IRS(米国歳入庁)が、米国人富裕層が開設したスイス銀行大手UBSのシンガポールの口座情報を求めていることが、ブルームバーグの報道で明らかになった。UBSは現在のところ、情報を渡していない。銀行に厳格な機密保持を法的に義務付けたシンガポールだが、IRSの要求に対して、どのような対応を取るか注目される。
IRSの代理人が米フロリダ連邦地裁に提出した書面によると、事実関係は主に次のようになる。
台湾生まれで米国に移民した富裕層男性は、2001年までにスイスでUBS口座を開設していた。2001年までNECに勤務したこともあるというが、2008年に中国に移転し、コンサルタントとして2年半働き、その間に米国と中国を何度も行き来するようになったという。
UBSのスイスアカウントの残高は、2001年末に99万ドル以上(約1億1000万円)あった。それが2002年3月に閉鎖している。そして、同年の4月9日に、UBSのシンガポールオフィスにアカウント開設の打診を行っており、4月12日にはアカウントをシンガポールに移した。この点について、IRSは2012年2月17日に、男性に電話で連絡を取り、複数のアカウントを所有しているかどうかを聞いたというが、男性はUBSの海外口座の存在を否定していたという。
IRSによると、2006年から2011年まで米国に課税義務が発生するといい、IRSが把握している男性の年収は、2005、06、07税務年度でそれぞれ10万ドル以上だという。
UBSのスイスは過去、米国人富裕層たちの脱税をほう助したとして、7億8000万ドルを支払うことで和解したことがある。スイスはタックスヘイブン諸国ではほぼ米国の軍門に下っており、かつての秘匿性は期待するべくもないような状況だ。しかし、シンガポールの場合は政府が銀行に対して、スイスよりも厳格な秘密保持条項を課しており、さながら米国対シンガポールでもある。
タックスヘイブンの利点は大きく二つある。まずは税率の低さで、法人としてよく利用されている。そして二つ目が、情報の秘匿性で、富裕層個人にとってはこちらに大きなメリットを感じていることが多い。UBSは男性の口座情報の開示を拒否しているが、今後の富裕層マネーの動きを左右しかねないだけに、動向が注目される。