医師は治療を勧める方が楽
患者を慕う家族の気持ちは良く分かるが、長生きして欲しいと苦痛を伴う延命医療を強要しながら週に一度から月に一度程度しか見舞いにこない家族が多いのもまた現実だ。家族の気持ちの整理がつくまでの延命治療はやむ無しとしても、何年間も延命治療をしている状況は、さすがに気の毒でもある。
延命治療により、ある意味「尊厳ある死」が得られないようになってくるからだ。また、積極的な治療を希望しないとして、終末期を安心して過ごせる施設が少ない現状もある。公立のホスピスなども徐々に増えてきているが、数年待ちなんて事もざらである。いざという時に安心して過ごせる場所が病院しかないのだ。
医療従事者の立場からすると、患者に治療をしないことを薦めるのはひじょうに勇気がいる。たとえ現在の病気を治療したとして、二度と話すことも動くことも出来ないと分かっていても、病院に来た以上は治療をすることが務めという認識が大半の医師にはある。
治療する方が楽という思いがあるのも事実。医師だって終末期のお看取りより、病気の治療の方が得意でありやり慣れてもいるのである。患者本人の苦痛がなく、また家族/親戚の精神的なケアもしながらお看取りする事は決して楽ではない。
だが、終末期医療に精通している医師の数は多くない。だから老人ホームなどで状態が悪くなった高齢者がいるとすぐに救急車で病院に搬送する。自分で責任を取りたくないという心情も非常に理解のできるものである。