100年後に家宝になる腕時計 第三回

 時を経た腕時計が価値を持つ絶対条件として、それが名品であることはもちろん、作り手が「よく知られたブランド」でなければならない。それは世界的なヴィンテージ腕時計オークションの繰り返しによって得られた、重要な経験則といってもいいだろう。

消滅ブランドは玄人だけの市場に


重力の影響による精度誤差を防ぐ「トゥールビヨン」機構 =写真右上部は、ハイエンドな機械式腕時計の証明
 20世紀初頭の品では珍しくない、美術用語でいう「アノニム(作者不詳)」つまり無銘の時計は、いくら技術的または美術的に優れた品であっても、正当な評価が得られていない。ヴィンテージの世界では、無名メーカーや、今では消滅してしまったブランドの品は、玄人好みの「お買い得」なカテゴリーを形成するのに留まっている。

 よほどの通でもなければご存知ないだろうが「ヴィーナス」「ランデロン」「エクセルシオパーク」といった往年の名ブランドによるクロノグラフなどが、それに当たるだろう。腕時計としては歴史的な粒ぞろいでありながら、いざ手に入れようとすると、品の良否や真贋をふくめてよほどの鑑定眼が必要になる。心強い目利きがついてでもいない限り、あまりお薦めしにくい。

 しかもマーケットの狭さ故に評価は上がらないことが多く、どこまでもマニアックの世界なのである。家宝になる腕時計は“知られざるブランド”から登場はしにくいといってもいいだろう。いっぽうで、支配的なほどの知名度を持つブランドの品は、価値が底割れしないものだ。

 そうした状況を雄弁に説明するブランドが「カルティエ」や「ブルガリ」といった、世界的ジュエラーでもある腕時計の作り手である。これらは腕時計で名を挙げる以前に、すでに世界的ブランドであった存在だ。

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