「ヘッジファンド」のすべて 富裕層の投資の解説~運用成績10%超高利回り商品の購入方法まで 2020年最新版

目次

0.ヘッジファンドのすべて 前文

2020年は2008年以来の大きな市場の下落に巻き込まれ、再び分散投資先としてヘッジファンドへの注目が高まってきています。

通常の投資信託は、下げ相場の時は相場に身を任せて下がっていくしかありません。これはインデックス(市場平均)に対してどのくらい良い実績を上げるかということに重点を置く、相対収益を目指す投資信託においては仕方がないことと言えます。

このような下げ相場の時にリターンを出すためにはどうすればいいのか?その一つの解答としてヘッジファンドが挙げられます。市場とは関係なく絶対リターンを目指すヘッジファンドは、上げ相場だけでなく、下げ相場においてもリターンを目指す特徴があります。その特徴から、リーマン・ショックや2020年3月の大きな相場下落を潜り抜けることができたヘッジファンドも多数存在します。

例えば株式との連動性(相関性)が低いといわれるトレンドフォロー戦略のヘッジファンを組み込んだポートフォリオは、株式だけのポートフォリオよりリスクを大きく下げることができたことが確認できます。


S&P500とトレンドフォロー戦略のヘッジファンドXを均等に投資したチャート。比較としてS&P500を載せている。リーマンショック時や今年の下げ幅が限定的になっていることが分かる。

今回はサブプライムショックが起きる前の2006年から2020年の5月の期間で、S&P500と同じくらいの成績のトレンドフォロー戦略のヘッジファンドを均等に組み入れて試算してみました。均等投資ポートフォリオはS&P500に比べてリスク(標準偏差)を15.3%から12.3%に減らすことができました。またS&P500単体では月次の最大ドローダウンは2008年10月に記録した-18.38%でしたが、均等投資ポートフォリオでは2008年7月の-8.96%にまで減らすことができています。

現在ヘッジファンドは多くの機関投資家によって、リスクコントロールのための重要な投資先となっています。さらに一部の富裕層においては高いリターンを目指すための手段としても利用されています。

この記事ではできるだけ専門用語を使わず、ヘッジファンドについて説明をします。「ヘッジファンドとは何か?」という基本的なことから、ヘッジファンドの購入方法まで徹底解説していきます。

1.ヘッジファンドとは何か?

・1-1.みんなが大損しても唯一儲けているもの

なぜヘッジファンドが魅力的なのか? それは「上げ相場だけでなく、下げ相場でもリターンを狙うファンド」だからです。たとえば2008年に起きた「リーマン・ショック」。「100年に1度」とまで言われた大不況においては、それまでリスク分散の王道とされてきた、単純な資産分散投資は効果を発揮しませんでした。

1990年代に比べて2000年代に入ると、世界株式も不動産も、原油価格もすべての市場の動き連動性を高めてきてしまっています。普段は各資産ごとの値動きに分散投資効果があっても、危機時は急激に連動性が高まることが学術的に確認されています。

そうした中で、「景気が悪くてもリターンを目指す」というヘッジファンドの特徴が注目されています。正確に言うと「景気が良い時も、景気が悪い時もリターンを目指す」、それがヘッジファンドと言えます。詳しくはこれから説明していきますが、リーマン・ショックの時に「みんなが損したときに多くの有名ヘッジファンドは大儲けしていた」と思っていてください。

2020年の相場下落でも多くのヘッジファンドがリターンを上げています。リーマンショックの時と同じくこうしたファンドが、スターファンドとして成長していくことが期待されます。


機関投資家に好まれるリスクの少ないヘッジファンドの例。リーマンショックやコロナショックを含めた期間のチャートとなっているが、比較的安定した実績を継続していることが分かる。

投資において、リスクとリターンは比例します。たとえば表面上「絶対に損しない」ものとして銀行などの「定期預金」がありますが、お金を何年も預けて、どのくらい増えているでしょうか。まったくと言っていいほど増えていない、増えてせいぜい数円、数十円、多くても数百円でしょう。これはリスクを取らないため、リターンンも獲得できないという一例となります。

これが株や不動産などであれば、損するかもしれないものの、投資したお金がもっと大きくなる可能性もあります。ものすごく簡単に言うと、「儲かる可能性が高いもの(平均リターンがプラスのもの)は、(短期的には)損する可能性もある」ということです。

そのような状況で、過去の実績において「リスクあたりのリターンが大きい」のがヘッジファンドです。リスク当たりのリターンの効率性を測る指標として「シャープレシオ」がありますが、一般的にヘッジファンドのシャープレシオは高いことが多いです。

なぜそのようなことが起こりうるのか? 1つずつ説明していきます。

1-2.「とにかく安全」が目的の確実性の高い運用法

「ヘッジファンド」と聞くと、以下のようなイメージをもたれていることが多いようです。

・ほかの投資に比べると難しそうなもの
・ハイリスク・ハイリターンなもの
・お金持ちのしていること

一般的なイメージと異なり、多くのヘッジファンドは、ハイリスク・ハイリターンではなく、安定したリターンを目指していることが多いです。これはもともと「リスクヘッジ」を目的として、ヘッジファンドに投資している機関投資家が多いためです。

有名なハーバード大学の基金はヘッジファンドとヘッジファンドの一部としてカウントされることの多いプライベートエクイティを含めると37%をヘッジファンドに投資しています。目標リターンを達成しながら、リスクを抑えるために、多くのヘッジファンドを加えていると考えられます。


2019年2月4日追記

それではなぜハイリスク・ハイリターンなイメージがついているのでしょうか。それは多くの新聞や雑誌で取り上げられるヘッジファンドは、「リスクが低くて安定している」シャープレシオが高いような玄人好みのヘッジファンドではなく、皆がすごいと畏敬の念を抱くようなずば抜けた実績を出したファンド、例えば英国政府を打ち破った男ジョージ・ソロス氏やサブプライムローンで稼いだジョン・ポールソン氏のファンドであるためです。

