ボケは45歳から脳に磁気を当てて予防する

 高齢化社会を迎え、大きな問題になっているのが「介護」.
 特に「ボケ」認知症は介護をする側にも大変な負担を強いる。具体的な解決策もなく、日本人の平均寿命が伸びてきているこの先、認知症への対応はますます深刻な課題になっていくと言えるだろう。


最新の設備が整っているクリニック
 その認知症を、従来と異なるアプローチで予防しようというクリニックが昨日、オープンした。新宿白澤記念クリニックの白澤卓二最高顧問に話を聞いた。

「このクリニックが目指すのは『真のオーダーメイド治療』とでも言うべき、きめ細かく包括的な治療メニューの提供です。

 認知症は、残念ながらまだ決定的な対処方法が確立されていません。

 認知症になったらこの薬、というわけにはいかないのです。薬はあくまでも認知症の進行を遅らせるだけです。大切なのは認知症を発症しないこと、ということになります。

 かつては原因不明で進行性であり、不治の病とまでいわれていた認知症も、2013年に発行されたイギリスの医学誌『ランセット』に初めて、認知症は予防可能な病気であるという論文が掲載されました。

 その後研究が進み、認知症を予防するための方法はかなり確立されてきています。認知症のメカニズムも昔に比べはるかに解明され、どのような手立てをとればいいかが、かなりはっきりしてきているのです。
 当クリニックは、最新の研究結果に基づいた機械、技術を導入しました。

磁気でうつ病を治して認知症を予防!

 目玉設備の1つが、TMS磁気刺激治療です。特定の磁気を大脳の外側から脳の機能が低下している部位に当てて、その働きを正常に戻すという治療です。


TMS磁気刺激治療の様子。治療自体は非常に簡単
 ものすごく簡単に言うと、磁気の力で体のコリをほぐす、痛みをとる要領で脳から悪いものを取り除くということです。

 脳につく悪いもの、それはその人が受けているストレスです。特定の磁気を当てることで脳からストレスそのものをなくすことができる、そう思ってください。

 この治療法はうつ病への効果が高いと世界的に知られていて、2002年にカナダで承認され、アメリカでも開発が重ねられたのち、FDA(米国食品医薬品局)でうつ病治療の医療器具としての認可を受けました。

 認知症の大きな原因がうつ病である、ということはわかっています。うつ病の発症により、脳内の神経伝達に異常が起こります。脳の神経伝達の異常はアルツハイマー病を引き起こすことがわかっています。つまり、うつ病が進行するとアルツハイマー病の発症原因になる恐れがあるのです。

 逆に言えば、うつ病を回復させれば認知症を防げることになります。実際にこのTMS磁気刺激治療はうつ病の治療に高い効果を上げており、うつ病を完治させる、完全にうつ病になる前に戻すことができる治療です。

 しかも、この治療は副作用が一切ありません。磁気を当てると聞くと人体への悪影響を心配する人が多いと思いますが、そういったことはまったくないと証明されています。副作用など体への負担がないことから、長時間の治療も可能になります。今までできなかった治療も可能になるのです。

 さらに面白いことに、この治療を行うと慢性の腰痛も治療できることがわかっています。腰痛は座り仕事が多かったり、また重いものを運ぶことの多い人がなりやすいといわれていますが、直接の原因が不明で痛みが3カ月以上続く「慢性腰痛」を抱えている人がたくさんいて、厚生労働省の調査によると、腰痛を抱えている人の85%が慢性腰痛とされています。

 このTMS磁気刺激治療は、この慢性腰痛にも効果が高いと証明されています。実は慢性腰痛は脳の一部位の機能が低下していることで起きるという海外の研究論文があります。

 腰痛の原因は実は脳にあったのです。この治療で脳機能を回復させると、慢性腰痛も治療が可能になります。
 この治療を行う機械を置いているのは、日本では当クリニックと、提携関係にあるもう1つのクリニックだけです。

