企業のブラック化は経営者の「邪心」から 破綻するブラック企業の楽しみ方(12)

ブラック企業と取り締まりはイタチごっこ

 たとえば、経営危機を乗り越えて人の心に打たれたときなどが、改心の契機となる。

 ある外食チェーンが創業して数年後に経営危機に陥って、他社の傘下に入ったとき、社員の給与を大幅カットせざるをえなくなったため、経営者は条件の良い会社への転職を促した。すると、一部の社員は「給料が下がっても社長のもとで働きたい」と残留を申し出た。この一件で、経営者の考え方はガラリと変わったという。

 「それまで社員は自分の手足のようなものだと思っていましたが、それからは社員の人生を考えてあげるようになりました。皆、若いときの私がそうであったように、自分の店を持ちたいと夢見ている。そのために入社してきたのですから、夢をかなえてあげようと」


 以後、この経営者は奮闘して会社を買い戻し、ノレン分け制度を設けて社員を次々に独立させていった。会社が一部の債務保証を引き受けるため、相場以下の開業資金で独立できている。たぶん、独立した社員は恩義を感じて本社に尽くすだろうし、部下に対しても自分が受けた恩恵を受けつぐように遇するのではないか。

 厚生労働省はブラック企業の調査や公表に乗り出すようだが、イタチゴッコに終わるだろう。ブラック企業には知恵袋の弁護士が就き、手を変え、品を変えて法の網をくぐり抜けようと動くものだ。多くの場合、経営者をすげ替えない限り、もちろん大株主からも外してガバナンスを刷新しない限り、脱ブラック企業への再生はかなわない。

 厚労省の取り組みを機に、明らかなブラック企業からグレー企業への転身を試みる例が増えるだろう。裏社会で暴対法対象外の半グレが勢力を拡大したように、違法スレスレのグレー企業が跋扈する時代が迫っている――。

 最後に、本連載をお読みくださった読者の皆様に感謝申し上げます。

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