破綻するブラック企業の楽しみ方(2)

セミナー出席者はたったの3人に

 社長発言の論法は“会社の常識”になっていて、上司が部下を説教するときも用いられた。いわば会社の思考回路になっていたのだ。だが、出席したオーナーは「幼稚な責任のすり替えで、聞いていて恥ずかしくなった」と話す。

 同様に、代理店募集を目的に全国の主要都市で開催したセミナーも、軽佻浮薄な内容で失笑をかった。セミナーは「無知からの脱却~企業の存続と成長にむけて~」と大上段に構えた題目で、都合のよい理屈で構成されていた。

 <挑戦なくして企業の存続はありえない。すべての企業が挑戦すべき課題は人材パワーの劇的な革新であり、無知から脱却する決意が不可欠だ。無知とは成功するための正しい方法を知らないことである。正しい方法とは、正しい習慣を身につけ、社員とともに夢を実現できる事業に取り組むことである。その事業こそ、想いを科学して仕組み化した我が社の代理店経営にほかならない>。

 こうした独善的な内容も、各代理店が好業績を継続していればこそ一定の説得力をもちうるが、現状はみずから窮状を告白しているようなもので、焼け石に水だった。セミナーの出席者は減少の一途をたどり、ある都市ではわずか3人にすぎず、やむなくセミナーを中止して個別面談に切り替えたほどだった。

 本業の衰退にともなって、この会社では新たな収益源の確保が喫緊の課題となった。

 関連会社に人材派遣、不動産仲介、保険代理などを担う数社をかかえていたが、これといった競争力がなく、成長を見込めなかった。社外から持ち込まれる案件は、健康グッズや成功実現プログラムの販売代行など小口の商いばかりで、収益性がとぼしい。事業のネタがすっかり枯渇していたのである。

 そして突如、多くの社員が呆気にとられる事態が起きた。

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