前回記事では、副作用ゼロのがん治療「遺伝子治療」についてお話をお聞きした。
そのお話で、疑問が生じた。末期がんから回復させるなど効果の高い治療法でありながら、なぜ遺伝子治療は知名度も低く、ほかの治療法に比べて一般的でないのだろうか。取材陣の問いかけに、北青山Dクリニックの阿保義久(あぼ・よしひさ)院長は答える。
しかしこの治療は正規の許認可を得る段取りが全て完遂されないうちに、末期がんの患者さんに応用され、高い治療成果と安全性が確認されたので、代替補完医療として臨床現場で使われるようになりました。
実際は、標準治療では対処のしようがないという方を対象として治療を提供しています。
どういうことかといいますと、この治療法は、2001年にアメリカの南カリフォルニア大学で中国人と日系人のチームが治療薬を開発したことから始まりました。
すでに動物試験や安全性試験では治療効果が期待できると考えられていましたが、正規の手続きを経て公的機関からの許認可を得るには最低でも10年以上の期間を要します。そのような中、研究者の親族が末期がんと診断されてしまいます。
ここが中国人らしいとも言えますが、治療薬の開発者チームは正規の許認可を得ていないこの治療薬を、臨床応用も兼ねてその親族に投与したのです。
するとみるみる病状が回復し、その後も何も問題は起こりませんでした。開発者らは、この治療は末期がんのために有効な治療が得られず死を待つだけの方に一刻も早く提供すべきだ、と強く思いをめぐらしたようです。
その後間もなく、開発者の一人が日系人だったことが、その理由の一つだと思われますが、日本人の末期がんの方が何人も中国に渡ってこの治療を受け始めたのです。
そのうちに、定期的に中国で治療を受け続けている方々の中から、日本でもこの治療を行ってほしいという声があがるようになり、たまたま私に声がかかったわけです。しかし、このような未知の治療薬を患者さんに安易に投与することはできません。まず開発者たちと直接の情報交換を行い、背景となる論文や基礎試験の成果などを吟味しました。
その結果、科学的には問題なく設計された治療薬であると考えられました。何よりも目の前に、末期がんの患者さんでこの治療を受けて回復している方々が何人もいらっしゃったわけです。そして、その方々から日本でこの治療を提供してほしいと嘆願されたのです。
開発者の熱い思いと、他に有効な治療法が残されていない末期がんの患者さん方の強い気持ちを受けて、私はこの治療を開始することを決意しました。
もちろん慎重に治療を開始し、臨床経過を見極めながら試行錯誤の上で投薬量や投与法を決定していきました。
それは、新しい治療薬を用いる際に、許認可を受けている薬でも、通常は実践する行為です。口コミで症例は徐々に増えていきました。皆さん末期がんで有効な治療法はない方々ばかりでしたが、この治療でほとんどの方は何らかの改善効果が得られました。
さらに、一時的な発熱以外に大きな副作用はありませんでした。そうこうしているうちに症例数は徐々に増えていきました。
私が関わった100件以上の治療で、予期せぬ事故や不具合は1件も起きていません。現時点では安全かつ期待できる治療であると判断できます。いずれ、この治療も、大規模な臨床試験など然るべき段取りを経て、許認可を受けられるように進めていきたいと考えています。