「富裕層の心に刺さると話題のベストセラー本、『億男』著者が本当に見た億万長者の世界」

お金持ちにしか見えないもの

川村:私は本書の取材を通じて、どうせなら10億円、100億円以上の資産を持つような、頂点まで行った人々の景色を見てみたいと思ったんです。まだお金が欲しいと登っている人は、山登りと同じで楽しいはず。でも、「これ以上稼いでも……。」と感じた人は、月面着陸した宇宙飛行士みたいなもので、普通の人には見えないものが見えているのではないかと。その景色を見てみたいと思ったのです。

高岡:私も先述の経験を生かしてネットワークを広げ、富裕層ビジネスを立ち上げたのですが、それも川村さんと同じような動機でした。そこで、日本最大級の富裕層限定クラブ「YUCASEE(ゆかし)」を創り、日本中の富裕層が集まる仕掛けを創りました。現代の富裕層に関する書籍も出版し、このコミュニティ等を通じて数千人の富裕層と接点があります。

富裕層も人それぞれ、色々な方がいるな、という感じなのですが、『億男』には十和子、百瀬、千住という3人のお金持ち出てきますね。川村さんからご覧になられた富裕層のイメージというのは、あの3人のキャラクターに集約されたということでしょうか?


川村:あの3人に集約されているというわけではありませんが、特徴的な姿を描きました。例えば、団地の押し入れに現金を隠している十和子の場合、あれは究極の貯金の形です。「とにかく使わないで貯めておくのが幸せ」という人です。絶対になくならないほどのお金がある、という安心感さえあれば、目の前の素朴な幸せに充足できる人なんですね。安心というものを買っているという意味では、保険に近いかもしれません。それらのお金がクルマや洋服に変ってしまった瞬間に不安になる。それが異常な貯蓄好きの実態ではないかと思います。

もう一人の競馬場でバンバンお金を使う百瀬は、ある一定以上のお金を持つようになった人の「不信感の象徴」です。たとえばある人が貧乏だったとして、女性が好きだと言ってくれれば、本当に自分を好きになったのだと信じられます。でも億万長者の男性が女性から好きだと言われたときに、自分が好かれたのか自分のお金が好かれたのか混乱している様を見た事がありました。

高岡:お金オンリーが目当ての女性というのは、いそうなようで実はそれほどいない気もします。

川村:以前はモテなかったのに、お金持ちになった後にモテた場合、「たしかにお金のせいでモテている」という見方もあれば、「自分の能力を世の中に示すことができて自信がついたからモテるようになった」というのもあるかと思います。それが男にとってどっちか分からなくなるというのが、いわゆる女性に対する不信感ですね。

お金のせいで不信感が出ることについては、友人関係にも言えます。たとえば、旧知の仲での飲み会で「友人だから割り勘にしようぜ」と金持ちになった人が言った時に周りに流れる「お金持ちなんだから、おごってよ」という微妙な空気とか。裕福になったのが良いのか、友人と割り勘で楽しく飲んでいたころの方が良かったのか。こちらを得ればこちらを失うというジレンマも小説の中で描きました。

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