「日本にこんなワインがあったのか」~鳥居平物語~(5)

ヨーロッパの真似をしても日本に向かない

 ぶどうの栽培法も異なる。山梨県でもワイン用のぶどうは多くがヨーロッパと同じ垣根作りで行なっている。ぶどうの樹を垣根のように並べて育てる栽培法だ。これがワイナリーの主流で、「格好も良いし、絵にはなるが日本では向かない」と今村は言う。

 フランスやイタリアなどは雨量が少なく、ぶどうの根が広く張れない。だから垣根作りで栽培している。

 「日本は土地が痩せているといってもフランスなどより肥えているから、根も張れるし、葉も張れる。しかも雨量が少ないといってもヨーロッパなどと比べると雨量が多く、湿度も高い。だから棚作りが向いている。根と枝や葉のバランスが重要なのです」(今村)。棚作りとは、生食用のぶどう栽培のように棚に枝を這わせて栽培する方法だ。

 雨量が多く湿度の高い日本で風通しの悪い垣根作り栽培を行なうと、病害虫が発生しやすくなる。現に数年前、ベト病が発生してぶどうが全滅したことがある。このように今村は、”ワイン用ぶどうの栽培は垣根作り“という思い込みを疑い、栽培法にも工夫をしてみた。

 ヨーロッパの真似をしてみても、気候も土も違うのだ。それは「自分の身体で体験して覚えるしかない」(今村)という。

 赤用、白用ワインともぶどうは糖度17%以上のものだけを使用する。醸造法も白ワインの場合、甲州種の特徴を生かし、ソフトな香りと味を楽しむためにぶどうの圧搾率を下げ、フリーラン液(タンクの下口を開いて自然流出する果汁)を中心に仕込みを行なう。

 破砕した原料(皮、種、果汁)をタンクに入れ、独自のワイン酵母を加えて仕込み発酵。発酵が終わると圧搾し、その液を熟成タンクや樫樽に移し替えて熟成させる。熟成期間は赤が3~4年、白が2~3年で、以後瓶詰めにされ、ヴィンテージワインだと長期の眠りに入る。

 では、なぜ樽のまま長期熟成させないのか。

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