脱税は真実よりもリアリティでシラを切り通せ「闇の番人」田中森一(5)

バブル紳士は塀の中に落ちず

 金の動きという点では贈収賄事件でも、田中は秘策を駆使する。大西省二のという人物のニセ税理士事件。部落解放同盟と深い関係にある組織の税務担当部長を務めていた大西彼の逮捕は、長年癒着関係にあった彼と大阪国税局の贈収賄容疑の立件だった。捜査の過程で幹部から一般職員まで、100人もの職員が接待漬けになっている事実が明るみに出る。

 大西は高級クラブでの幹部署員の接待はもちろん、運動会等でも大量の酒と食べ物を差し入れている。弁護を引き受けた田中はこう大西に指示した。

 「接待した国税庁の人間、誰にいくら金を渡したか、署員への差し入れも、正直に検事に話しなさい」「えっ、そんなことをしたら…」「接待や現金の提供等があまりにも多いので、贈収賄は立件できんのですよ」

 贈収賄では渡した賄賂の目的がはっきりしないと罪に問えない。このケースはあまりにも接待や金品のやり取りがあったため、どの金品や金を何の目的で渡したか、立件ができないのだ。田中はそこの盲点を突いた。結局、国税局と検察庁の欠かせないパートナー関係もあり、検察サイドは贈収賄事件、脱税事件の両方で立件を見送った。

 バブルの紳士の多くは、塀の中に落ちずにすんでいる。例えば田中が顧問を担った「五えんや」の中岡信栄は2000億円焦げ付かせ、「拓銀を潰した男」と非難され、使途不明金は350~370億円あるとされたが、一度も捕まっていない。政治家への金品の供与は目的がない。単なるタニマチとしてだったからだ。

 「検事も弁護士も法曹界の仕事はしょせんドブ掃除だ。民事でも遺産相続や離婚等、法律が必要とされるのはドロドロしたこと。人間のいちばん汚い部分の後始末をする」

 「鬼検事」から「闇社会の守護神」と呼ばれた田中森一は、法律の本質をそう語るのだ。(文中敬称略)

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