残念ながらヘッジファンドに関しては、インターネット上にも不確かな情報があふれています。なかには各国の金融庁に登録していないような怪しいファンドも、ヘッジファンドと名乗っていることもあるようです。

リーマンショック以降は各国でもヘッジファンドに関する法整備が進められ、きちんと登録されているヘッジファンドであれば従来より投資しやすくなっています。

最低投資金額は10万ドルがひとつの目安となりますが、徐々に日本の個人投資家を受け入れるヘッジファンドも増えてきています。

「もともと積極的にお金を増やそうというものではなかった」

ヘッジファンドの成り立ちはその昔、ヨーロッパの貴族などの大金持ちが、財産をどうやって子孫に残そうかと考えたときに、安全な資産運用をする専門家に任せたことが発祥といわれています。

ヘッジファンドの「ヘッジ」とは、元々英語で「生垣」の意味で、高級住宅の周りに植えた草花などを指します。それが転じて「危険を避ける」の意味になりました。

また「ファンド」とは「預ける」の意味です。投資の世界で「ファンド」という言葉がヘッジファンドに限らずよく出てきますが、誰かに預ける形のものを指します。

昔のヨーロッパやアメリカは、戦争など数多くの動乱がありました。それらが起こるたびに経済は一気に変動し、インフレなどが起こりました。
コツコツ貯めておいても、インフレなどで現金は一気にその価値を失ってしまう。そういった経験をしてきたヨーロッパやアメリカの大金持ちは、資産を現金で持っていても貨幣の価値が変わってしまえば意味がない、資産を守るためには持っているだけでなく運用しなければならないと考えました。

そして信用できる専門家に「資産を増やさなくていい。減らさないようにさえしてくれれば」とお金を預けました。預かった側は、どうすればそのお金を減らさずに済むかを考え、行動してきました。そして、お金が減らない運用方法を編み出していったのです。

これがヘッジファンド(Hedge fund)の基本の考え方です。

金融商品の「そもそもの姿勢」は投資をするうえでとても大切です。そしてヘッジファンドは「着実に収益を上げていく」ことを目指しています。

1-3.「大きな儲けを狙う」ヘッジファンドも出現

ヘッジファンドはリスクをコントロールすることを様々な最先端の金融工学を利用していきました。その結果、投資の方法の手段が広がり、様々な投資家のニーズに応えられるようになっていきました。

その結果、多くの投資家が期待するような、リスクを「ヘッジ」して資産を減らさないことを重視した投資家向けのヘッジファンドだけでなく、リスクを負ってでも大きな結果を狙いにいく、ハイリスク・ハイリターンを重視した投資家向けのヘッジファンドも出てきました。

新聞や雑誌に出てくる「ヘッジファンド」は後者のハイリスク・ハイリターンのファンドが多いですが、それがヘッジファンド業界全体を表してはいないと思われます。


ハイリスク・ハイリターンのヘッジファンド例。 上記はグローバルマクロ戦略で、リスクは一般的な世界株の倍ある。度々ニュースなどで取り上げられている。

では実際にはヘッジファンドはどのように資産を守り、増やしていくのでしょうか。ヘッジファンドにおいては主にシステマティック型のヘッジファンドと裁量型のヘッジファンド、また市場のリスクを利用してリターンを出す方法と、市場リスクを利用しないアービトラージ型が存在します。また一部ヘッジファンドにおいては一般的な金融商品以外の裁判や診療報酬債権、割賦債権等のオルタナティブな投資対象を利用してリターンを上げていくこともあります。

1-4.ヘッジファンドがハイリターンなのに知られていない理由

ここまで読んで、こう思った方はいらっしゃらないでしょうか。
「そんなにいい商品ならば、なぜあまり知られていなくて、ほかの商品のようにたくさん売っていないのか?」。

その一番の理由は「広告規制」です。

一般的な投資信託とヘッジファンドの大きな違いは「運用規制」と「広告規制」の二つになります。投資信託は「運用規制」を受ける代わり、「広告」の規制を受けませんが、ヘッジファンドは「運用規制」が少ない代わりに、「広告」が規制されているのです。

規制によって多くのヘッジファンドはその運用会社のサイトに行っても、ファンドの実績を確認することができません。

また政府の規制の問題で、投資家の数が多いほど、情報開示などの規制が強く課されるため、少人数で投資することを好みます。

そのため、ヘッジファンドでは一人当たりの金額を高めに設定することが多く、最低投資金額は1千万円~10億円くらいのことが多いようです。ヘッジファンドは元々が富裕層の巨額のお金を運用する仕組みであり、動かす金額が大きいからこそできる運用をベースとした設定になっています。

こうしたことから大々的に好成績をうたって、資金を集めているヘッジファンドは存在しません。

ヘッジファンドの情報に個人が接触するためには、いわゆるゲートキーパーといわれるヘッジファンドの専門家を利用するか、ヘッジファンドの情報を専門的に扱っている高額なデータベースにアクセスする必要があります。

ただし最近は一般の人が投資する投資信託に準じた一般向けヘッジファンド(リキッドオルタナティブ)も出てきました。残念ながら現状はリキッドオルタナティブとヘッジファンドの間では規制に準じた運用をする関係で運用成績にかなりの差が生じてしまっています。

2.理解しておきたい「資産運用の形」と運用成績

2-1.自分で行う資産運用、プロに任せる資産運用

ヘッジファンドについて詳しくお伝えする前に、資産運用について簡単に説明します。
資産運用には大きく分けて「自分で運用する形」と「人に運用してもらう形」があります。

