現在52歳になる渡辺美紀さん(仮名)。東京で生まれ育ち、今も生家で暮らしている。現在の職業は清掃員。月収は16万程度である。だが、渡辺さんには驚くような過去がある。それは、20歳から30歳すぎまでの十数年の間に、5億円もの大金を稼いだという経歴があるのだ。
「お店が終わる頃になるとね、宝石屋さんや毛皮屋さんがやってくるのよ。その人たちが持ってくる毛皮のコートやジュエリーを見て、『次はどれを買おうかな?』と選ぶのが楽しみだったの」
そう語る渡辺さん。当時はバブル真っ盛りで、吉原は大勢の人でごった返していた。
どさくさに紛れてポン引きがインチキをして、「Tという店を探しているんですが…」という客を、「じゃあ、案内しますよ。どうぞ、どうぞ」とMという店に連れていってしまうこともあったという。
「そうやって荒稼ぎをする悪いお店もいくつかあったよ」と、風俗がいかがわしい空気を明らかに漂わせていた時代だった。
そんな中で渡辺さんは、とにかく働いて働きまくった。
「若い頃はお金が好きだったのね。でも、元々働くのも好きなのね。だから週に7日働いて、滅多に休みなどとらなくてもそれほど苦じゃなかった。休んでゴロゴロしているよりも、たくさん働いて、いっぱいお金を稼げるほうがいいじゃない」
ものすごく客が入り、オープンからラストまで食事をする休憩もなく、働きづくめた日もあった。そんなときには、二日で高級毛皮コートが買えたという。
「ある日働いたら、その日のお給料が15万だか16万だかそれくらいだったの。ふとお店に来ている毛皮屋さんが並べているコートを見たら、すごくいいのがあった。それでね、『それ、いくら?』って聞いたら『35万』って。でね、財布にもお金が入っているし、今日の稼ぎは15万だ。これ、明日も同じだけ頑張れば買えるんじゃない? って思ってね。『そのミンクのコート、買う!! 明日買うから取っといて』と買う約束をしたの」
当時、その店は、驚くように人が入り、次から次へと休む間もなかったという。帰る頃にはクタクタになり、タクシーに倒れ込むようにして乗り込んだそうだ。
「もちろん次の日も頑張って働いて。2日間働いただけで、そのコートを買えちゃったのよ」