収入レベルが高い家庭の子供は低い家庭の子供よりも視覚、知覚などをつかさどる領域の脳内皮質が厚いことが、米マサチューセッツ工科大とハーバード大の研究で明らかになった。これまで、子供の学力は遺伝か環境かという永遠の論争が繰り広げられてきたが、ここに新たな要素が加わったことになる。
米マサチュ-セッツ工科大(以下MIT)の発表によると、ジョン・ガブリエル教授(認知科学)らの研究結果では、54人の学生の脳をスキャンしたところ、高所得家庭の子供の方が視覚、知覚などの領域の皮質が厚いという。特に視覚や知覚の蓄積において働く分野で、大きな発達の差が出ていることを示す結果であるという。
被験者は12、13歳の54人の子供で、低所得家庭の基準は学校の昼食が割引措置が許可されているもの。同時にテストを行い、思考力、言語力、知覚力のスコアも同時に測定した。
これまでの研究では、1970年代に発表されたジェンセンの「環境閾値説」などが有名。与えられた環境の質が一定水準を超えると遺伝的な素質が開花するというもの。ただし、当時は人種差別などと絡めた議論が社会ではなされることも多かったことも事実で、反対意見もある。
一卵性双生児、二卵性双生児を対象として追跡調査も過去には行われており、米ミネソタ大学のトマス・ボーチャード教授らによる研究では、別々に育った一卵性双生児の方が、いっしょに育った二卵性双生児よりも高い類似性があったという遺伝の強さを示す研究もある。
ただし、最貧困層になればなるほど、遺伝的要素が下がり、環境的要因から影響を受けるという実験結果も得られている。
日本でも収入と学力の相関性について、タブー視されることはなくなっており、文科省の全国学力調査の結果をお茶の水女子大の研究チームが分析し、家庭の年収と子供の成績との相関性を調査した結果を発表している。
200万円未満 1500万円以上
国語A 53% 75.5%
算数B 45.7% 71.5%
年収200万円未満と1500万円以上では、正答率で明らかな大差がついているというデータが出ていた。
今回の研究は脳解剖学の立場から、脳内の発育で差が見られるという新しい要素が加わったことになる。