値が上がりそうな株や不動産などを買い、高くなったあとに売って儲ける、高いときに買った金融商品を安いときに売ったら損をする、それが「自分で運用する形」です。

相場を見ながら、この株や不動産が安いから買う、高くなったから売ると判断していく目やカン、分析能力が求められます。

個人が運用する場合とプロが運用する場合に、それぞれメリットとデメリットがあります。たとえば個人が運用するとなると、運用に成功すればそのリターンはすべて自分が手にできます。
規模が小さいなどで、プロは扱わないけれども良い金融商品を運用することもできます。

日々変動する相場を見ながら売る、買うをすべて自分で判断していくのは大変です。相場を見る目も、様々な判断ができる経験も必要です。仕事をしながら行うのはなかなか苦労します。

また「この株が値上がりしたので儲かった、この不動産が値下がりして損した」というように、運用成績は個別の銘柄による部分が大きくなり、トータルの運用成績は安定しないことが多いです。「1回大損してからは一切投資から手を引いた」という人もいます。

個人の運用で成功するためには、やはりある程度時間も労力も割く必要があるのではないかと思います。

そのデメリットを補う意味でも、投資をすべてプロに任せる形が存在します。運用のプロはお金を出してくれた人に代わって売る、買うを判断していきます。



「人に運用してもらう」ものの代表が投資信託やヘッジファンドです。
プロが代わりに運用するといっても、投資家のお金が100万円あれば100万円だけを運用するわけではありません。プロに運用を頼みたい投資家はたくさんいるので、プロはそれらのお金を集めて、扱えるお金が大きいからできる運用をします。

たとえばボックスティッシュでも1つずつ買うよりも5個セットのほうが1つあたりは安く買えるように、扱う数や量が大きいと得になるものはたくさんあります。

同じように、プロはプロだからできる金額の大きな運用や、プロでなければ扱えない金融商品を取り引きするなどして、投資家に利益をもたらせるようにしていきます。
また、どんな世界もプロでしか知り得ない情報などがたくさんあり、それは投資の世界も同じです。それらの理由から、運用に成功する確率はアマチュアよりも高いと言えるでしょう。

ただし、経験の豊富な専門家であるプロが相場に張り付いているからといって、必ず運用に成功するわけではありません。
市場が予想外の動きをして、大きく儲かることもあれば、大損することもあります。

こればかりは、プロだからといって損をしても責められないところです。市場を完璧に読めれば、誰でも大金持ちになれますから。

とはいえ、アマチュアは運用に失敗しても自分が損して終わりますが、人のお金を預かっているプロは「ごめんなさい」ではすみません。あらゆる手を使って、損をしない方法を考えています。

その方法のひとつが「分散」です。値上がりしそうなものと値下がりしそうなものを同時に買う、この先の伸びは少なそうだが大損もしなそうな先進国の債券と、大きく伸びるかもしれないが大幅下落するかもしれない新興国の債券を同時に買うなどして、市場がどちらに流れても損をしない形をつくっておくのです。

そしてプロが動いている限り、そのプロにお金を預けた投資家は、報酬を支払う必要があります。

また、プロはプロでやっている以上「今はお休み」ということはありません。アマチュア投資家は「今は状況が読めないので、しばらく売買はしない」というように「相場を休む」こともできますが、プロはそれができません。

たとえば市況がよいとは言えない「不景気」のとき、アマチュアは「今は投資しない」という判断ができますが、プロは「今、この状況でどうする」を常に考えながら運用します。
どんなに考え、頑張ってもやはり運用に不向きな時期はありますから、それを避けられないことはデメリットと言えます。

2-2.ヘッジファンドはどんなときもリターンを追求する 規制のないその手法とは?

プロの運用する投資商品として、投資信託とヘッジファンドのご紹介をしました。ヘッジファンドは投資信託とも、明確に違う点があります。ヘッジファンドの特徴は以下の通りです。

①「どんな環境でもリターンを目指す」絶対収益型の投資商品である
②投資先に関する細かい規制がない
③平均リターンが高く、リスクも低い商品が多い
④ヘッジファンド・マネジャーに預ける形が一般的
⑤ヘッジファンド・マネジャーは成功報酬を受け取る

①から説明していきます。投資信託はどのような形で運用するにせよ、基準としている株価自体がマイナスになった場合、投資信託の価値もそれに合わせて下がってしまいます。
要は「景気が悪くなると連動して運用成績も悪くなってしまう」ということです。

これは投資信託に限りません。不動産でも債券でも、景気が悪くなって価格が下落してしまったならば、そのときは購入価格も下がるので「買い」かもしれませんが、保有する資産の価値は下がっていることになり、そのときに売ったならば買ったときの価格を下回り、損する可能性もあります。
景気はコントロールできませんので、こればかりはどうしようもないことです。

しかし、ヘッジファンドは景気がよくても悪くても、リターンを目指します。景気がよければこれから値が上がっていきそうな資産を購入し、実際に上がったときに売ってリターンを狙います。
では景気が悪い、どんどん資産の価値が下がっていきそうだというときに、ヘッジファンドはどのようにリターンを追求するのでしょうか。

ここで②が関係してきます。ヘッジファンドと投資信託の大きな違いの1つ目は、「規制の量」です。投資信託は国の許可を得てきちんと運営することを保証されている分、「運用するに当たってはこの資産は使用してはならない」といった、国から課されているさまざまな規制があります。

ヘッジファンドはヨーロッパやアメリカのお金持ち向け商品からスタートしたように、元々は個人向け商品(私募債と言います)であったため、運用の内容に関する規制がほとんどありません。市場にある原資産で、もっとも効果の出そうなものを効率よく組み合わせていくことができます。
投資信託では使用できない、非常にリターンの大きくなる資産で運用することも可能なのです。

