報酬1位、リターン最大160%の天才ヘッジファンドマネジャー、シモンズ【ヘッジファンドマネジャー列伝④】

 2014年、2015年のヘッジファンドマネジャー報酬額のトップはグリフィンとなっているが、ほぼ同額の約17億ドルを稼いだとされるヘッジファンドマネジャーが、ジェームズ・シモンズだ。
 グリフィンの台頭以前は長年にわたり、何度も報酬ランキングの1位を獲得してきた人物でもある。
 シモンズ氏本人は積極的にメディアに登場することを嫌い、あまり素顔を知られていない。しかし、ヘッジファンド業界では、異彩を放つユニークな人物でも知られており、
 英紙フィナンシャル・タイムズには「最も賢い億万長者」と評されるなど、その評価は高い。

 シモンズの功績は、ヘッジファンドに数学的なアプローチを取り入れ、 コンピューター主導の取引の仕組みをつくったことだ。

 報酬の額で1位を分け合ったグリフィンもコンピューターを介した取引を行っており、昨年に報酬額で上位25位までに入ったヘッジファンドマネジャーのうち半分、上位8人に至っては6人がコンピューターシステムの使用者だ。

 その先陣、パイオニアとなったのが、シモンズだ。
 運用成績は最大で160%(手数料控除前)を記録している。

数々の受賞経験のある数学者

 シモンズはアメリカ、マサチューセッツの靴工場の所有者の子として生まれ、マサチューセッツ工科大学で数学を、その後カリフォルニア大バークレイ校で文学を学んだ。
 ハーバード大、マサチューセッツ工科大の両校で数学教授にも就いた経歴もある。

 数学者として「チャーン・シモンズ理論」として知られる理論を構築し、幾何学で最高の栄誉とされるアメリカ数学界のオズワルド・ヴェブレン賞も受賞しているなど、数学の世界で多くの実績を残した。

 シモンズはアメリカ国防総省の国防分析研究所に勤めるなどしたのち、相場で取引を開始した。勘と経験による投資の判断を数学的なモデルで置き換えられないか、自分に代わりコンピューターに取引をさせたいと考え、1970年代後半より数学に強い人間を雇い始める。

 そのなかの1人が、数論でアメリカ数学会の権威的な賞、コール賞を受賞したジェームズ・アックスだった。
 シモンズは1988年、アックスとメダリオン・ファンドを興す。コンピューターが生成したシグナルに基づいて商品・金融先物を扱うことになった。
 そのときの参画メンバーの1人、ヘンリー・ローファーが「市場があるイベントで混乱した直後にどう動くかのパターン」を発見した。市場に新しいデータが発表されると、それに伴い商品や通貨は急上昇、急下落するが、それまでその動きに法則性を見いだせていなかった。

 数学的な、きちんと統計的な見方をすれば、そのパターンを見分けることができる。そう考えコンピューターで何千ものイベントに対する何千もの反応をつぶさに観察した結果、シモンズのチームは一定の連動した動きを発見した。
 その連動性にしたがって投資をすることで、勝ちの確率を高めることができたのだ。

 その後、一度上昇した業績は急降下。シモンズは再び研究期間に入ることになる。
 失敗の原因などを分析し、「およそ可能な限りの市場で次々と素早く売買を行なう」短期シグナルを中心に据えて再出発。手数料控除後も56%の利益をマークする。

経済学者のいない運用チーム

 様々な数学者に関わってもらい運用を行った結果、この事業は拡大できると確信し、シモンズは数学者の雇用を増やす。物理学者、天文学者などもチームに加えたが、経済学者だけは雇わなかった。

 なぜ天文学者がチームに必要なのか? たとえば「朝の天気が良ければその町の証券取引所の相場は上昇する傾向がある」など、天気や数学的、物理的なことは投資の判断をするうえで非常に役立つ。

 そしてなぜ経済学者がいないのか? シモンズが追求したのは「数学を中心とした、形を見いだせるパズルとしての投資」の形であり、生身の実体経済ではなかったからだ。

 大きく見れば、市場はやはり効率的だが、小さな非効率は数多く存在する。それらを1つの取引プログラムに融合するところどころで発生する小さな非効率を効率に戻そうとすることで、それを年々積み上げていくシステムをルネサンスは作り上げた。

 混乱期ほどその方法は威力を発揮し、1994年には手数料控除後で71%の利益を上げ、2008年には手数料控除後で80%、控除前であればなんと160%の利益を上げた。

 シモンズはヘッジファンドの中心部のニューヨークやグリニッジ、ロンドンから離れたロングアイランドを拠点として、ライバルたちと距離を置いた。金融学に由来するアイディアには一切興味を示さず、コンピューターを用いた運用に関わってきた。

