放置に対する罰則が強化! 空き家問題最前線

 現在日本全国で大きな問題になりつつあるのが「空き家」だ。総務省の「平成25年住宅・土地統計調査」によると、2013年の空き家は約820万戸、約7.4件に1件が空き家ということになる。
 野村総合研究所の予測では、2033年には約2100万戸が空き家、約3.3件に1件が空き家になるとされている。

※総務省が定めている空き家の定義には「まだ買い手がついていない新築住宅(賃貸/売却用住宅)」や「別荘(二次的住宅)」も含まれ、上記の調査にもそれらは含まれているが、本記事では空き家の「その他」の定義「上記以外の人が住んでいない住宅。長期不在や取り壊し予定、区分の判断が困難な住宅を含む」のものについて触れている。
 要は「誰も住まなくなる(った)主に地方の実家や親戚の家」を指す。

 空き家に関する問題や施行される法律、利用できる制度などを取材した。


空き家手帳のホームページより

空き家にはリスクがこんなにたくさん

 両親や親戚が他界し、自分たちは遠くに住んでいるためその家には住めなくなった、両親や親戚が老人ホームなどの施設に入ることになったなどで空き家は発生する。
「人が住まない家は傷む」といわれる。誰も住まない家は通気や換気がされず、劣化が早まるからだ。不動産としての価値もどんどん下がってしまう。

 人が住まないことで、庭の草木は手入れがされず、人が寄りつきにくい雰囲気になっていく。すると家の壁には落書きがされたりと、さらに地域の景観や治安を悪くする原因になることもある。
 空き家1つが、その地域の治安を悪くする原因になるのだ。

 その空き家に放火されることもある。自然発火が発生した際も、人が誰も住んでいないために発見や対策が遅れ、近隣を巻き込む大惨事になってしまう事態も、起こらないとも限らない。

 このように多くのリスクを抱える空き家だが、空き家の所有者は、どのような対策を取っているのだろうか?
 価値総合研究所の「空き家所有者アンケート」によると、71%の所有者が「何もしていない」と答えた。
 多くの人が、空き家をどうにかしなければとは思いつつも、「自分が育った思い入れのある家だから」といった理由で、手をつけずにいる。

 処分の費用もネックだ。築年数の古い建物だと、売却査定をしてもらっても不動産としての価値はほとんどつかないので売るにも売れない、壊すにも費用がかかるうえ、更地にしたほうが税金は高くなる。
 だから住宅の固定資産税を払ってそのままにしているというケースは多い。

 処分したいという考えはあっても、「相続が発生した際、相続人の1人の兄と連絡が取れないうちに期限が来て家を所有することだけは決まった。だが兄と話ができない以上、不動産屋に頼んでも『まずは相続を終わらせてもらわないと』と言われるだけ」といった、複雑な事態になっている家も存在する。

空き家を所有するリスクがどんどん増えている

 だが国は、空き家を所有だけして有効活用しないことに対して、厳しい処置を下すことを決めた。
 代表的なものが、空き家特別措置法の制定だ。

「特定空き家」と認定されてしまうと、多大な不利益がある。特定空き家とは、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、または著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」を言う。

 簡単に言えば「建物が崩れそう、傾いているなどしていて、不衛生で、見た目が汚い、そのまま放置するのはよくないと判断される空き家」だ。

 特定空き家と認定された場合、固定資産税の優遇措置が撤廃され、従来の最大6倍の税金がかけられることになったのだ。

 それだけではない。地方自治体から解体指導・勧告ができるようになり、勧告に従わない場合は強制代執行による強制解体が可能になった。
「ひどい空き家については市町村からどうにかしてほしいと指導が入り、従わなければ市町村の権限で壊す」ということだ。
 解体の費用も当然、後々に請求されるだろう。

 自治体も空き家の解体に力を入れ始めた。
 現在、全国約70の自治体で空き家の解体・除去費用の助成制度を設けている。東京都港区は上限を満たせば100万円を上限として工事費用の1/3を負担する。
 秋田銀行には空き家解体費用のローンがある。10~200万円まで、通常よりも低い金利で解体費用を借りることができるのだ。

 解体がされたとして、地方の過疎地にあるような土地に買い手など果たしてつくのだろうか。土地に価値がないからと、地元の不動産屋が相手にしないケースも多い。

空き家はよそ者には宝?

 多くの自治体で始まっているのが、空き家バンクだ。空き家バンクとは、空き家情報をまとめたウェブサイトのことで、空き家所有者と空き家を欲しい利用者とのマッチングを目的としている。
 現在では全国70%近い自治体が、それぞれ空き家バンクを運営している。


空き家手帳のホームページ。 空き家の所有者向け、空き家を利用したい人向けの情報が掲載されている。
 民間レベルでの運営も始まっている。空き家を探してはいても、同じ地域の人に売ることを目指しても需要のない地域も多い。民間サービス「空き家手帳Web」は、もっと大きな範囲での売買を目指している。

 古い建物だから売れないとは限らない。「古民家○○」として商業施設をオープンさせたいという需要もある。古いからこそ好まれるケースもあるのだ。

 不便なところにある建物でも、売れる範囲が大きくなれば需要はあるという。とても買い手がつかないような過疎地の外れにある空き家でも、IT企業が農業体験つきの研修を行ったりといったケースがあるという。
 通常業務は都会のビルの中でひたすらパソコンに向き合う仕事なので、大自然で携帯電話もつながらないようなところのほうが、研修には非日常感が出てよいこともある。
 都会の空き家使用のニーズは様々で、その数だけ空き家の有効活用方法があるのだ。

 空き家手帳Webのメリットはほかにもある。先ほどの相続人と連絡がつかず売買等の話ができないケースでは、まず相談すべきは不動産屋ではなく相続関係の弁護士や行政書士だ。
 自分たちは住めないが思い入れのある家を残し続けたい、できるだけ手を入れずに使い続けてほしい、となれば、必要なのはリフォーム以外の新たな活用を提案してくれる業者となる。

 空き家所有者のニーズは様々で、不動産屋に相談すれば解決するわけではないことも多いのだ。

 空き家手帳Webを運営する株式会社うるるの代表取締役、星知也氏は言う。
「空き家は様々なリスクを生みますが、だからといって壊してしまえばよいというものではありません。家がなくなるということは、そこに住んでいた家族の記録もすべて失われるということです。その家に住み続けることはできなくても、そんな単純に割り切れるものではないと思います。

 空き家を有効活用するとは、その家、家族の記録や思い出を守れるということです。そして空き家が空き家でなくなれば、地域ににぎわいをもたらすきっかけにもなります。
 日本全体の活性化のためにも、日本がこれまで培ってきた資産をどんどん有効活用することを目指したいですね」

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