「原油価格の下落」が長くいわれている。2012年には1バレル120ドルを記録することもあったのが、ここ最近は40ドル前後になっているが一時期は20ドル前後のことさえあった。
技術革新が進んで採掘量が増え、原油が過剰になっているのだろうか? シェールガスなど代替エネルギーが発展し、供給に対して石油の需要が減っているのだろうか?
それらの技術革新はあるけれども、まだまだ石油の牙城を脅かすほどではない。にもかかわらず原油の価格が下がっている原因は一体何なのか? 実はその原因について、きちんとわかっている人は少ない。
ゆかしメディア編集部は、信用できる情報筋に取材し、「何が原油価格を下げているのか?」を解明した。
直接の原因はシリア、イエメン内戦
原油について知るには、まず「産油国の派閥」について知る必要がある。現在、世界一の産油国はサウジアラビアだ。
サウジはアメリカと良好な関係を築いており、アメリカも国内の石油の安定調達のためにもサウジに肩入れしていた。
もう1つの派閥がイランで、イランはロシアと、敵の敵は味方という協力関係にある。
シリア内戦に関してアメリカ、サウジアラビアは反体制、現政権打倒を目指す派を支持している。一方でロシア、イランは現政権を支持している。
イエメンの内戦の対立構造も、これに似た状況にある。
そこでサウジアラビアはライバルの産油国でもあるイランとロシアに経済的打撃を与えるために、原油価格の調整を行った。
サウジアラビアは価格調整をほかの主要産油国に同意させ、アメリカの合意も取り付けてイランに対する経済制裁が開始された。
原油価格が下がればイランとロシアは国内経済が落ち込み、内戦に干渉する余裕もなくなるだろう。内戦が終わり、その後でまた価格を戻せばいい――そう考えていた。
アメリカとイランの接近でサウジがピンチに
誤算は2つあった。1つはそれでもシリア、イエメンの内戦が収まらず、どちらも長引いてしまったことだ。
そしてもう1つは、その間にアメリカとイランの関係が良好になったことだ。イランに課せられていた経済制裁など様々な処置はだんだんと解除されるようになり、グローバル経済の波にイランも乗りそうな気配を見せてきた。
こうなって困ったのはサウジアラビアだ。せっかく無理をして原油価格を下げたのに、その目的はまったく果たされていない。しかも、自分と蜜月だったアメリカはライバルのイランとも仲良くしている。
もしここで「原油価格は下げても意味ないから元の価格に戻す!」と言ったらどうなるだろうか。今までサウジから買っていた国々は「じゃあイランから買うよ」となり、経済制裁解除後のイランはここぞとばかりに安価で市場に石油を輸出するだろう。
そうなればサウジの石油シェアは奪われてしまう。無理をして下げたことが完全な逆効果となってしまうのだ。
産油国と周辺を襲う深刻な不況
そして、ある意味一番の被害者は、サウジアラビアに同調して原油価格統制に加わったほかの産油国だろう。クウェート、カタール、UAEなどの国々は、完全に割を食った形だ。
原油価格統制を始めた頃はそれぞれの国に余剰資金があったため、原油の価格が下がってもある程度は持ちこたえることができた。
だが、戦争の長期化に伴う下落が長引き、石油の減産を行う動きもないことから、現在は非常に厳しい局面を迎えており、様々な政府主導プロジェクトの凍結、削減の話が多い。
原油価格が安いのは私たちにとってはありがたいことだが、国の経済の軸を石油に置く産油国には深刻な不況が訪れたと言える。
近隣の産油国相手のビジネスが盛んだったドバイも同様で、ドバイではフェラーリ、ポルシェなどの高級外車が放置されるようになってきた。
同国は倒産や破産における罰則が厳しく、時には投獄されるケースもあるため、持ち主が不要な資産をそのままにして夜逃げしてしまうのだという。
石油価格に依存していないドバイでさえこのように影響を受けるのだから、ほかの産油国の苦労は推して知るべし、と言える。
この事態は内戦が終わったら解決するのか? というと、そう単純ではない。現在の安い石油価格ではアメリカを中心に開発の進んでいるシェールガスがペイしないが、石油価格が上がると、シェールガスやほかのエネルギーが充分ペイできるようになる。「石油が高いならほかのエネルギーを使うよ」という話だ。
そうなると石油そのもののシェアが下がるかもしれない。
極めて政治的な理由による今回の原油価格下落。果たしてどのようにして決着するのだろうか。
後半記事石油下落で暴利を得たあの国の、次の戦略!に続く。