 当時は異色の存在だったが、今では多くのヘッジファンドマネジャーがコンピューターを用いていることからも、時代が彼に追い付いてきたと言える。

 ルネッサンスのオフィスはテニスコート、金魚のいる池、階段に日の光の当たるエントランスホールのある建物に移った。
機密を厳守する上でも組織は外部に対してはクローズドだが、内部にはとことんオープンでチームワークを大切にする。サラリーも個人の成績ではなく、ファンド全体の利益に連動するなど、チームでの成績にこだわりを見せるこのチームが約3兆円を運用している。

 今年78歳になるシモンズは2010年に引退。その後も2014年にはルネッサンステクノロジーが長年にわたり総額60億ドル以上の租税を回避していたとして、資産隠しの疑いで捜査を受けるなど紙面を賑わせた。

 シモンズの引退後も、ルネッサンスのルネッサンス・インスティトゥーショナル・イクイティーズファンド(2005年設立)は今年前半のリターンが13.8%、イギリスのEU離脱に伴う動きをつかみリターンを出した。
 ルネッサンス・インスティトゥーショナル・ディバーシファイドアルファファンドは前半のリターンが11.3%を記録した。

 シモンズ自身はシモンズ財団を設立し、アメリカの数学の発展や自閉症研究などに10億ドルを寄付しているほか、近年はインタビューを受けるなどしている。

ルネッサンスの近年の運用実績

 Renaissance Technologiesは、大量の市場および株式データ(3,300)を分析して売買の機会を得ている。多くの投資家が狙うような大きな市場のゆがみではなく、小さな歪みをたくさん見つけて、それを全体を管理するプログラムで管理しながらポジションを構築していく運用は、従来の投機的な運用を好むファンドマネージャーとは異なり、数学者の運用を体現したものといえそうだ。

 ルネッサンステクノロジーの安定した実績は有名だが、実際にはルネッサンステクノロジーの旗艦ファンドであるメダリオンファンドは、非公開のファンドである。これは360人ほどの従業員のためにのみ運用されており、その実績も一部の人間にしか公開されていない。そのリターンは クライアントファンドのリターンよりもはるかに高く、年間平均40%のリターンといわれている。2010年に創業者のシモンズは引退したが、その前年のリーマンショック時、メダリオンファンドは成功報酬控除後の実績で80%のリターンを上げたという。

 我々が知ることができる外部の投資家向けに2005年に設立されたRenaissance Institutional Equities Fundは、メダリオンまでの成績は出せてはいないとされているが、それでも安定した実績は多くの投資家を引き寄せている。2018年は多くのヘッジファンドがマイナスの実績で終わったが、Renaissance Institutional Equities Fundは6%のプラスで終わっており、その安定性は健在だ。


Renaissance institutional equities fund

 2010年以降の実績も安定しており、シモンズが見つけた秘伝のソースの現在も引き継がれている。

従業員与えられた究極の個人退職金口座

 億万長者のジム・シモンズ氏が設立した巨大ヘッジファンド、ルネッサンス・テクノロジーは、従業員のために最高の非課税の退職年金口座を作ったようだ。

 ルネッサンス・テクノロジーの従業員は個人退職口座 (IRA) を介して坂井最高峰のヘッジファンド、メダリオン・ファンドに投資することができる。

 IRA(個人退職口座)は、黄金時代のためにお金を貯めている何百万人もの普通のアメリカ人貯蓄者に税制上の優遇措置を提供している。

 労働省に最近提出された書類には、ルネッサンス・テクノロジーの従業員のIRAの中でメダリオンが生み出した驚くべき非課税の富が垣間見える。2017年末の時点で、IRAの資産は6億6000万ドルを超え、約五年間で八倍に増加した。

 税制上の優遇措置に加えて、IRAを通じてメダリオンに投資するルネッサンスの従業員は、基金が課税対象口座に課す手数料を免除されている。運用報酬は運用報酬の5%、運用報酬は運用益の44%に相当する。労働省に提出された書類によると、その結果、従業員は年間のメダリオンの割り当てを自分のIRAに移行することが増えている。

 労働省への提出書類によると、従業員が2012年に最初にIRAのプランに割り当てた8700万ドルは、メダリオンの5億7400万ドルを含め、2017年末までに6億6400万ドルに膨らんだ。その結果、約250人の従業員が保有するIRA資金は、5年前の約1%からメダリオンの総資産の4%以上に増加した。

基金の制限

 ルネッサンス・テクノロジーは2005年以降メダリオンファンドの上限を約100億ドルの規模を維持するための措置を講じた。そのため現在の投資家は主にルネッサンステクノロジーの従業員に限られている。同ファンドはこれまで、手数料収入を除いた年平均リターンが80%近くに達しており、世界トップレベルの実績を誇っている。しかし運用資産が大きくなりすぎると、売買によるマーケットインパクトが大きくなり、非効率的な売買になりやすくなる。運用効率性の低下は利益の減少につながる可能性がある。現在は従業員でさえ年間投資限度に直面しており、メダリオンは通常、利益を再投資せずに半年ごとに分配している状況だ。

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