金儲けを狙わず大富豪になった男

いくら儲け損なったか?

 「賃料という不労所得を稼ぐ社会の寄生虫」


森稔氏(学生時代)
 森氏が生前に不動産会社のことを例えていた言葉で、これが考えの根底にある。学生時代に小説家を志して仏文学に傾倒。こうしたマルクス主義的な発想から、今のアークヒルズや六本木ヒルズがあるのだろうか。ある不動産業者は次のように話す。

 「地権者との交渉も自社で全部やって、着手から20年近く時間をかけて竣工させても、(六本木ヒルズの)上層階はアカデミー、美術館、展望台にしたり、一番儲けられるおいしいところなのに…」

 普通の不動産会社であれば、どうやったら早く回収できるか、となるだろう。しかし、これで何億円儲けそこなっているだろうか。妻・佳子さんによると、時間が空くと、家では窓から東京の街を眺め、また、会社でも社長室から東京の街を眺めてばかりいたという。東京の地図を常に持ち歩くというエピソードもある。それだけ東京を愛し、そして、本気で東京を世界一の都市にしてやろうと考えていたことは想像に難くない。

 六本木ヒルズはライブドア、リーマンブラザーズが入居していたことで評判はガタ落ちとなったが、昨年の東日本大震災では自家発電施設が稼働するなど、森氏の先見の明は再評価された。

 また、森ビルを代表するもう一つの存在が、東京の官庁街の近くに群生するナンバービル。戦後、霞ヶ関の近くは、公益法人や特殊法人のニーズや、役所を相手に商売をする会社のオフィス需要があったので、うまいビジネスだった」(関係者)とも言われる顔があることも紹介しておく。これが発展して、本格的な都市再生に乗り出していったことは言うまでもない。

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