日本にこんなワインがあったのか~鳥居平(とりいびら)物語~

「ワイン専用」の旧国鉄トンネル

 赤は在来品種ブラック・クイーンとマスカット・ベリーAというぶどうをブレンドして醸造したものだという。この赤の濃厚で透明な色は、グラスに注がれ光が差すと誇らしいばかりに輝いている。開栓して時間が経つほどに味が変化していく。

 私はワインに詳しいわけではないが、お酒が好きなだけにワインも量と種類はたくさん飲んできている。その舌が言う。「これほど美味しいワインが日本にあったのか」と。私の常識では、美味しいワインはフランスやイタリア、ドイツ産に決まっており、米国でも「オーパス・ワン」がある程度だと思っていたのである。その常識が覆された。驚くのは早かった。


 近くにある旧国鉄の廃線跡のトンネルを利用したトンネルワインカーブを案内されると、そこには数十万本のワインが長い眠りについていた。明治36年に建造された1100メートルの旧深沢トンネルは、人工的な冷暖房をすることなく、ワインが熟成するのに最適な温度と湿度が保たれているという。

 次に、今村の自宅へ行き、地下のワインカーブを見学した。旧醸造場を利用して造られた地下カーブには、ワインの回りにクモの巣があちこちに張っており、壜はほこりにまみれている。暗くて静かでワインを熟成させるのに最適な地下カーブには5万本が貯蔵されているというが、いかにも年代を感じさせる風情だ。

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