ICIJによる「パナマ文書」のデータベース公開で、この情報戦の「黒幕」ともされる米国について語られており、米国人がパナマなど南米を使う場合は犯罪者などが多いということがわかる。36人の犯罪目的利用が判明しており、つまり、まともな富裕層や企業はネバダやデラウェアなどの国内の実質的タックスヘイブンを使っていることを裏付けてもいる。また、騒動のもう一方の主役である法律事務所モサックフォンセカが、米政府を恐れて米国人相手の商売をできることならしたくなかったと考えていたことにも触れられている。
日本時間の10日未明に公開された追加のパナマ文書の中には、米国関係は詐欺などの疑いで刑事告訴された人物が36人も入っていたと米紙ワシントン・ポストが伝えており、別の実態が見えてくる。日本では「脱税」だという受け止め方が多数を占めるようだが、実際には銀行や証券会社などの金融商品も使用しており、多くの国民が恩恵を受けていたりもする。実際は自国に戻す際に税金は取られたり、企業なら合算課税が行われたりする。それだけでただちに問題とは言いにくい。すでに名前が挙がったプーチン大統領、習近平主席ら各国要人のような汚職の隠匿が疑われるなどの場合の方が問題は大きいだろう。
タックスヘイブンはもともと麻薬取引などで使われたりしてきたが、匿名のペーパーカンパニーを設立して拠点として、いまだに犯罪が展開されているということも事実として浮かび上がった。
タックスヘイブンは租税回避地という意味だが、個人にとっては最も大きなメリットは匿名性。名義人にバンカーや法律家ら仲介者を立てて、受益者たるオーナーの名前は匿名にすることができ、また、株主も匿名にでき、犯罪収益をそこに貯めておくことができる。実際にいくつかの例が米国で起きている。
プロアメリカンフットボールNFLの元スター選手Leonard Gotsalkが、法律事務所モサックフォンセカの助言で2010年、英領バージン諸島に「アイリッシュミスト・コンサルティング」を設立。大学時代はオフェンスラインでオールアメリカンにも選出され、NFLではアトランタファルコンズでゲームキャプテンも務めた。引退後は実業家を営んできたが、このペーパーカンパニーを使って、新興企業の株価をつり上げるための、リベートを行ったりしてきた。
また、ネズミ講を行い詐欺容疑で逮捕され懲役に服しているロバート・ミラクルは、ドレッセルインベストメントを1994年にBVIに立ち上げた。石油会社の株式投資を募り、数千人規模のインドネシア人たちから、60億円以上の資金を集めた。その資金はペーパーカンパニーに蓄積され、一部は自分の口座に移された、マネーロンダリングが行われた形跡もあったという。
米国内のネバダ、デラウェア、サウスダコタ、ワイオミングの各州が実質的なタックスヘイブンに近く、まともな企業や富裕層は近場のこちらを使う。米国人にとっては、海外のタックスヘイブンを使う場合は「犯罪者専用」
という一面もあるということだ。このように、データベースが追加公開されたところで米国は痛くもかゆくもないことがわかるだろう。そして、もうひとつ大事な点に触れられており、それは、モサックフォンセカが米国人の顧客をあまりとりたくなかったという考えを持っていた点だ。
ICIJは、モサックフォンセカの共同代表ラモン・フォンセカ氏の「我々はポリシーとして、米国のクライアントは持ちたくない」という証言を紹介している。この意図は、米国人相手にこうしたスキームを提供した場合に、もしものことがあれば米当局から厳しい取り締まりを受けるリスクを認識しているからだ、という風に取れなくもない。
すでに米ホワイトハウスは、パナマ文書のリスト公表を前に、米国内に設立されたペーパーカンパニーの匿名オーナーの個人情報を開示させることができるよう制度化していくことを発表している。