殺されないための有料老人ホーム選び

 「事故であるわけがない」。

 業界関係者の間で早くからそんな声が上がっていた、川崎市の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」(積和サポートシステム)で発生した入所者の連続転落死事件だが、そうした懸念どおり、職員が殺人容疑で逮捕されるという結末を迎えてしまった。業界特有の構造的な問題も含んでいるために、一言では言い尽くせるものではないが、施設選びがいかに大切であるかがわかる。自身のホーム選び、また、自身の親御さんのホーム選びで気をつけたい点を見ておきたい。

 Sアミーユ川崎幸町ではそれまでにも2014年に80代男性1人、80代女性1人、90代女性1人がそれぞれ転落死しており、短期間で計3人も転落死していたことが判明している。こうした事態を業界関係者は「高齢者が乗り越えられないような高さや設計にしてあるし、転落死なんて聞いたことがない。全国でもかなり珍しいケースだと思う。しかも連続して起きるなんてありえない」という。それだけでなく、全国のSアミーユの他の施設でも、問題が起きていたことも判明している。

 施設選びを間違えれば、それだけで不幸に成りかねない。選ぶにあたってどのような点に注意すれば良いのだろうか。ゆかしメディアでも過去に◆高級有料老人ホーム選び方最新版 お金より大切なものは?◆ブーム後の「サービス付き高齢者住宅」最新事情&選び方&ランキングとして取り上げているが、もう一度見ておきたい。

 まず、富裕層は無関係であるとタカをくくってはいけない。というのも、富裕層向けの人気施設は順番待ちが少なくないからだ。不本意にも自分の希望が通らずに第2希望、第3希望などとなっていくことも十分にあり得る。

◆施設の評判 これは最も簡単に調べられる方法で、評判が悪い施設はその地域周辺でも噂が必ず出ている。また、インターネットで検索してもすぐに出てくる。今回の事件があった施設は悪い噂が絶えず、「どうしてもという場合でなければ入居を勧められない」(同)とも言われていたほどだ。

◆施設見学・体験入居 家族同伴で2泊3日など体験入居ができるところが一般的。その際は施設面のサービスに目が行きがちだが、食事や行事などをよく見ておくといいという。その場には職員、入居者のほぼすべてが参加していることもあり、関係者をじっくりと観察できるからだ。その施設長の力量が見えるとも。そして、必ず複数施設の見学を行うことを勧める。また、見学に行く以前に予約や問い合わせのために電話をしただけでも雰囲気は伝わるという。ワタミ(現在はSOMPOケアネクスト)は「いらっしゃいと言わんばかりの本当に居酒屋のような威勢のいい受け答えだった」(同)、また、なかなか電話に出ない所や待たせる時間が長いところは、職員数に余裕がないとも言われ、それだけでも様子をうかがい知ることも可能。

◆職員の平均勤続年数 ベテランが多いかどうかは一定の評価になる。キャリアや熟練度が高いだけでなく、職員にとっても働きやすい環境かどうかを見る基準となり、施設の雰囲気を表してもいる。ただし、なかには問題を起こして退職した職員が別の施設でひそかに採用されてそのまま業界内で長くいるケースもあるというから、職員の業界歴が長いというだけでの信用は早計かもしれない。これは慢性的な人手不足で、すんなり採用されているだけだからだ。業界歴が長いというだけでなく、その施設で何年いるかに注意が必要。

◆病院との連携 病院が運営する施設は増えているが、どの程度の医療サービスを受けることができるかはきちんと確認しておきたい。病院と隣接した敷地に立地しながらも、診療時間が終了すれば診察は受けていないという施設もある。緊急時にはわざわざ遠くの病院に行ったり、救急車を呼んだりしたケースもあるという。

 また、入居率も見るのもいいが、入居率が低いから不人気とは言い切れない場合もあり、それは業界内の競争が激化していることも理由になっているからだ。殺人はもっての他だが、業界の構造的な問題もあるだけに、何もSアミーユだけの話にはとどまらない。いざとなってからではなく、ユーザーはせめて元気なうちに自分に合うと思う施設を見ておくことも必要になるだろう。

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