迫る英国民投票 焦点は、経済への影響は

EU離脱で悪くなる? よくなる?

 イギリスがEUを離脱した場合、どのような影響があるのか? 悪くなるとして、残留を訴える人たちの主張は以下のようになる。

・イギリス、オズボーン財務相「緊急増税と追加の歳出削減は不可避」
・イングランド中央銀行「EUを離脱すれば世界経済に悪影響が出る」
・英アナリスト「ロンドンに拠点を置く銀行が移転を考えることになり、その費用を特別損失に計上することで英国経済にも悪影響がある」
・BDI(ドイツ産業連盟)マーカス・カーバー会長「ドイツの産業にとって、英国との将来的な取引関係をめぐる不確実性は明らかだ。ドイツ企業もコストの増大と事業の複雑化につながると懸念している。
 調査の対象としたさまざまな業界にわたる215社のうち、ほぼ半分がイギリス・EU間で規制変更の可能性があるため事業の複雑化やコストの増大を想定していると回答した。サプライチェーン全体の見直しを余儀なくされると答えた一方、ドイツ企業に対する関税引き上げも心配だ」


©Dan Kitwood
 EU離脱に不安を感じてイギリスから完全撤退しようとする海外投資家が、ポンドや英国債を大量に売ることで、大きく下落すると予想する投資家もいる。
 
 一方、離脱でよい影響があるとしている人たちの主張はこうだ。
・HSBCのベルト・ロウレンソ氏「EU離脱が決まれば安全資産であり、景気循環に連動しないという2つの特性を持つ英国債は、他の資産クラスよりも堅調に推移するはずだ」

 イギリス国債の安全神話は健在であり、債務返済歴が長い大国の1つである英国の国債は、ほぼ無リスクと考える声もある。あるアナリストは、イギリスがEUを離脱すれば世界市場に動揺が走り、英国債などの安全資産への需要がむしろ高まると見ている。

 また、離脱によるポンド安は英国の輸出企業には追い風となる。そもそもEUの様々な規制がイギリスにとってビジネスの足かせになっていたのであり、離脱でビジネスは加速すると考える人や企業も多い。
 約85億ポンド(=1兆3600億円)に上るイギリスが負担しているEU拠出金がなくなることも、離脱派の考える大きなメリットだ。

 離脱となれば経済が不安定なときに価格を上げる金が上昇し、相場は1トロイオンス=1400ドルまで上昇する可能性がある。

 イギリスのEU離脱は大きな影響があると考える人が多数いる一方で、経済に対しそこまで深刻な影響はないとしている人もいる。

・欧州中央銀行(ECB)のクノット理事(オランダ中央銀行総裁)「離脱すれば影響は著しいが、金融市場に重大な脅威となる公算は小さい。元々ユーロを導入せず自国通貨があるとわけであり、国家の財政が行き詰まったり銀行が破綻したりする重大な脅威はないだろう」

 運用会社パシフィック・インベストメント・マネジメント(ピムコ)のグローバル債券担当最高投資責任者(CIO)、アンドリュー・ボールズ氏、ブラックロックのチーフ投資ストラテジスト、リチャード・ターニル氏、ワドワニ・アセット・マネジメントのスシル・ワドワニ最高経営責任者(CEO)はウォール・ストリート・ジャーナルのイベントにて「国際的な影響は長期的に抑えられる可能性が高い。
 今秋の米大統領選挙など他のイベントのほうが、世界市場には長期的に大きく影響する公算が大きい」と語っている。

EUが歴史的転換を迎える

 仮にイギリスがEUからの離脱を決めれば、EU拡大60年の歴史にとって初の後退を意味する。
 EU創設以降の最近の30年で際立った動きといえば、急速な地理的拡大だった。EUの加盟国数はイギリスが加盟した1973年は9カ国のみだったが、現在は28カ国まで増えた。

 ユーロ圏の拡大ペースもほぼ同じで、1999年の11カ国から現在は19カ国となっている。
 この間にEUを離脱した国は1つもなかった。経済の縮小や失業率の悪化など、ユーロ圏に残留するためのコストが大きかったにもかかわらず、離脱を決めたところはない。一因には加盟前の状態に戻ったとしてもその悪影響が大きいことへの不安があった。

 今回イギリスが離脱するとなれば、同様に離脱を目指す加盟国が出てくることも予想される。残留を選んたとしても、EU主要国の1つがここまでEUのあり方に疑問を呈したことは、これから先のEUにとって大きな意味を持つだろう。

 世界が注目する国民投票は、間もなく始まる。

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