富裕層があえて贈与税を払う理由
だが、それだけでは税金対策としては不十分だ。思うように財産を減らすことができず、結果的に多額の相続税がかかってしまう例も多い。今回は、具体的な例を使って「贈与での節税」を最大化する方法を見ていく。
相続税の現状
まず、相続税の状況を簡単に見ていく。平成20年~29年の相続税の概況を下に載せた。27年に相続税制改正が適用され、課税対象がそれまでの4%台の倍程度に増えていることがわかる。また、被相続人数・税額ともに上昇傾向にある。

また、今の日本で一番資産を保有しているのは高齢者だ。総務省によると、2018年には貯蓄の70%近くを60歳以上の家計が占めていたようだ。平均貯蓄額もグラフの通り高齢になるほど多くなっており、今後しばらく相続税収は安定して動いていくだろう。

贈与と相続の税額
贈与税と相続税額は以下の表のとおりだ。贈与税のほうが税率は高く見えるが、相続税は1回で課税されるのに対し、贈与税は複数にわけて財産を渡すことができるという違いがある。2つをわけて考えるのではなく、「どうすればトータルの税金が安くなるか」という視点で考えることが大切だ。

贈与税を払うことで税金が安くなる
全体の税金を安くするという観点から、1つ例を見てみよう。(諸々控除後の)相続税の課税対象額が5000万円で、5年間贈与を行うとする。
①何も対策しなかった場合
贈与税0円相続税 5000万円×20%-200万円=800万円 の税金がかかる。
②基礎控除内の110万円ずつ贈与した場合
贈与税0円相続税=4450万円×20%-200万円=690万円
③5年間毎年400万円ずつ贈与した場合
1年あたりの贈与税は基礎控除後の課税価格 400万円-110万円=290万円
贈与税額は 290万円×30%-30万円=33.5万円
になるため、5年間の贈与税総額は167.5万円だ。
相続税は
3000万円×15%-50万円=400万円
となり、贈与税+相続税=567.5万円となる。
この例では、年間110万円ずつ贈与するより、贈与税を払ってでも多く贈与したほうが全体の税金は安くなった。もちろん家族構成や贈与の年数で結果は大きく異なるが、富裕層はこうした視点を持ち、自分の資産を守る方法を考えているのだ。
贈与を行う上での注意点
毎年贈与を行い節税しようとしても、いざ相続が発生した際に贈与した分も相続税に含まれてしまうケースがある。せっかく贈与を行うならば、こういったことは絶対に回避したい。よくある事例と対策を紹介する。
①名義預金
通帳を親が管理し贈与した事実を伝えないなどのケース。名義は子供や孫であっても実質的には親が管理する「親の預金」であるため、相続財産に含まれ課税対象になってしまう。②定期贈与
例えば毎年110万円ずつ10年贈与していた場合、「毎年110万円ずつ贈与することが決まっていた」定期贈与とみなされて、合計の1100万円に対して改めて贈与税がかかるケースがある。上の2つを防ぐための方法としては、贈与のたびに贈与契約書を作成することが有効だ。贈与を受ける側がその事実をきちんと認識し、証拠を残しておけば名義預金とみなされることは防げる。定期贈与の回避のために、金額を少し変えるというのも有効なようだ。
③生前贈与加算
贈与をしてから3年以内に相続が発生したケース。この場合も贈与額が相続財産に巻き戻される。3の対策としては、「孫に贈与する」方法がある。生前贈与加算は、相続人でない者への贈与は適用外なのだ。法定相続人ではない孫に贈与することで、相続開始直前まで税金対策がとれる。
おわりに
今回は「贈与税を払うことで全体の税金を安くする」考え方について解説した。贈与税を払ってでも多くの財産を生前贈与した方が、最終的には得をすることもあるのだ。家族構成や年齢を考えて、税金対策を考える必要があるだろう。
なお、贈与は認知症になってしまったらできなくなる。こちらの記事で、認知症になっても有効な相続税対策(家族信託)についても紹介しているため、是非ご一読いただきたい。
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