そしてもう1つ、この2つが異なるのが、ヘッジファンドは「空売り」を多用するということです。空売りとは簡単に言うと「将来値下がりしそうな株を狙って売り、下がったときに買い戻して儲ける方法」です。
そんなことができるのかと思われる方が多いと思いますが、可能です。そして有名な投資家のジョージ・ソロスは1992年、英国のポンドが暴落すると読んでポンドの空売りをしかけ、その後本当にポンドが暴落したことで、1日で10億ドルを超える利益を手にしました。

空売りの仕組みはこうなっています。
たとえば現時点の株価が1万円のA社という会社の株があるとします。その企業に何かしらの業績を悪化させる悪材料が出た、株そのものの数を増やすことになったなどで、株価の低下が予想される状況になりました。

このとき、現在1万円、生命保険会社などの「貸株」と呼ばれる株から借り、売却すると売却金額は1万円となります。その後その株が値下がりし9000円になった場合、市場でその株式を買い付けて借りた分を返済する、これが空売りの仕組みです。

1万円で売って9000円で買っているので、差額の1000円が儲けになります(株を借りることで発生する「貸株料」を保険会社などに支払う必要がありますが、ここでは説明を簡単にするため割愛します)。

空売りとはすなわち、「景気が悪いからこそ儲けられる方法」です。投資信託では空売りは基本的に規制の対象になっていて使用できませんが、ヘッジファンドは空売りを多用し、このような相場が下がっている状況でも儲けが出る可能性を追求します。



また、ヘッジファンドでは「先物取引」もよく使われます。先物取引とは「将来のあらかじめ定められた期日に、特定の商品(原資産)を現時点で取り決めた価格で売買することを約束する取引」です。

要は、相場が安定せず、将来的な値段がどうなるかわからないものを、どこかのタイミングで「○月○日にこれだけの数を、この値段で売買しましょう」と売り手と買い手で取り決めるのです。

実際の取引する日がきたとき、そのときの相場が以前に取り決めた金額よりも、高かったならば買い手が得して売り手が損をし、安ければ買い手が損して売り手が得をする、それが先物取引です。
これも投資信託では基本的に規制の対象になっていて使用できない手法です。

空売りと先物取引、これらの取引をうまく活用すれば、景気が後退、相場が下がっているときでもうまく利益を出していくことができます。ヘッジファンドは、このようにあらゆる手法を駆使してどんなときもリターンを出していきます。

2-3.180%超も! これがヘッジファンドの成績だ!

③について説明します。ヘッジファンドの、実際の運用実績として、 ある例をお伝えします。



この長期にわたる、高い運用実績をおわかりいただけるかと思います。このような運用に成功しているヘッジファンドがあるのです。

ほかにも同レベルに高い運用実績を出しているヘッジファンドが、たくさんあります。
これだけリターンが高ければ、さぞリスクも大きいのかと思いきや、ほかのもっとリターンの低い商品よりも、リスクは少ないものも多いのです。

なぜそのようなことが可能になるのか? 秘密は④ヘッジファンド・マネジャーに預ける形が一般的、⑤ヘッジファンド・マネジャーは成功報酬を受け取る にあります。
ヘッジファンドは前回説明した「プロが運用する形」の1つです。ヘッジファンドは高度に専門化、複雑化しているので、リターンを上げるためにはその道に精通した専門家による運用が欠かせません。

投資信託とヘッジファンドの大きな違い、簡単に言ってしまうと「投資信託の運用はサラリーマンが行っていて、ヘッジファンドの運用は経営者がやっている」ということです。

サラリーマンが運用しているとなると、そのスタイルは「無難」なものになります。あまりリスクを取らない運用を行う傾向があります。

無難というとその運用のほうがよいように感じられますが、人が買うときに売りに、値が下がりそうなときこそ買うが必要な投資の世界において、それは必ずしもプラスとは限りません。無難を狙った結果損をすることもあります。また、運用する人はプロでもサラリーマンなので、失敗してもすぐにクビといったこともありません。

投資信託の運用者がサラリーマンなら、ヘッジファンドの運用者は経営者と考えてください。運用に失敗すると信用と自己資金を失う、市場から退場させられる世界で運用を行っています。

サラリーマンに比べると本気度ははるかに高く、また攻めと守りの運用も行います。これだけ市場が短期間で動く時代においては、攻めと守りを両方備えた姿勢が必要です。

加えて、多くのヘッジファンド・マネジャーは、自分のお金も投資家のお金に加えて運用しています。いわばヘッジファンド・マネジャー自身も投資家なのです。

運用に失敗すると成果報酬を受け取れないだけでなく、ヘッジファンド・マネジャー自身も自分のお金を損します。だからこそ絶対に失敗できないので、しっかり投資家に利益の出る運用をするわけです。

ヘッジファンド・マネジャーは相場を読み、またコンピュータープログラムを有効活用するなどして、投資家から預かったマネーを運用してリターンが出るようにしていきます。

ヘッジファンドは情報があまりオープンでないうえ、高度に専門化していて、どのような運用でどのくらいリターンを上げているのかわかりにくい部分が多いため、ヘッジファンドでリターンを出し続けるためには、その分野について知識と経験を持つ専門家による分析が不可欠です。
そのためヘッジファンド・マネジャーの報酬は高くなっています。

世界でトップレベルのヘッジファンド・マネジャーになると、2016年は年間で16億ドル(約1700億円)を稼いだ人もいました。

有名なヘッジファンド・マネジャーとして、以下の人たちが有名です。
年収1000億円超ヘッジファンドマネージャー列伝2020年

3.ヘッジファンドのメリットとデメリット

3-1ヘッジファンドが「富裕層の投資」である理由

ヘッジファンドにどんなメリット、デメリットがあるのかについては、以下の通りです。

■ヘッジファンドのメリット

・どんな状況でもリターンを目指せる
・プロに運用を任せられる
・運用実績が良い
・リターンの額が大きくなる
・長い目で見てリターンを追求する

■ヘッジファンドのデメリット

・運用には最低1千万以上必要
・運用成績はヘッジファンドマネージャー次第
・情報が少なく購入方法が不透明
・海外で買う=為替リスクがある
・解約制限があり、自由に解約できない

