前回記事「その「指導」は「パワハラ」です!」で「パワーハラスメント」に関する問題を、特定社会保険労務士の野崎大輔氏に語っていただいた。
今回の記事では「社員に会社がパワハラで訴えられたら、どのように対応すればよいか」を語っていただいている。
「面倒だから……」は最悪の対応
「社員がパワハラで労働基準監督署(労基署)に訴えた場合、経営者はどうすればよいか?
私は『やましいことがないのなら、毅然とした対応をしましょう』とお伝えしています。
パワハラに限らず労働に関する紛争の解決は、膨大な時間と労力がかかります。
労基署から呼び出しがあれば応じなければいけないですし、書類の準備などもしなければなりません。過去にさかのぼって、いろいろ調べる必要のあるものも出てくるでしょう。
そこまで手間暇をかけて、一体何が得られるのか? 何も得られません。
紛争解決は何かを生み出したり、売り上げをつくるような性質のものではないからです。
問題社員は、労基署経由で駄目ならば弁護士を立てて、というように手段を変えて会社から金銭を取ろうとしてきます。そこで根負けして『面倒くさいし、これであいつがいなくなってくれるなら……』と請求された金額を支払う、これは何も良いことはありません。
こうしたことは他の社員も会社はどうするのかを見ています。『この会社はゴネれば金を払ってくれる』とわかれば、他の社員も同じようなことをやるかもしれません。
もし問題社員が他の社員に『お前もこうやれば簡単に会社から金を取れるよ』と言って、その言葉に踊らされた社員が問題社員化したらまた同じことをやらなければなりません。
こうした問題に対処すると同時に、私がアドバイスしているのは『今回は今後同じような問題が起きないように現状を見直す機会です。授業料だと思ってやっていきましょう』ということです。
労働問題が起きる会社は、訴える側がよほどの問題社員だとしても、やはり何かしら訴える理由があるものです。人事労務管理は後回しにしがちな課題ですが、こうした問題が起きて初めてことの重要さに気づくのです。
会社としては痛い経験ですが、今後発生しないように予防するきっかけができたと前向きに考えていくしかありません。
労働問題が起こらないのはこんな会社
今はどのような会社でもハラスメントを含めた労働問題が発生するリスクを抱えています。社員数4名の小規模な会社でも起きるし、大企業でも起きます。新しくできたばかりの会社で起こることもあれば、歴史のある企業での発生事例もあります。
給与が低いから訴えられるのかと思いきや、給与が業界の平均と比べても高いところでも起きています。
一方、どのような会社が問題が起こりにくいのかというと、“良い組織風土の会社”です。『朱に交われば赤くなる』という言葉があります。良い社員が多く組織風土も良い会社では、新たに社員が入っても先輩を見習って良い方向に変わっていき、組織に合わない問題社員は自然と辞めていく傾向があります。
そして会社の理念を社員も理解していて、社員もそれに向けて一丸となって動いている会社では、労働問題が起こりにくいのです。
こうした組織になるために社員に必要なのは、凡事徹底力だと思います。
凡事徹底力とは、小学校で先生に言われたようなことをしっかりやるということです。
挨拶をしましょう。友達と仲良くしましょう。時間を守りましょう。できることは自分でやりましょう。素直にしましょう。このようなことを言われたと思います。
子供の時に言われたことは社会でも求められることですが、実際のところできている人は少ないのではないでしょうか。周囲から評価されている人はこのようなことはできているはずです。
逆に悪い組織風土であればせっかく良い人材が入っても、だんだん悪い方向に染まっていくか、この会社にいても時間の無駄だと見限られて辞められてしまうでしょう。こうして悪いスパイラルに陥っていくのです。
ハラスメントを含めた労働問題が起こりやすく、離職率の高い会社を調べたところ共通していたのが社内のコミュニケーション不全であり、突き詰めていくと『挨拶をしていない』ということでした。挨拶はコミュニケーションの基本中の基本であり、挨拶はしていないがコミュニケーションが抜群に取れているという職場は存在しません。
やはり凡事徹底力を社員に浸透させることが大事なのではないかと感じます。
今までいろいろな労働問題に携わってきましたが、どんなに就業規則を整備しても、社員の辞めさせ方を覚えたとしても問題は防げません。
一番の予防策は良い組織風土を作るということだと思います。
良い組織風土を作るためには凡事徹底、小さなこと、当たり前のことを繰り返し、継続するしかありません。
そして面白いことに、企業の風土がしっかりできあがると、労働問題がなくなるだけでなく、売り上げや利益のアップというように会社の業績が良くなってきます。
良い組織作りが新しい会社の未来につながる、私はそう考えています」