ブラック企業と取り締まりはイタチごっこ
たとえば、経営危機を乗り越えて人の心に打たれたときなどが、改心の契機となる。
ある外食チェーンが創業して数年後に経営危機に陥って、他社の傘下に入ったとき、社員の給与を大幅カットせざるをえなくなったため、経営者は条件の良い会社への転職を促した。すると、一部の社員は「給料が下がっても社長のもとで働きたい」と残留を申し出た。この一件で、経営者の考え方はガラリと変わったという。
「それまで社員は自分の手足のようなものだと思っていましたが、それからは社員の人生を考えてあげるようになりました。皆、若いときの私がそうであったように、自分の店を持ちたいと夢見ている。そのために入社してきたのですから、夢をかなえてあげようと」
厚生労働省はブラック企業の調査や公表に乗り出すようだが、イタチゴッコに終わるだろう。ブラック企業には知恵袋の弁護士が就き、手を変え、品を変えて法の網をくぐり抜けようと動くものだ。多くの場合、経営者をすげ替えない限り、もちろん大株主からも外してガバナンスを刷新しない限り、脱ブラック企業への再生はかなわない。
厚労省の取り組みを機に、明らかなブラック企業からグレー企業への転身を試みる例が増えるだろう。裏社会で暴対法対象外の半グレが勢力を拡大したように、違法スレスレのグレー企業が跋扈する時代が迫っている――。
最後に、本連載をお読みくださった読者の皆様に感謝申し上げます。