米アップルは30日、ヘッドフォンメーカーでストリーミングサービスのビーツ・エレクトロニクスの買収を正式発表した。買収額は30億ドル(現金は26億ドル)。HIPHOP界のレジェンドであり共同創業者のドクター・ドレー氏(49)が「フォーブスのリストが変わるぜ」とコメントするなど、業界初のビリオネアに期待を抱かせる。一方で、8億ドル~10億ドル未満とする慎重な見方もある。
ビーツは2008年にドレー氏、元ユニバーサルミュージックのビリー・アイオビン氏らが創業。ハイエンド向けヘッドフォン市場では米国で半分以上のシェアを握っている。
過去に、台湾のHTCから1億ドルで買収されたこともあったが、後にHTCの経営悪化にともなって、ドレー氏らは買い戻し。結局、これがなければ現在の大きなM&Aにもならなかったことになる。
ドレー氏の現在の資産だが、フォーブスによると2008年に5億5000万ドルと見積もられていた。その資産の大半はビーツ株だとされ、ビルボードによると、保有割合は最大で25%とされる。同誌は、このディールによって、ドレー氏の資産が8億ドル以上になると見ている。
限りなく近づくが、まだビリオネアではないということだ。ただそれでも、アップルの役員に迎えられることが決定しており、今後の楽曲の版権、アーティストの肖像権などそうした収入も今後は見込まれるために、ほぼリーチをかけた状態であることに変わりなく、数年でHIPHOP界初のビリオネアになることは確実だ。
ビーツは2013年9月に、カーライルグループのデューデリジェンスで、最大で10億ドルとされていたが、その3倍の取引額となる。
ドレー氏はビーツを創業するまでは、西海岸のHIPHOP界の帝王、名プロデューサーとして名前を知られる。
80年代の「ザ・ワールド・クラス・レッキン・クルー」「N.W.A」で活躍、さらには90年代に入り、シュグナイト、デスロウの2レーベルを立ち上げたことで、「ギャングスタラップ」と呼ばれるジャンルを完全に確立。93年に手掛けたスヌープ・ドギー・ドッグのアルバム「ドギー・スタイル」が全米1位にも輝いた。
だが、不幸にも西海岸の隆盛は東海岸との抗争に発展する。ギャング、ヒットマンまで動員される大騒ぎとなり、1996年に2パックが銃撃によって殺害される。ドレー氏は血の抗争の仲裁に尽力した一人でもあった。
98年に、白人エミネムと出会う。白人は権力の象徴とされ、HIPHOP界では忌み嫌われる存在だった。周囲の猛反対を押し切ってプロデュースを買って出て自身のレーベルからデビューをさせるなど、常に先見の明を持ち合わせていた。
現時点でビリオネアになったかならないかはともかく、なるべくしてなる存在であることは間違いないだろう。