ヘッジファンドは1億円程度から運用が可能ですが、ここ最近はもう少し少額、数百万円でもヘッジファンドの運用が可能なケースも出てきています。
とはいえ、金額の大きさはメリットにもデメリットにもなります。ヘッジファンドはある程度の額のマネーを投入するので、運用に成功すればドカンと儲かります。逆に、運用に失敗しマイナスになった場合は、そもそもの額が大きい分、損失も大きくなります。

また、運用はヘッジファンド・マネジャーに依る部分が非常に大きいので、ヘッジファンド・マネジャーが運用に成功すればリターンも大きくなり、ヘッジファンド・マネジャーが失敗すれば大きな損失となります。投資家は運用に関して細かい関与ができず、また、解約にも制限があり、自由な解約ができません。

そして、ヘッジファンドが主に海外の商品である以上、為替リスクのあるものがほとんどです。為替リスクとは、外国為替レートが変動することによる差益や差損を被るリスクであり、広義には価格変動リスクの一部となります。
外国為替レートはそれぞれの取引される通貨間での相対的な取引価格となっており、日々変動しています。

当たり前ですが、取引が日本円の投資商品に為替リスクはありません。外貨建てで取引されている投資商品にのみ存在するリスクです。外国の商品というといろいろ未知数です。日本のものなら信頼も置けます。それでもなぜ海外がよいのか?

3-2.なぜ海外に投資する必要があるのか?

「投資で大きな成果を挙げるならば海外の金融商品に」
投資の世界では常識と言える考え方ですが、それはなぜでしょうか。理由はいくつかあります。

理由の1つは、日本という国の経済成長に陰りが見え、これ以上日本の株や債券を持ち続けていても伸びに限界があることです。
もちろん日本にも伸びしろがたくさんあり、まったく伸びないわけではありません。ですが少子高齢化が進み将来の労働力不足、中国やアジア新興国の台頭などにより、残念ながらこの先大きく伸びていくとは考えにくいところがあります。

たとえて言えば、あなたが会社を経営しているとして、取引先がいつつぶれてもおかしくない業績不振な会社だけのようなものです。どんなに頑張っても、その会社からの売り上げで伸ばせる部分はわずかでしょう。

日本が財政破綻する可能性も、ないとは言えません。もし財政破綻したら円の価値が暴落、最悪の場合価値がゼロになってしまうかもしれません。そうなった場合、仮に現金で1億円を持っていたとしてもその価値はゼロです。

先ほどで言うと、少ない取引先が、ついにつぶれてしまった状態です。今後の売上がなくなるどころか、納品後に支払い予定の代金も踏み倒される、そんな事態。
今や、円しか持っていないことは大変なリスクになるのです。

投資はリスクを回避するうえでも「分散」が欠かせません。円の暴落の可能性に触れましたが、逆に言えば暴落するくらい円の力が落ちているときは、別の通貨が強くなっている可能性があります。円だけを持っていると暴落で価値は減ってしまいますが、その時に強くなっている通貨があれば、円のマイナスをカバーできます。

会社でたとえれば、取引先につぶれかけの日本の会社だけでなく中国のこれから伸びていきそうな会社、アメリカの着実に売り上げをもたらしてくれそうな会社も加える状態です。そうすれば日本の会社がつぶれてしまっても、なんとかなるでしょう。

投資も経営と同じです。何が起こるかわからない市場を相手に行いますから、リスクを分散し、不測の事態にも備えておけるようにします。

2つ目は、海外には日本のものに投資するよりもはるかに多くのリターンを上げられる金融商品がたくさんあることです。
あなたが車のメーカーを経営しているとして、日本ではもうそれほど新車を買う人は多くありません。売れても買い替えがほとんどでしょう。

ところが、最近急激な経済成長で豊かになった国などは「車がとにかく足りない。あればいくらでも買う」状態かもしれません。売上は日本国内のそれを簡単に抜くでしょう。

実は、世界のマネーにおける円の割合は、わずか4%です。米ドルやユーロが8割以上を占めています。投資信託で言うと、日本で買える投資信託は全世界で販売されている分のわずか3%です。円にのみ目を向けていては、出会うことのない金融商品がたくさんあるのです。

また、それらの商品には、円ではなしえない非常に大きなリターンを見込める商品もたくさんあります。


なお、「海外に投資」という言葉には2つの意味があります。ヘッジファンドに興味があり、購入したい、運用でリターンを得たいと思う方は、この点をしっかり理解する必要があります。

意味1:海外の株や債券に投資をする
意味2:オフショア商品(日本で登録されていない金融商品)に投資する

意味1はわかりやすいです。日本にある銀行や証券会社等を通じて、海外にある会社の株や、いろいろな国の債券を購入し、値上がりしたら売却すれば儲かります。

3-3.パナマ文書、パラダイス文書で注目「オフショア」「タックスヘイブン」の正しい意味

意味2は少々複雑です。
オフショアは「海外の、外国の」といった意味で、そこから転じて投資の世界では「国内の法律や規制が適用されない」という意味で使われています。何に関して法律や規制を適用しないのか? 税金です。
オフショアの地域は収入にかかる税金(所得税、法人税)を免除、または軽減していて、「タックスヘイブン(租税回避地)」とも呼ばれます。

