家宝になると断言できる?
百貨店の時計フェアなどで参考展示される機会は、少ないとはいえ無くはないので、ぜひ足を運んでもらいたい。このクラスの品は、たとえ外商でも持ち出しにくいものなのだ。もちろん、手に入れる方法がない訳ではなく、受注生産のような形で日本からオーダーを入れることは可能である。
望めばスイスから見本が届く折に確認することや、スイスのブティック本店で実物を観ることもできるだろう。値段から考えれば航空運賃などはさほど惜しむに値しないだろうが、ヨーロッパについでの用事があれば好都合だろう。
新品の価格は、コンプリケーション(複雑時計)やダイヤモンドセッティングなどがあると1000万円を超えることが珍しくないが、シンプルなゴールドモデルなら、数百万円から購入可能である。
なによりエマイユ腕時計のコレクションは、日本に存在する数すら少ないことを、奇貨と考えてもいい。それは正倉院御物の同じルーツから分かれた名品の嫡流ながら、我らが日の出ずる国では、特に稀な品なのである。家宝になると断じるのに、そう躊躇はいらない。
◆(今回のブランド)*コレクションのためのヒント
また1755年創業ブランドは最近、数十年ぶりでの中国再上陸も大きな話題となっており、100年後にも間違いない名声が展望できる。
そのヴァシュロン・コンスタンタンの最新作が「メティエ・ダール」シリーズの「ユニヴェール・アンフィニ」。エマイユと彫金や宝石・貴石等のジェムセッティング、ギョーシェ(手動旋盤によるパターン彫刻)の手法を導入した、伝統の表現に新しい魅力を加える逸品群であり、世界中で注目されている新シリーズだ。それらは現代ですら極めて数少ない名工の手になるエマイユである。100年後にどれだけの価値を評価されるかは、ポジティブに考えていい。
文:並木浩一(桐蔭横浜大学教授) 構成:富永淳