「日本にこんなワインがあったのか」~鳥居平物語~(3)

ダメな物は長期熟成してもダメ

 「ここまで品質の高い日本ワインがあるのか」。


 芸能人や政治家が通うので有名な六本木の「新赤坂クリニック」。名誉院長の松木康夫は知る人ぞ知るワイン通で、六本木ヒルズのマンションの1室をワインの貯蔵室にしているほど。その松木が10年ほど前、「湯谷さん、今年のフランスワインは最高の出来だから、まとめて買っておけば10年後、必ず値上がりするよ」と勧めてくれた。

 いくらいい土壌であっても、その年の気候によりぶどうの出来は左右される。「当たり年」というが、暑くて雨量が少ない年に質・量ともに最高のぶどうができる。それがヴィンテージワインなのである。

 当たり年じゃない年のワインを長期熟成させても酢になるだけだ。今村英勇によると、「『鳥居平』でも普通の年のワインなら4~5年くらい寝かせたものが飲み頃」だという。

 ヨーロッパなど海外にはヴィンテージチャートといって、かなり古くからの生産年、産地、赤・白などでワインの出来がわかるものがある。しかし日本にはない。日本のワインは早飲みタイプばかりだからである。

 しかし、今村の家は初代から、良いワインができたら売らないで、相当程度の量を長期熟成させるという考えで取り組んできた。だからシャトー勝沼には103年物、105年物などのワインが現存する。それは醸造された当時のままの一升瓶に入って残っている。2代目も3代目も苦しくても売らなかったからだ。

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