間違いない家宝に出会う
展示のあとに本国に戻され、二度と見る機会のない一期一会の品。しかし間違いのない家宝にするならば、こうしたモデルこそ買うべきである。こうした腕時計は、決して日本の国境から出してはいけないのだ。
買い手が想定されないから売られていないのであり、買う意思があれば事情が変わる。家宝レベルの腕時計は、そもそも売られているものを買うのではなく“発注する”という感覚に近い。
買い手の希望に応じたスペシャルオーダーも、大抵の場合は可能である。本国のアトリエに直接注文事項を相談しに行くこと、現地で納品を希望するようなことも珍しくはない。家宝の条件を満たす腕時計に限って、八百屋の品物のような売られかたは、決してあり得ないのである。
(今回のブランド)*コレクションのためのヒント 「コレクション ヴィルレ 1858」は、万年筆は言うに及ばず腕時計でも都会派ビジネスマンに支持を集めるモンブランの、知られざるハイエンドのシリーズ。制作するのはモンブランが傘下に収めながら、しかも敬意を表して「ミネルバ高級時計研究所」という名で創業地ヴィルレに残した、カリスマ的ブランドの末裔である。ミネルバはスモールセコンド3針「キャリバー48」、手巻きクロノグラフの歴史的名品「キャリバー20」で知られ、ギネスブックに収録された機械式ストップウォッチのトップメーカーでもある。現在ミネルバはモンブランの懐刀として、複雑機構の超弩級のモデルまでを制作。コレクターピースを想定したハンドメイドによる仕上げは極上のひとことだ。その中でもさらにミュージアムピース級の腕時計が、この独創的なスタイルのトゥールビヨンである。「モンブラン」と「ミネルバ」の二重のオーラに、時計自体の複雑な機構。家宝になる条件に隙がない。
文:並木浩一(桐蔭横浜大学教授) 構成:富永淳