米国の大統領選の指名争いは5州で行われたが、現在のところ共和党はトランプ氏が優勢で3フロリダ州など3州を取った。7月の党大会までに過半数を獲得するのではないかとの見方も浮上している。候補者の中で最も資金力がありながらも、ライバル陣営の方が遥かに多くの資金を投下しているという皮肉な現象が起きていることも調査結果で判明している。
本題に入る前に、ちょうど今から5年前の2011年3月、トランプ氏は米ABCの人気報道番組グッドモーニングアメリカに出演し、大統領選のキャンペーンで6億ドル以上の資金を使うつもりであることを語っているのだ。
「6億ドル必要であるなら、(寄付などに頼らずに)集めなくても自分で出すし、リッチであること、それ自体はとても有利なこと」
オバマ氏が2008年の大統領選の際には、総額で約7億5000万ドルを用意したことが明らかになっている。この金額が一つの考え方の目安となっているようだが、6億ドル以上、もしくはオバマ氏と同程度の資金をつぎ込めば大統領になれると踏んでいたのだろう。
さて、2016年の民主、共和両党の大統領選指名争いの候補者たちがつぎ込んだキャンペーンの金額である。
◆フロリダ州
ルビオ 820万ドル
トランプ 220万ドル
クルーズ 39万ドル
サンダース 36万ドル
クリントン 27万ドル
◆イリノイ州
ルビオ 160万ドル
クリントン 140万ドル
サンダース 130万ドル
クルーズ 61万ドル
カシチ 22万ドル
トランプ 12万ドル
◆ミズーリ州
サンダース 140万ドル
クルーズ 77万ドル
クリントン 37万ドル
ルビオ 38万ドル
トランプ 21万ドル
◆オハイオ州
サンダース 230万ドル
カシチ 220万ドル
クリントン 210万ドル
トランプ 140万ドル
クルーズ 15万ドル
◆ノースカロライナ州
クルーズ 100万ドル
サンダース 97万ドル
クリントン 64万ドル
トランプ 23万ドル
※金額順
例えば冒頭のフロリダ州だが、マルコ・ルビオ下院議員のホームであるが、トランプ氏の4倍のキャンペーン費用にあたる約9億円を投下したものの、結果は完敗に終わった。特にフロリダは代議員数99人の重要拠点であり、トランプ氏がここで勝利したこともあり、その結果を受けて、ルビオ氏は選挙戦からの撤退を宣言するにいたっている。
投票行動あたりの投下費用が、トランプ氏が2.05ドルに対して、ルビオ氏は12.88ドルと、6倍以上も効率が悪いことになる。ルビオ陣営はトランプ氏のネガティブキャンペーンに資金を振り分けなければならなかったことも影響しているとしても、いずれにせよ、ホームでこの内容では撤退も仕方がないと思わせるに十分だろう。
7月の共和党大会までに、トランプ氏が過半数の代議員を獲得するのではないかという見方も出てきており、もはや、金に金で対抗しようとしてもかなり厳しいようだ。逆にトランプ氏は本当に6億ドルも必要ないかもしれない。
CNNの世論調査では、トランプ氏は富裕層ではなく中間、低所得者層からの支持が厚いということがわかっている。従来通りであれば共和党は富裕層や保守層に人気があるが、格差社会のあおりを受けている低所得者層からの支持で成り立っているという珍しい現象が起きている。
過激な発言が政治家やマスコミから非難を受けても、国民はそれも織り込み済みなのか、あるいは期待しているのか、とさえ思わせる。低所得層からの支持も厚いという、これまでにいないタイプの資産45億ドル(フォーブス試算)の大富豪。よほどの失敗がないかぎりは、このまま行きそうな勢いでもある。