「ウソツキ検事はこうして生まれた」大阪地検特捜部証拠改ざん事件「闇の番人」田中森一(2)

本当は取り調べの可視化はない方がいい

――では、本来の意味で検察が信頼を回復するためには、どうすればいいのかと。

 「取り調べが国民にわかるように、可視化が必要だね。可視化をして国民の前にさらけ出し、検察の自己浄化を強制的にやるしかない」

――取り調べを可視化したら、田中さんが検事時代の取り調べはみんな問題になりますよ(笑い)。

 「自供を得るために大声で被疑者に迫ったり、夜中まで取り調べをしたり、まっ、わしの場合は堂々とだが、国民がびっくりするようなひどいこともやった。本当は取調官にとって可視化はないほうがいい。でも、筋書き捜査や国策捜査が公然と語られ、さらに証拠改竄まで発覚し、検察の権威がここまで失墜した以上、可視化を実行しない限り、検察への信頼は戻らんとわしは思っている。可視化によって取り調べが十分できず、罪のある人間が逃れてしまうという声もあるが、致し方ない。それよりも罪のない人を罪に陥れてしまう方が重大だ」

 検察組織に長年籍を置き、是が非でも事件を組み立てていく気力が失せてしまった田中は「もう捜査に燃えない。そんな私が特捜部にいたら迷惑でしょう」と、信頼する大阪地検特捜部長の留意を断り、17年間の検事生活にピリオドを打つ。87年12月のことだ。

 時あたかもバブルのまっ最中だった。弁護士へと転身した田中はやがて“闇世界の守護神”と呼ばれるようになっていく。

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