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アメリカのTPP離脱は日本にこう影響する

 ドナルド・トランプ氏がアメリカ次期大統領に決定し、各分野の大臣の選定を行うなど、新しいアメリカが船出の準備を着々と整えている。


Getty Images
日本も、安倍晋三首相が訪米しトランプ氏と会談を行うなど、新たな関係性構築を急ぐ。
 トランプ氏は「大統領就任初日にTPP離脱を他の参加国に通告する」と明言した。

 アメリカがTPPを離脱することでどのような影響があるか、このほかにもトランプ政権でアメリカはどのようになる、そして気になる日本との関係はどう変わり得るかを、経済評論家の加谷珪一氏に解説していただいた。

アメリカのTPP離脱で政治的、経済的に難しい選択を迫られることに

「トランプ氏が大統領になって、1つ確実に影響があると考えられるのがTPPです。この度、彼はTPP離脱を改めて明言したので、既定路線になったと言っていいでしょう。
 ヒラリー氏も大統領になったらTPPは見直すと言っており、その意味では同じではありますが、トランプ政権のほうが、そこに重みが加わります。

『メキシコとの国境に壁をつくれ』などの発言をしてきたトランプ氏は、北米自由貿易協定(NAFTA)からの離脱を主張してきました。彼の掲げる『強いアメリカ』の実現、アメリカの労働者によい環境を整えるために、メキシコやカナダなど北米経済圏での自由な貿易を可能にしているこの協定に関しても、見直し、合意が得られなければ脱退するということです。

 ですが、脱退は現実的に考えにくいと言えます。アメリカ国内にはメキシコやカナダ産のものがたくさん出回っています。ビール、菓子、車など、日常的に使うもの、価格の安いものから高価格なもの、嗜好品まで幅広くです。これらの流通がストップすることは、アメリカにとってデメリットしかありません。

 そうすると、ほかに貿易に関する公約と言えるのはTPPです。公約のすべてを反故にするわけにもいかないでしょうから、そのとき槍玉にあげやすいのが日本との交渉です。

 のちほど詳しくお話ししますが、アメリカは日本と距離を置く政策を取っており、今のTPPに関してもアメリカに不利な部分も多いとされることから、TPPには反対、日本とはもっと厳しく貿易交渉をする、と話すのは、『公約を守っているアピール』のうえでも効果が高いでしょう。

 TPPはそのルール上、GDPの85%を占める国が批准しないと成立しませんから、アメリカが交渉のテーブルを降りると成立しません。

 そうなることを見越して、アメリカを除いたアジア地域だけでTPPを結び直そうという考えが出てきています。
 かつてのASEANを中心とした貿易圏の再構築ですね。近隣の国々を中心として行うわけですから、地政学的にも非常にオーソドックスと言えるアイディアです。そこで交渉がまとまったうえで、個別にアメリカと交渉することになるでしょう。
 ただし、そのときに日本がリーダーシップを発揮できるかは疑問です。日本が存在感を発揮するのを、中国が妨害してくる可能性は高いと言えます。

 アメリカの反対でTPPが白紙となると、貿易交渉に関してアジア各国がアメリカと個別に交渉する、ということになるかもしれません。そうなるとどんな問題が起こるのか? 製造業の中には、アジアで部品を製造し、違う国で組み立ててアメリカに送るという形をとっている会社がたくさんあります。
 たとえば、ベトナムやタイで基本となる部品を製造、中国で組み立て、最後はアメリカに送って完成という形です。
 アジアが個別交渉となって、たとえばベトナムとアメリカは契約を結べたがタイは契約がまとまらなかったというような場合、タイ経由での生産ラインはストップしてしまうかもしれません。
 そうなると、1つのメーカーで、アメリカに送れるものと送れないものができてしまうでしょう。製造業への打撃も大きくなります。

 日本はこの先政治的にも、経済的にも、難しいかじ取りが求められると言えます」

対日本のトランプ路線に目新しいものはない?

