プロ野球巨人軍の監督に高橋由伸選手(40)が引退して就任し、これで慶應義塾大野球部OBとしては3人目の巨人軍監督となった。慶應と言えばOB組織の連合三田会の力が政財界や各界で強いネットワークを持つが、加えてもう一つの強さが学校への「寄付」だ。野球部も定期的に「強化費用」などの名目で、巨人などのプロ球団や社会人の強豪チームなどから寄付を受けている。寄付事情をここでは見てみることにする。
まず、慶應の野球部は名選手も出すし、名監督も出す、ということが言えそうだ。巨人軍に限れば、「野球は筋書きのないドラマである」という誰もが知る名言を残し、11年間で8度の優勝を遂げ「知将」と称された水原茂氏、巨人のエースナンバー「18」を背負い、また監督としてはONの狭間で結果を出した藤田元司氏がいる。高橋監督は40歳で現役最年少監督ということもあり、野球とばくで複数の関与者が出た巨人の再建にいやがうえにも期待は高まる。
・水原茂(1950~1960)優勝8回
・藤田元司(1981~1983、1989~1992)優勝4回
・高橋由伸(2016~
※敬称略
強化費は定期的な活動費用として使うものが含まれていると見られ、また、その他のものにはたとえば「下田野球場改修」「野球部創部110周年記念」などというものもある。1回あたり合計で200~300万円程度で、一人あたりの寄付額では数万円くらいだと見られる。さらに、グループも付け加えるならば、付属高校が甲子園出場を果たした際には「甲子園出場支援資金」という名目の寄付もあった。
ここ数年の間で機関誌「三田評論」などで確認できる範囲では、プロ球団では巨人、阪神、ヤクルト、西武、横浜DeNA、オリックス、中日、ロッテ、楽天の名前がある。12球団すべての名前は出てこないが、特によく名前が出てくるのは、巨人と西武である。
巨人は古くはOBの正力亮氏がオーナーを務め、現在は高橋監督が1998年の入団以来長らく中心選手として在籍したこと、また、OB大森剛氏も引退後はずっと球団に残っており、関係は長く深い。また、別名目での寄付ではあるが、親会社の名前も複数回出てくる。
西武は現役時代に活躍し現在はフロント入りしている高木大成氏、さらには来季からコーチに就任する佐藤友亮氏もいるなど付き合いは深い。
野球の世界は実力は言うまでもないが、「縁」がものを言う世界でもある。超高校級の選手にとって学歴は邪魔だとされるが、プロ野球選手が学歴を持つ意味としては、引退後にフロント入りした際の人脈がより広くパイプがそのまま仕事に使えるということがある。また、球団にとっても有力校とのパイプを持ち続けることはメリットも大きい。
社会人では、JR東日本、JFEスチール、JX、東京ガス、明治安田生命の名前が出てくる。また、取引実績があるのか、ミズノ、デサントといったスポーツ用品メーカー、用具店の名前も。
興味深いところとしては、有力OBで元横浜監督の山下大輔氏の実家が経営する会社も強化資金として数百万円を寄付している。
また、最後に付け加えておくと、実は高橋監督自身も「高橋由伸」という個人名で、2013年1月にまでに寄付を行っている。こうしたOBたちの寄付が、後輩たちに野球に専念できる環境を作り継承され、その中から名選手が誕生する下地となる。
◆慶應義塾大野球部出身でプロでも活躍した主なOB
・浜崎真二 山本昌広に破られるまで日本プロ野球史上最高齢公式戦出場記録を保持。阪急の選手兼任監督も務めた
・宮武三郎 阪急創世期の名選手。野球殿堂入り
・白木義一郎 阪急などで活躍し後に国会議員に
・宇野光雄 水原茂の下で中日時代にヘッドコーチ
・正力亨 大学時はマネージャーで、60年代から巨人軍オーナー就任。プロ野球界に絶大な力を持った
・中田昌宏 阪急で本塁打王を獲得し、オリックスでは球団取締役にも就任
・佐々木信也 藤田元司と同期で、「プロ野球ニュース」のキャスターも長年務める
・安藤統男 阪神のコーチ、監督を務める
・江藤省三 中日時代は代打の切り札として活躍し、巨人コーチ、フロント
・山下大輔 守備の名手として知られ、引退後は横浜の監督も
・大森剛 少ない出場機会で苦しんだが、編成として坂本勇人を発掘。AKB48大森美優の父としても知られる
・高木大成 西武でゴールデングラブ獲得、引退後はフロント入りし、現在はグループのプリンスホテル
・高橋由伸 巨人でベストナイン2度など通算1753安打の成績を残す。監督就任のために現役引退
・伊藤隼太 2011年阪神ドラフト1位
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