 TMS磁気刺激治療自体は非常に簡単です。機械で磁気を外から当てるだけ。特別な準備も必要なく、1回あたりの治療時間は数分程度です。
 どのくらい治療をしたらいいのか、はその人の病状に応じて異なりますが、数回~30回ほど行うことになります。この治療はまだ日本では保険の適用外なので費用はかかりますが、だいぶ安価で提供できる手筈を整えられました。

 また、大切なのはこの治療を受けて正常な機能に戻ろうとする脳が、新たな神経細胞のネットワークを構築するために必要な栄養を摂ることです。

 この治療に合わせて、毎日食べるものの献立を組み立てるといった、人それぞれの医療を提供していきます」

今まで気にされることのなかったところを治療し、認知症に勝つ

「もう1つ、当クリニックが力を入れているのが、別のアプローチによる認知症の予防です。
 フランスで発表された論文によると、人は40代後半、45歳頃から「推論能力」が低下し始めるといいます。推論能力とはすでに知っている言葉をつなぎ合わせる力です。認知機能の柔軟性、すでに持っているデータを柔軟に処理する力と言い換えることもできるでしょう。

 この能力の低下は、今まで見落とされてきました。決して忘れているわけではないので、いわゆる『ボケ』に直接関係する部分ではないとされ、既存の物忘れ外来に行ったとしても扱われることなく『正常ですよ』で片づけられてしまってきたからです。

 しかし、推論能力の低下はその後の認知症に大きく影響することがわかっていますので、当クリニックでは、その能力が現在どうなっているのかを正確に把握することを目指します。
『だいたいこのくらいの年齢からこういった症状の発症や機能の低下が見られる』と中央値を言うことはできても、症状には個人差がありますから、まずはその人の状態を正確に把握することが大切です。

 そのために提供するのが、コグニトラックス検査です。
 コンピューターを用いていくつかの検査を行い、脳の低下している能力等を数値化することで、視覚的にその人の現在の認知機能をとらえることができます。


「ゲームをしながら自転車をこぐ」イメージの コグニトラックス検査
 数種類のテストを行い、アプリで個人のデータとして記録します。その結果をもとに効果的な治療方法を提案し、次の検査でその数値がどのように変わったかを確認し、また新たな方法をお伝えする。それを繰り返していきます。

 そのほかにも、その人自身のバイタリティ、活力を高めるための様々なプログラムを用意しました。どんなに認知症になることを防ぐ方法を確立しても、本人に生きる力が高く備わっていなければ意味がないからです。

 私の友人の和田秀樹さんは『思秋期』と名付けましたが、45歳を超えるとだんだん心も体も衰えるようになっていきます。ここに立ち向かい、乗り切るための活力を備えていただきたいと思っています。


治療結果はすべて個人ごとに記録される
 また、高齢になると転倒が文字通り命取りになることがよくあります。転倒して骨折し、そのまま寝たきりになり認知症になってしまうケースです。

 寝たきりになると100%認知症になります。運動機能と脳の働きは密接につながっていて、寝たきりで歩行機能が落ちると脳機能も急激に低下するためです。

 そのため多くの病院などでは『転倒しないように』と言いますが、それは無理な話です。加齢に伴い足腰も衰えるので、どうしても転倒はしやすくなります。転倒しないようにと動かないことを求めるならそれは本末転倒です。

 大切なのは、転倒しても骨折しないしなやかな体をつくることです。そもそもの運動機能をできるだけ落とさない、また、転倒しても骨折しない、そのような体を保てることを目指しています。

 認知症に一発逆転のミラクルな治療は、残念ながらありません。ならば必要なのは予防です。介護は本人にも家族にも大変な負担を強いますが、認知症を予防することができれば、高齢期の生活の質を高く保てることにつながります。

 すべての方が認知症を予防し、100歳の誕生日をご自身でお祝いしていただきたいと思っています」

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