ITバブルの寵児、光通信の復活と謎の株売却

 ITバブルの寵児がアベノミクスのバブルで再び踊り出した。

 「光速で稼ぐ男」などと呼ばれ、最盛期には資産2兆円以上を誇り、あのビル・ゲイツ氏と並んだこともある、光通信の重田康光氏(48)が保有資産も自身とファミリーを合わせて約2564億円(11日終値ベース)となった。また、今年に入ってから、自身の保有株を2度売却しており、約160億円の現金を作るにいたったが、単なる節税なのか、今後の投資を見越したものなのか、動向に注目が集まっている。


重田康光氏(フォーブス長者番付より)
 同じITバブルで踊ったソフトバンクは華やかに報道されるが、光通信は現在ではメディアであまりスポットをあてられることはない。ただ当時は連日のように露出していた。

 96年に31歳で店頭公開、99年に34歳で東証1部にいずれも史上最年少で株式の上場を成し遂げ、社名になぞらえて「光速で稼ぐ男」とも呼ばれた。携帯電話ショップ「HIT SHOP」を軸に展開し上り詰めるのは一瞬だった。2000年には時価総額は7兆円を超え、個人資産も2.5兆円を数え、フォーブスの世界長者番付でビル・ゲイツ氏と並んで5位にランクされたほどだった。

 だが、転落も一瞬だった。

 ショップで架空の契約を行う「寝かせ」というやり方が横行していると伝えられ、さらに2000年の中間決算も赤字だったことで、株価も泡と消えていくことになった。20日連続ストップ安はいまでも、証券筋や投資家の間では語り継がれるほどだ。

 メディアからは一転して、手のひら返し。それ以来、カリスマは表舞台に立つことはなくなった。

 しかし、その後は販売代理店として直実に成長。「上層部はとてもインテリで紳士。現場は少々、粗っぽいですが、ノルマを必達する力があります」と、同社に詳しい経済ジャーナリストはいう。リーマンショック直後でも「子会社のマネージャークラスで、年収900万円以上、翌年からも昇級して年収1000万円などという高待遇で誘われたことがあります。ブラック企業耐性があるかどうかで判断されて、紹介されましたけどね」とは、あるビジネスマン。ある意味においては、それだけの業績を上げているということかもしれない。

     売上高    純利益

2011年  4490億円  -7億円
2012年  4990億円  78億円
2013年  5003億円  168億円

 業績の拡大とともに株価は直近1年で約2倍に、2年で約4倍になった。
 
 暗黒のアラフォー時代を過ごしたカリスマは、ひそかに復活していたのだった。「重田さんは会社にも毎日出勤していると言われているが、今後あえて表に出ようということはないだろうし、孫正義氏のように(球界に参入したり)エスタブリッシュメントになろうという気もないでしょう。株式の売却は節税なのか、新たな投資案件のための
資金作りかは分かりませんが」(同)。

 「寝かせ販売」の報道から、すでに13年が過ぎた。別のジャーナリストは「毀誉褒貶はあっても、これと見込んだ人物を早くから抜擢して育てるなど、人を見抜く目はあります」ともいう。30代で天才と言われ、40代を前にして苦しみ、そして50代を前にして見事な復活を遂げている。今後もひっそりと今のままで行くのか、表舞台に復帰するのか、それは本人にしかわからない。

◆重田氏の長者番付(資産、国内順位)
2013年 1500億ドル 13位
2012年 990億ドル 29位
2011年 圏外
2010年 660億ドル 38位
2009年 600億ドル 34位

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