バブルで儲けた40億円は全額スッた「闇の番人」田中森一(4)

口が堅い加藤暠

 これには田中も呆れた。会議では東洋酸素の株を買うよう頼んでおいて、自分は売り逃げしようとしている。相場の世界は狐と狸の化かし合いだが、仲間も平気で裏切るのかと。

 「しかし今は仕手株自体が成立しない。バブルの頃と違い、今は5%ルールがある。株券や投資証券を5%超えて保有した場合、大量保有開示制度によって、金融庁の法定書類の提出が義務付けられている。大物仕手筋の買う株はハンパじゃない。仕手筋の名前が白日の下に曝されたら、その株の信用は地に堕ち、誰もその株を買おうとしないよ」

 旧誠備グループの総帥、加藤暠(あきら)は顧客に損をさせたら次の投資で儲けさせるというやり方を貫いていた。だから彼には根強いファンが付いていたのだろうと田中は分析する。おまけに口が堅い。

 81年に特捜部に25億円近い脱税容疑で逮捕されたときも、顧客について一切口を割らなかった。25億円の大半は顧客に還元され、加藤の儲けはさほどない。それを証言するために、顧客の名前を一人でも出せば、刑が軽くなるにもかかわらずだ。

 あのときは「加藤さんに任せた株取引で、2億円の利益を上げた」と証言し、加藤に助け舟を出したのは広域暴力団稲川会の石井進会長だった。ちなみにバブル期、東急電鉄の株の買い占めでは、石井会長がかなりかかわっていたことは公になっていた。

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