倒産企業の社員は評価されない?
「倒産した企業の社員は一時的な成功体験をもっていても、それはまぐれ当たりのようなもので真の実力には至っていないと、世間から評価されることはわかっていたので、次の仕事を見つけるのは大変だろうなと暗澹たる気分になりました。虫の良い話ですが、取引先に挨拶に訪問するなかで声がかかればなぁと皆で話したものです」
その日の午後には、信用調査会社が民事再生の申請を速報で流し、翌日の朝刊にベタ記事で掲載された。
取引先からの問い合わせも次々に入ってきたが、朝礼の際に総務部から全社員に対して、申請の事実のみを答えて、それ以上は話さずに管財人の弁護士事務所に連絡してもらうようにと指示されていた。混乱は起きなかった。
社員たちは重い気持ちを引きずって、取引先へ報告に出向いた。ほとんどの反応が同情と激励で、なかには「何か力になれることもあるかもしれないので、遠慮しないで言ってきてよ」と話してくる人もいた。年配の社長などは親身な態度で迎えてくれた。
「つらい報告なのにわざわざ足を運んでもらって申し訳ないね。あなたに責任はないんだから、これからの人生をゆっくりと考えなさいよ。必ず道は開けるから。一段落したら慰労会を開かせてもらうから連絡してよ」
社交辞令も混じっているだろうが、言葉だけでも励みになったという。