「村の誇りを汚してはならない」
支援を行う前、谷川氏は心に決めていたことがあった。それは「絶対に上から目線にならない」ことだ。長年商社に勤務していた谷川氏は、赴任した先で現地の人たちに対して偉そうに振る舞う商社マンをたくさん見てきた。それがとても嫌だったという。
「日本のような発展はしていないかもしれないけれど、どこの村にも自分たちの誇りがあり、尊敬すべき文化や伝統がある。それを尊重しなければならない。上から目線の一方的な支援は意味がない。
また、この学校建設事業を通じて、日本人の勤勉さ、向上心、清潔を重んじる心など、日本のいいところも伝えたい」
そう考えた谷川氏は、日本から行きにくい、中国南部、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマーが接している山岳地帯に住む少数民族の村へ、なんとスーツにネクタイで向かった。日本の夏よりも暑い気候である。現地の人は誰もスーツなど着ていない。それでもスーツを選んだのは、失礼があってはいけない、きちんと敬意を表したいという思いからだ。
必要なのは「時間を味方にすること」だという。サラリーマン時代は「時間は敵」限られた時間、迫るデッドラインを前にいかに早く終わらせるかを追っていたが、アジアの村では「時間は味方」だという。時間をかけて何度も通い、仲間だと思ってもらうことが何よりも大切であり、コツは「急がないこと」だそうだ。
そうやって長い時間をかけ、信頼関係を築き、そのうえで村人が当事者として学校建設に関わり、村人の力で学校を維持していく。
AEFAはそれを支援する。学校に赴任した教師がよりよい授業をできるようになるための研修会を行ったり、日本の学校の教師が現地の教師を指導する機会を設けるなどしている。
そのような活動が12年続いていることで、AEFAの支援で建設された学校の卒業生が、教師として学校に戻ってきた例も出ているという。そのような例は、村の誇りになる。
学校の存在は、教育以外にも地域に大きな影響をもたらす。学校ができる以前は、よそから来て村人をだまして村人のつくったものを安く買い叩いていくような人がたくさんいたというが、学校ができたあとはそのような人が来なくなるという。学校があるからこの村は教育が普及していると思われ、だまそうとする人を遠ざける。学校は村の防御壁にもなるのだ。
「子供が変わるのを見るのは本当に幸せ」
アジアの山岳地帯に学校をつくることの効果は、現地だけではない。実は日本の教育現場にも効果が出ているという。
AEFAの活動理念の1つに「国際交流」があり、日本国内にも現地の学校との交流校をつくり、子供たちとの交流などを行っている。
日本で交流校を募集し始めた頃は「後進国から日本の子供が学ぶことなどない」というような反応がほとんどだったが、粘り強い交渉で、少しずつ理解者を増やしていった。そして現地校との交流は、日本の子供たちに多くの気づきを与えているそうだ。
ラオスやベトナムなどで、6~7歳の子が1歳の子を背負って学校に通っている様子や、村の人たちが助け合って暮らしている様などを知ることで、日本の子供たちは自分たちがいかに恵まれているかを知る。遠い距離を長い時間をかけて学校に通っている子供の姿から、苦労せず勉強ができることのありがたみを理解する。
「ラオスやタイのみんなは、助け合いながら学校に通っている。助け合うことは大切なんだとよくわかったと思う。みんなは、誰かを仲間外れにしたりなんて、しないよね?」
谷川氏がそう言うと、子供たちは全員、深くうなずいたという。
ほかにも、ある学校で、谷川氏が現地の村を引き合いに出して、食べ物の重要性を話した日の翌日。その学校の校長から電話があった。「お話をしていただいたあと、子供たちは誰も給食を残しませんでした!」
「私たちのしていることで、子供が変わるのを見る、こんなに幸せなことはありません」
谷川氏は、子供のように目を輝かせて熱く語った。
谷川氏が理事長を務めるAEFAは現在多くの寄付を集めているという。宣伝も営業も一切しておらず、ホームページで情報を発信しているだけだが、ホームページの内容をプリントアウトし、たくさんの線を引いたうえで質問をしに来る人もいるという。そして説明を受けたあとに寄付を決める。遺産を寄付するという申し出を受けたこともある。
校舎の建設には平均して1校舎当たり600万円ほど費用がかかる。数百万円を寄付して建設に関わるほかにも、数万円から必要な文房具などの購入資金を提供する、建物や設備のメンテナンスを支援する、教師など人材育成に奨学金を寄付するなど、形は複数ある。AEFA自体を支援する寄付の形もある。
金銭の寄付をする以外にも、AEFAは活動の参加者を募集している。
一味違った社会貢献をしてみたいという人は、アジア教育友好協会AEFAのホームページを覗いてみてはどうだろう。