タックスヘイブンは世界に50以上あるとされ、ルクセンブルグ、バミューダ諸島、ケイマン諸島、マン島、バージン諸島などが有名です。

それらの小さな国や島は収入を得る手段が限られているため、金融特区のような税制優遇措置を提供することで資金を集めています。

世界の富裕層が所有する金融資産のうち約30~40%がオフショアにあるとされ、また取引されています。
オフショアでは金融資産に対して譲渡益課税や利子・配当課税がかからず、相続税・贈与税がなく、国内(地域外)で得た所得に対して所得税・法人税が課税されません。これがオフショアの最大のメリットです。

オフショア地域では運用会社に源泉徴収等の義務がないため、その地域で登録されている金融商品に投資している投資家も、運用の途中で税金を源泉徴収されることがありません。

そして、運用利回りがまったく同じ金融商品でも、途中で課税されないオフショア地域のほうが運用途中の資金を厚くでき、運用効果は高くなります。

そのようなメリットがあり、秘密も守られることからこの場所ではシークレットな情報の交換、実際の取引などが活発に行われています。

ほかにも、オフショア地域には専門家が集まっています。たとえば、秋葉原などの電気街には同じようなお店が集まっているため、お客は安い、サービスがよいなど条件の良いお店を選ぶことができます。お店も選んでもらうために競争することでよりよい商品が売られるようになります。

オフショア地域でも、専門家が集まることで競争力が高まり、よりよい商品が生み出されるという好循環が起きています。

オフショアのメリットを以下にまとめます。

・減税・節税が図れる
・世界中の金融商品へのアクセスが可能
・資産防衛ができる
・プライバシーが守られる
・通貨への分散投資
・効率的な財産継承
・専門家が集まっているため競争力が高い

デメリットは以下です。
・犯罪につながる、マネーロンダリングの温床と思われる、実際になることも

その秘密主義なところはデメリットにもなり、気をつけないと「○○隠し」といった犯罪行為や、マネーロンダリング(脱税や麻薬売買など非合法に得た資金を、様々な金融機関を経由することで出所を不明にすること)に使われたりする危険もあります。

世界中で問題になった「パナマ文書」もオフショアの地域で行われていたことでした。パナマの法律事務所がタックスヘイブンに会社を設立して資産移転や資産隠しを行う手助けをしていたとして、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)が公開した膨大なファイル、それがパナマ文書です。

パナマの大手法律事務所モサック・フォンセカのアドバイスによって設立された数々のタックスヘイブンのペーパーカンパニーが存在し、その数は20万社以上にも上ります。
資料は1150万件、データ量は2.6テラバイトにも及ぶ膨大なもので、ロシアのプーチン大統領の親しい知人3人、中国の習近平国家主席、英国のキャメロン首相ら世界各国の首脳クラスの名前が出たために、世界中がその内容に驚愕しました。

日本に関係する企業と個人は約400あり、ソフトバンクの子会社、伊藤忠商事、丸紅をはじめ、東京電力など幅広い業種の大企業の名前が出ています。

ただし、日本のものはほとんど合法の範囲内で、日本企業がタックスヘイブンを使った何らかの商取引を広く行っているということが明らかになっています。

楽天、セコム、UCCホールディングスなどの代表者の名前も出ていますが、ほとんどは認められる税金対策の範囲内だと見られます。他にも著名宗教法人の名前もありましたが、実は宗教法人は古くからタックスヘイブンと強いつながりもあり、決して犯罪につながるものではありません。

決して誤解してはいけないポイントが、タックスヘイブンを利用した取引は、二重課税の防止という技術的な便宜性を理由に、投信やファンドの組成時にほぼ自動的に使われているだけで、それ自体が脱税を目的としたものはほとんどないということです。

最近では「パラダイス文書」も発見され、富裕層の税金の抜け道のように報道されましたが、結局は合法の範囲内である旨、せいぜい知らぬ間に名前が使われていて現在は関係がないといったことが証明されて終息しました。

そもそも日本には「タックスヘイブン対応税制」(外国子会社合算税制)という税制もあり、租税回避を目的としたタックスヘイブンの活用は困難です。

ただし、パナマ文書に関してアメリカ関係は詐欺などの疑いで刑事告訴された人物が36人も入っていたとされます。

タックスヘイブンでは名義人にバンカーや法律家ら仲介者を立てて、受益者であるオーナーの名前は匿名にすることができます。また、株主も匿名にでき、犯罪収益をそこに貯めておくことが可能で、実際にいくつかの例がアメリカで起きています。元々はオフショアが麻薬取引などに利用されてきた歴史もあります。

オフショアを活用するのは海外投資において常識となっていますが、税金をごまかそうという考えのもとで行われているものもあり、犯罪に巻き込まれないようそこは注意が必要です。

4.好成績ヘッジファンドの購入方法

4-1.日本の証券会社も扱っている?

ヘッジファンドの買い方は簡単に言うと以下の3つです。

①証券会社を通じて、国内投資信託として組成された商品を買う
②プライベートバンクの投資一任を通じて、海外ヘッジファンドを買う
③中立的な専門家である投資助言会社を利用して、海外ヘッジファンドを直接買う

①海外のヘッジファンドを日本の投信形式に仕立てたものを、国内の証券会社で購入する方法です。
近年は、日本の証券会社による回転売買の横行を嫌気して、海外ヘッジファンドは日本の証券会社にリテール商品として卸すことを控えているため、なかなか魅力的な商品がないのが難点です。
他方で最低投資単価も低く、誰でも買いやすいのがメリットです。

②プライベートバンク(外資系証券会社の日本支店)での投資一任勘定の中で、株式や債券等に加えて、ヘッジファンドに投資することが可能です。
難点は最低投資単価5億円以上と敷居が高いことです。クレディスイス証券、UBSウェルスマネジメントが人気です。