「トランプ氏のこれまでの発言から、在日米軍が日本から引き上げる、日本に核武装が求められる、非核三原則はどうなるといったことが言われるようになりましたが、私はアメリカの対日本に対する方針は、これまでとあまり変わらないのではないかと考えています。

 まず、アメリカの長年の考えについて説明します。アメリカは戦争が好きでしょっちゅう戦争を起こしているイメージがありますが、元々アメリカは孤立主義をとり、外国にあまり関与しない姿勢でした。
 第一次世界大戦ではヨーロッパが主戦場になりましたが、アメリカは積極的に動くこともなく多少関わった程度で、これがアメリカの本来の姿です。
 なぜ第二次世界大戦後にアメリカは世界の警察官という役割を果たしていくのかというと、アメリカ国内で使用する石油の安定確保が目的でした。そのために中東に関与したり、戦争を起こしたりしてきたのです。
 現在、アメリカはサウジアラビアとならんで世界第1位の産油国であり、石油に代わるシェールガスの開発も盛んで、国内で使用するエネルギー源は、自国で賄えるようになっています。
 そのため、今のアメリカは海外に出ていく必要がなく、その姿勢は今後も変わらないと考えられます。

 日米同盟は存在しますが、アメリカにしてみれば現在この同盟に対し積極的な理由は存在しません。沖縄にいる海兵隊は、現在すごい勢いで引き上げられています。
 オバマ大統領も、日本とは距離を置いています。安倍首相と日本の寿司店に行ったりしていますが、それはパフォーマンスに過ぎず、安倍首相の迎え方もどこか冷淡です。

 アメリカはオバマ大統領の頃から『世界の問題に関わるのはやめる』という方針で、トランプ氏も、その方向を踏襲していくに過ぎないのです。
 なお、ヒラリー氏はシリアの内戦やクリミアの問題に関与していくことを謳っていましたので、その流れを逆にしようという動きが起きていたでしょう。

 トランプ氏の大統領就任で、すでに起こりつつあった新たな動きが、一気に加速すると言えます」

「国益」を国民1人ひとりが考える必要がある

「日本は今後、どうしていくのがよいのか。小泉政権の頃のような、アメリカと親密になり、協同していくことは考えられません。アメリカは内向きで、日米同盟も形骸化しています。
 国防に関しても、今まではアメリカの言うことを聞いていればよかったのが、今後は自分たちでどう国を守るかを真剣に考えなければならなくなりました。
 これまで威勢のいいことを言っていた保守派の人たちも、日米同盟があるからと安全な立場にいたから言えたことも多いでしょう。リベラル派も、米軍がいなくても自衛隊は要らないと本当に言っていられるのか?
 勇ましいことを言うだけが国益ではありません。実利を取っていかなければならないのです。

 フィリピンのドゥテルテ大統領は、過激な発言ばかりが取り沙汰されますが、実はいろいろなところに対し、水面下ではきちんと握手を交わし、実利をしっかりと取っています。中国とは敵対していると見せかけながらも、実際のところは仲良くしたほうが得策と考え、実質的には親中政権になっています。

 トランプ氏も、その言い方には好き嫌いがあると思いますが、実はきちんと国益になるポイントを押さえてくるでしょう。彼自身は都会のニューヨーク出身であり、不動産王といわれた一流のビジネスマンですから、共和党の政治の世界を勝ち抜いたようにパフォーマンスをしながらも実利を取っていくのではないかと考えています。
 彼は演出のうまい、超一流の政治家です。

 EUを離脱するイギリスはオーストラリア、インドなど英語圏国家との関係強化を目指しています。目指すは英連邦グル―プの再構築です。
 英連邦グループと、ドイツやフランスなど発足当時のコア国家が中心となるEU、そしてアメリカのブロック経済ができていくでしょう。
 日本はそのとき、どこに位置するのか?中国を中心とした中華経済圏に入るのか、今の国民感情から言って、中華経済圏に入ることは考えにくいでしょう。
 ではアジアで存在感を発揮するのか? 果たしてリーダーシップは取れるのか?

 日本はどこかに飲み込まれるよりも、どことも等距離を保っておきたいところですが、そのような外交は日本人がもっとも苦手とするところです。
 もし、日本が独自の経済圏を確立するとなると、一国の経済圏として捨てるべきものを捨て、取るべきものを取ることを決めなければなりません。
 これは政治家や官僚だけに任せておけばよい話ではありません。私たち1人ひとりも、目先の利益だけでなく、国家のグランドデザインを考えるべきときに来ているのではないか、そう考えています」

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【加谷珪一】(かや・けいいち)経済評論家
 1969年仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
 著書に「ポスト・アベノミクス時代の新しいお金の増やし方」(ビジネス社)、「新富裕層の研究-日本経済を変えるあらたな仕組み」(祥伝社新書)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「教養として身につけたい戦争と経済の本質」(総合法令出版)などがある。
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