ゴジラを見るとその当時の世相がよくわかる。
反核、文明社会への
アンチテーゼとしての誕生
ゴジラ誕生の裏には、水爆実験の強い影響があった。
ゴジラの第1作が公開された1954年は、アメリカの水爆実験により第五福竜丸が被ばくした年だ。ヒロシマ・ナガサキの記憶も生々しく、多くの人が核の恐怖を身近に感じていたときに誕生した。
水爆実験により故郷を追い出された、水爆実験の結果巨大化、怪獣化した恐竜というように作品により設定に差はあるが、ゴジラの誕生には水爆、核が強い影響を及ぼしている。
「ゴジラ」は大きいものと強いものの意味で「ゴリラ」と「クジラ」を合わせた名前とされているがこれは俗説で、その名前にも深い反核のメッセージが込められている。
「ゴジラ」の英語表記は「Godzilla」であり、後半の「ジラ」は、「ジーラモンスター」という毒トカゲからつけられたとされる。
では頭の「ゴ」は何か? その綴りの通り「神」である。水爆、核の開発は人類による自然、地球への挑戦であり、Godの名を冠する怪獣が人類の社会を破壊していく様は、人間によりつくられた文明社会への強烈なアンチテーゼであった。その強いメッセージが話題を呼び、1000万人近い人が映画を鑑賞した。
1作目が成功に終わったことで続編の製作が決定し、ゴジラはその後ライバル怪獣との対決路線へと変わっていく。3作目ではアメリカ発の怪獣、キングコングとの対戦が実現。1000万人以上が映画館に押し寄せた。
地球を守る正義の怪獣へ
日本は高度経済成長期に入り、人々の娯楽といえば映画が大きな地位を占めていた時代、映画会社は多くの観客が望めるものとして怪獣映画に期待を込め、ゴジラの東宝以外にも大映(現角川映画)のガメラ、日活のガッパなどが誕生する。
ゴジラはその後、主要な観光地より「うちの建物を破壊してほしい」という依頼が集まるようになり、大阪城、熱海城、国会議事堂、東京タワー、横浜ランドマークタワー、お台場など、主要な観光地、拠点を破壊していく。
ゴジラが破壊した場所を見ると、その時代にどこが繁栄していたのか、また完成したばかりのスポットだったのかがよくわかる。
ゴジラはその後「地球を襲う悪い怪獣から地球を守る正義の怪獣」というポジションに収まり、ほかの怪獣たちとの共闘などを通じて地球を守っていく。この頃には完全に、ゴジラは親子で楽しむ娯楽映画となり、毎年のように新作が公開された。
何度もベビーブームを経て、日本に子供が非常に多かった時期だ。
ゴジラが第1作以来の社会問題や文明に対する警鐘を鳴らす存在として描かれたのが、公害怪獣「ヘドラ」と対戦した『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)。当時社会問題化していた公害をテーマに、ヘドロから誕生した怪獣ヘドラにゴジラは苦しめられる。これまでとまったく異なるテーマに加え、作中でゴジラが空を飛ぶなど異色の作品となるが、その後ゴジラはふたたび正義の怪獣となり、その後しばらくゴジラの新作は公開されなくなる。
この頃には映画以外の娯楽が多々出現しており、邦画は斜陽の時代を迎えていた。
ゴジラが正義の怪獣でなく復活したのが、1984年。改めて街を破壊する恐怖の対象として描かれた。その後は従来通り別の怪獣との対戦もするが、人間や人間に味方する怪獣の力で、襲来した別の怪獣とゴジラが戦うよう仕向けたりといった形での対戦が実現している。
1995年の『ゴジラ対デストロイア』は、1954年公開のゴジラ第1作に込められたメッセージを改めて蘇らせた作品だ。第1作のゴジラを葬った兵器「オキシジェン・デストロイヤー」に関連した怪獣が敵として登場する。
ゴジラも愛媛県の伊方原発を襲撃するなど(寸前で破壊は阻止される)、現代人と核の関わり方に一石を投じるものとなった。
「シン・ゴジラ」の意味は?
この度公開される『シン・ゴジラ』は、日本で製作されるものとしては原発事故後では初の作品となる。
その意味でも、今回のゴジラには注目が集まっているが、製作の東宝は、新作に関してまったくと言っていいほど情報を公開していない。公開されているのは数本の予告編などわずかな情報だけだ。映画のPRを行う出演者たちも、内容については多くを語らない。
タイトルの「シン」の意味も明らかにされていない。巷でいわれているのは「新」の意味であるのは当然のこと、「真」の意味という説だ(ここ最近公開され、評判の悪かったハリウッド版に対する皮肉か?)。
これはあくまでもゆかしメディア編集部の推測に過ぎないが、「神」の意味も込められているのではないだろうか。ゴジラシリーズ全体を貫く「核」というテーマ、原発事故で日本人が改めて向き合うこととなったこの存在に、ゴジラは文明社会が築き上げた街を破壊しながら問いかける。
ちなみに、かつて自衛隊が「ゴジラと戦うなら」というテーマでテレビ番組の取材を受けたことがある。そのとき自衛隊員が語ったのは「映画のように、全方向からひたすらミサイルを撃つようなことはしない」ということだ。
怪獣映画やウルトラマンなどに出てくる地球を守る組織は、飛行機や戦車などで怪獣に攻撃しながら近づき、怪獣に破壊されるのが定番になっているが、猛スピードで前進する飛行機は怪獣に近づきすぎるうえ、離れる際は怪獣に背を向けてしまうという致命的な欠点がある。
Uターンにもある程度距離が必要なため、実はあまり効率的ではない。
戦車は動きが遅すぎるため、怪獣に認識されれば恰好の標的だ。
ではどのような攻撃が現実的にもっとも効果が高いのか? ヘリコプターのような一定の場所にとどまれる乗り物で、ビルの影などに隠れながら攻撃することだという。
確かにそれならば怪獣の攻撃を受ける危険性は低い。
また、攻撃も闇雲にミサイルを放つのではなく、爪や目、口の中など、弱そうな部位を狙うという。
さすが戦闘のプロだけあり、非常に説得力のある回答だ。
取材を受けた自衛官は「我々はそう簡単に負けたりしない」と力を込めて語っていた。
今回の『シン・ゴジラ』でその教訓は活かされているのか? 予告を見る限りだが、かなり足元(爪)と頭部(目、口)に向けてミサイルが放たれているのがわかる。
映像を見る限り、その攻撃がゴジラに効いているかどうかはわからない。
それだけ今回のゴジラが強いのかどうか、新作ゴジラに注目が集まっている。