③は、中立的な専門家である投資助言会社などのサポートを経て、海外のヘッジファンドに直接投資する方法です。
間に介在する証券会社等を中抜きするため、上記①②の場合に比べて、投資家にとってコストメリットがあります。最低投資単価は1000万円と敷居も低くなっています。

参考)投資助言会社のサポートで、海外ヘッジファンドを直接購入するスキーム



出所)ヘッジファンドへの直接投資を支援するヘッジファンドダイレクト株式会社(関東財務局長(金商)第532号)
※スキーム図は同社会社案内PDFより

4-2.インターネットの偽情報やあやしい業者に注意

なお、インターネットで「ヘッジファンド」で検索すると、様々なページが出てきます。中には投資助言業や第I種金融商品取引業等の金融商品取引業の正規ライセンスを有してない違法な販売サイトも出てきますが、それらはまともな業者とは言えないため、注意しましょう。

また、ヘッジファンドに関する投資家ニーズの高まりの中で、「和製ヘッジファンド」と呼ばれる日本の運用業者による「ヘッジファンド的な運用」を行う投資信託もありますが、2018年3月現在、これらの投信は過去実績(投資パフォーマンス)に見るべきものがないため、イメージだけで買わないようにしたほうが無難です。

ヘッジファンドを買う場合には、「過去10年の実績が年利10%以上」を目安に、過去実績で定量的に選別したほうが良いでしょう。
また、世界ランキング上位であるとか、著名な賞を受賞しているか等の定性面も選別のポイントとなります。

5.儲けを決めるヘッジファンドの3つの戦略

今まで「ヘッジファンドとは何か?」を説明してきました。
ではどのヘッジファンドを選ぶのがよいかを説明します。
ヘッジファンドはどんなときでも利益を追求するとお伝えしましたが、儲けを生み出すための戦略は異なります。ローリスクのものがあれば、ハイリスク・ハイリターンなもの、ミドルリスクのものもあります。運用戦略により異なるのです。
大切なのは、自分に合ったもの、自分が行いたい運用の形をとっているヘッジファンドを選ぶことです。運営戦略で分類すると

A) シングル・ファンド
B) マルチストラテジー・ファンド
C) ファンド・オブ・ファンズ

の3つに大別することが可能です。
Aのシングル・ファンドはさらに以下の3つのカテゴリーに分けることができます。シングル・ファンドから説明していきます。



カタカナだらけになりましたが、1つずつ解説していきます。①ディレクショナル型は、市場全体の上げ下げによる収益を狙うもので、②レラティブ・バリュー型と③イベント・ドリブン型は市場全体の動きとは別に、運用者のスキルで収益を生み出していきます。

①ディレクショナル型の具体的な内容について説明します。

5-1.株式ロング・ショート戦略

ヘッジファンドの原型と言える手法であるとともに、現行のヘッジファンドの50%程度のシェアを占める中心的戦略です。ロング(買い)とショート(売り)を組み合わせていく手法です。
相対的に値上がりが期待できる個別株式銘柄群のロング(買い)と相対的に値下がりが期待できる銘柄群のショート(売り)のリターンの差を収益として狙います。

ヘッジファンド・マネジャーのスキルによって、市場が上昇したときにはロング側のプラスがショート側のマイナスより大きく、市場が下落したときには、ショート側のプラスがロング側のマイナスより大きくなることを目指します。

どこの市場から(グローバル、米国、欧州、アジア、新興国など)、どのような運用スタイルで、どのセクター(金融、不動産、テクノロジー、エネルギーなど)から収益を上げるかを、ヘッジファンド・マネジャーは判断していきます。
運用の判断については、ヘッジファンド・マネジャーの経験、分析力、洞察力などのほか、過去の統計やデータから得られた情報などを根拠に行っていきます。

5-2.(グローバル・)マクロ戦略

マクロ経済の観点からヘッジファンド・マネジャーが意思決定していく手法です。
かつては「ヘッジファンド=マクロ」とされるくらい一般的な戦略でした。為替・金利・株式・商品などあらゆる市場で市場のゆがみ・矛盾やトレンドに投資機会を見出すものです。そのときのトレンドを見ながら、市場の方向に関係なく利益を狙っていきます。

新たな手法が多々生まれたことから、かつてほどのシェアはありませんが、ヘッジファンドごとの預けられている資金の多さは今でもほかと比べても大きいものです。
ジョージ・ソロスやカイル・バスなどの有名なヘッジファンド・マネジャーがこの戦略をとっています。

5-3.CTA(マネージド・フューチャーズ)戦略

アメリカでは株式ロング・ショート戦略とならんで長い実績のある手法で、投資の判断方法はグローバル・マクロと共通しているものの、マクロほど投資の対象は広くなく、CTAでは投資対象が流動性の極めて高い上場先物に限定されています。

CTAはコモディティ・トレーディング・アドバイザーの略で、日本語では「商品投資顧問」となります。アメリカでは2500社以上がCTAとして政府に登録されています。
コンピューターなどを駆使してテクニカルに運用を行っていくことが多く、物理学的な感じがあります。


②レラティブ・バリュー型
ここからは、運用者のスキルで収益を生み出していく例を説明します。
レラティブ・バリューは、売りと買いを同時にしかけて、それにより一時的に価格のゆがみが生じ、それが正常な価格に戻っていく過程で収益を追求するものです。
安定性が高く、世界金融危機時も危機の影響が少なかった戦略です。

5-4.債券・金利ほか、様々なアービトラージ

レラティブ・バリューの代表的なものが債券・金利アービトラージです。「アービトラージ」は裁定取引のことを言います。

ヘッジファンド・マネジャーが本来の価格からかい離している債券を探し、割高なものをショート(売り)、割安なものをロング(買い)していきます。
債券の価値判断は多くの市場参加者にとって困難なことも多く、ヘッジファンド・マネジャーは専門知識や経験等から債券の価値判断を行っていきます。

