしい成功を収めた」

 クーパーマンはアメリカのサウスブロンコスで育った。両親はポーランドから避難してきた。クーパーマンは彼の一家で初めて大学に入学した人物だった。彼は化学を学び、コロンビアビジネススクールを卒業した後、ゴールドマン・サックスに入社し、24年間勤務する。

 長年会社勤めをし、ほぼゼロの段階から調査部門を立ち上げ、35人の部門を200人超の大所帯にしたほか、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの会長兼CEOを務めるなど、組織人としても多くの成果を残してきた。
 組織の内外を問わず非常に評価の高い、信頼の置かれている人物だ。

 クーパーマン在籍中にゴールドマンの共同会長を務めたジョン・ホワイトヘッド氏は、「彼は業界が長く、市場の浮き沈みを見てきたが、全てを見事に乗り切った」と言った。

 その後「人生の野心を追求したい」と独立し、約5億ドルでファンドを開始する。運用は成功し、彼自身長者番付に名を残すようになる。

「投資家の利益」にとことんこだわる

 ヘッジファンドマネジャーではあるが、彼自身も投資家であると考えており、また投資家としての視点を大事にしている。
 そのため、株を所有する会社には、経営に積極的に口を出す。これはまさに株主の姿勢だ。経営状態がよくならないと、経営陣を厳しく批判することもしょっちゅうだ。
 理由は不明だが、かつては保有したアップルの株26万株以上をすべて売却したこともある。

 彼は株式投資をする前に、企業を訪問してレポートを作成する。
 会社を訪問し、経営幹部と直接対峙するスタイルを好む。彼が拠点を置くニューヨークは多くの会社に出向くうえで最適な場所だと彼は言う。

 クーパーマンが年次報告書などの資料や企業幹部への質問で見つけようとしているのは、PERが低い上に多くの現金を保有、かなりの利益をあげ、株価が1株当たり純資産を下回っている企業だ。
 また、自社株を多く保有している賢明な経営者や、自社株を安く買い戻す企業にも目を付けるという。

 このように、ファンドマネジャーではなく投資家として真摯に向き合う姿勢が彼の強みであり、その一方で投資家の視点が強すぎて、最近の主流であるコンピューターを活用するなど、テクノロジー思考でないことが自身のウィークポイントでも語っている。

 彼が考える、利益をあげる5つの方法が以下だ。

①マーケットの方向性を判断する(投資環境を予測する)
②資産配分の決定に多くの時間を割く
③割安の銘柄を買う
④割高の銘柄を売る
⑤為替などの従来型でない金融資産を持つ

 投資環境を分析するとき、クーパーマンは様々な要素を考慮する。経済環境、金融政策、マーケットと個々の業種の評価、マーケットにおける需給パターン、消費者と投資家のセンチメント(心理)、魅力的な投資機会の質、テクニカルな指標などだ。それらの要因を考慮して分析していく。

 投資家でもあるクーパーマンが経営する会社は、投資家の利益になることを最大限に追求し、妥協を許さない。
 オメガでは、「今の環境で何が異例だろうか。ノーマル(普通)とはどんな状態で、全てがノーマルだったら市場はどの水準であるべきか」と日々自問している。

「投資家の利益になっていなければ去れ」「このビジネスにのめり込めない人物は要らない」それが方針だ。

 趣味を持たない彼が仕事以外に熱心なのは寄付や慈善事業で、2500万ドルの基金を設立し、エセックス州の高校生の進学のための学費援助を目的としている。
 聖バーナバス病院の理事やクローン病および大腸炎財団の管財人を務めるほか、彼の出身校ハンターカレッジへの寄付などもしている。
 ほかにもデーモン・ラニヤン―ウォルター・ウィンチェル基金のがん研究財団理事会のメンバー、現代美術館の投資委員会のメンバーを務めている。
「働くことによって、国民や子供たちのために寄付するお金を生み出すことができます」
 彼は語る。

気になる判決の行方

 2016年9月21日、インサイダー取引を行ったとして、クーパーマンはアメリカ当局に提訴された。
 アメリカ証券取引委員会(SEC)の21日の発表によると、クーパーマンはアトラス・パイプライン・パートナーズの大株主の一角としての地位を利用して同社幹部から機密情報を入手、2010年のアトラス資産売却前に同社の証券を購入し、著しい不正利益を得たという。アトラスの株価はこの資産売却を受けて31%急伸した。

 クーパーマンは21日に投資家に宛てた書簡で、SECの主張に強く異議を唱えるとし、自身のヘッジファンド運営会社が不法な行為に従事したことはないと言明した。

 SECによれば、クーパーマンのオメガ・アドバイザーズがアトラス株取引に関して召喚状を受け取った際、彼は同アトラス幹部に連絡し、話をでっち上げるよう求めたという。この幹部はクーパーマンがアトラスの発表前に取引を行っていたことを知ると、衝撃を受けるとともに立腹したという。
 彼にどのような判決が下されるのか、今後の動きを見守りたい。

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 本記事は、2017年2月に出版された『富裕層のNo.1投資戦略』(高岡壮一郎著・総合法令出版)の草稿を、ゆかしメディア編集部が編集したものです。
 本記事の完成版はこちらでご覧いただけます。

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