そのほかにアービトラージの対象となるものとして転換社債、金利などがあります。

③イベント・ドリブン型
個別企業の重要な出来事、たとえば合併、買収、再生、リストラなどを投資機会ととらえる戦略です。企業が合併するとなった場合、それが効果的と市場が判断したならば株価は上がっていきますが、そうでないと判断された場合、株価は下落します。

たとえば、少し前にパナソニックが三洋電機を買収した際、パナソニックは市場価格よりも高く三洋電機株を買いました。そうすると市場にはその買収はパナソニックに損だと思われて、株価が下落します。それを見込んでパナソニックの株を空売りすれば、実際に下がったあとに買い戻すことで収益が出ます。

ほかにも、たとえば日経225(日経平均株価。日本を代表する企業225社の株価の平均値を加工したもの)にある会社が初めて選ばれたとします。そうなればご祝儀や期待を込めて株価は上昇することが予想されるので、選ばれた時点で株を買っておけば、株価の上昇後に売ることで収益を出すことができます。

要は、企業の本質的価値と関係なく株価が上下する場合に関連して収益を上げるのがイベント・ドリブンです。

ほかにも主に倒産した、もしくはしかかっている企業の債権を集めてリストラクチャリング(資本の再構成)を推し進めることもあり、「ディストレス(破綻)証券投資」と言います。

ここまでは、Aのシングル・ファンドについての説明でした。BとCの運営戦略について説明します。Bのマルチストラテジー・ファンドは、シングル・ファンドの各戦略を複数組み合わせ、単一のファンドとして運用するものです。

C)ファンド・オブ・ファンズ
「ファンド・オブ・ファンズ」とは、複数のファンドを組み入れる形です。一般的なファンドは、複数の株式や債券を買うことでできていますが、ファンド・オブ・ファンズはファンド自体を複数買い付けています。

ファンド・オブ・ファンズの長所として、運用の安定性を高める効果があります。既に複数の株式や複数の債券を買ったファンドをいくつも買うことになるので、分散効果が効いて運用の安定性がさらに高まります。
また、ファンド・オブ・ファンズを利用することで小口資金でも分散効果が得られるといった利点もあります。

デメリットとして

・複数のファンドが関係していることから、複雑で透明性に欠ける
・同じく関係しているファンドの多さゆえ、流動性に欠け、シングル・ファンドよりも解約の期間等の条件が厳しくなっている
・ファンドの数だけ報酬が発生し、全体的なコストが割高になる

といったものがあります。

ヘッジファンドを購入するうえで、どのような戦略をとっているヘッジファンドかは非常に重要です。細かい戦術についてはヘッジファンド・マネジャーが考えることなので投資家は知る必要はありませんが、全体の方向性や考え方については知っておく必要があります。

投資家が考えておくべきは、「ポートフォリオ」の形です。ポートフォリオとは「資産配分」のことです。
投資において大切なのは「自分の資産をどのように配分するか」です。逆に言えば、ヘッジファンドの運用はヘッジファンド・マネジャーが行い、投資家はノータッチである以上、投資家にできるのは「どのくらいの金額を何に投資するか」を決めることしかありません。

方針を決めたならば、それを理解したヘッジファンド・マネジャーに任せてあとは放っておきます。
運用が始まったならば、行うのは時々の状況のチェックのみです。
ヘッジファンドは解約制限がありますので、自由な解約はできません。

ですので投資家ができるのは、本当に「放っておく」だけです。

6.ヘッジファンドで儲けを手にするために

6-1.大切なのは「いつまでにいくら投資で得たい」と決めること

ヘッジファンドの戦略を考えるうえの根拠になるのが、「投資戦略」以前の「人生戦略」です。
言いかえれば「いつまでにいくら投資で稼ぎたい」と決めることです。

多くの人が、将来の不安から投資を始めます。もう日本経済の成長は止まった、今の収入をいつまで得られるかもわからない、稼ぎが増えないならば、稼いだお金を増やそう。
その考えはとてもよいきっかけですが、投資を始めるにあたり、目標の金額と時期を決める必要があります。

闇雲に「お金はとにかく多ければいい」と思っていても、投資は成功しません。それよりも「○年後に○万円がある必要があるから、それを実現させるために投資を行おう。そうなると投資すべきものはこの金融商品で、金額はこのくらい……」といったように具体的に考えていくことが大切です。
そこから、今の資金と将来追加する資金を運用してどのように増やすのか、具体的に数値化していくのです。

仕事でも、英会話でも、ダイエットでも、目標達成の近道は「いつまでにどうなりたい」という明確なゴールを決め、ゴールに向かう道筋を具体的にすることです。
投資もまったく同じです。人生のステージを考えて「この時にはこのくらいのお金が必要で、収入はこのくらいあるだろうから、足りない分は投資の収益で補う。投資で稼ぐべきは○○円」というように、目標金額と時期を設定します。

目標金額がしっかり定められたならば、「年10%の高い利回り」といった商品は、本当に必要なのかも考えることができるようになります。

もしかすると「利回り10%でも30年運用し続けなければならない金融商品」を買うよりも、「利回りは5%でも5年後には受け取れるお金を生んでくれる商品」のほうが、ありがたいかもしれません。
大切なのは「自分にとって何が大切なのか」です。

6-2.目標は投資額や人生のステージに応じて変わって構わない

もちろん先のことはわかりません。思わぬ出費が必要になったり、また予測していたよりも収入が多くなる可能性などもあります。そうなったならば、目標は状況に応じてどんどん変えてよいのです。
もう充分な額のお金が得られたのならば、投資はそこでやめるという選択肢もあり得るでしょう。

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