国王死去に揺れるタイの様子を現地よりリポート

 10月13日に死去が伝えられたタイのプミポン国王。国民からの強い支持を集めていただけに、タイに、また世界経済にどのような影響を与えると考えられるか、現地からレポートする。

絶大な人気、実力を備えた国王

 まずはタイ王室がどのような存在かを確認したい。
 タイの政治は立憲君主制で、王室は存在してもその権力は憲法によって制限されているが、政変が発生するなど、いざというとき国民に与える影響力は絶大な存在である。
「タイ国王は水戸黄門の印籠」という例えがある。
 これまでタイではたびたびクーデターが発生しており、これ以上規模が大きくなると内戦の発生、他国の干渉を招くことになりかねないレベルまで発展したとき、国王は登場する。
「私は首相を支持する」と発言して反政府のクーデターを瓦解させたり、クーデターの首謀者を呼び反乱を鎮圧したりしてきた。

 ほかにも暴徒化する市民に冷静になるよう促したりと、タイ国民には「王様が出てきたら従うしかない」という空気がある。

 タイ国民の間で関心が非常に高いのが、国王の後継者の問題だ。
 プミポン国王は今年の6月で即位70年を迎え、世界最長の在位期間を持つ国王だった。その人柄や、強いリーダーシップに政治力、カリスマ性などからタイ国民に敬愛されていた。
 その人気は幅広く、国王死去のニュースを聞いて、年配者だけでなく30代の男性も涙を流すほどだ。現在のタイ人のほとんどが、国王=プミポンの時代を長く過ごしていた。

 そのような背景に加え、国王の長男のワチラロンコン皇太子の評判が極めて悪い。
 王室として品性を疑われるような行動をこれまでも多々行ってきたほか、3度離婚するほかその女性遍歴も悪い評判を高めている。
 加えて、軍とつながりのある外国での仕事はしているとされているが、タイ王室としての公務を国民が見える形で行っていないことも悪評に拍車をかけている。

 王女もおり、そちらは国内での公務を多々行っていることもあり、国民からの人気も高い。皇太子の評判から、王女を後継者にという声も多いが、この度皇太子が1年後の葬儀のあとの来年10月ごろに国王として即位する旨を明らかにした。
 皇太子にはプミポン国王の死去直後に国王への即位要請があったものの、「国民と悲しみを分かち合いたい」と明言を避けていた。

現在のタイ政権はどのような存在?

 2006年にタイの政権を握っていたのは、タクシン・チナワットという人物だ。彼は「日本の政治家で言えば田中角栄のような人」とされ、既得権益破壊、地方にカネをばらまくなどの政策を多々行い、国民の支持を集める一方で敵も多々つくった。
 2006年にタクシンは失脚し、国外に逃亡する。その後はタクシンの妹が政権の後を継ぐも失敗に終わり、国内で衝突が起こるようになる。

 その後軍によるクーデターが起こり、軍が政権を掌握する。
 ただし、軍は自分たちが暫定政府であり、あくまでも国は民主主義でありたいと考え、選挙を行う意思がある。
 選挙は今年に行われる予定だったが大幅に遅れ、2017年の夏に実施される予定だ。

 そのような意味では、現在のタイは軍事政権ということになるが、軍が政権を握っているからといってタイの街で銃撃戦が行われるようなことはないという。

 気になるのは、即位予定の皇太子と軍の動きだ。元々軍との強いパイプがあるとされ、そうなれば軍が政権を握っている暫定政権が今後も続くほか、プミポン国王のときと異なり、王室が政治に対し口出しをしてくるのではないか、とも考えられている。

 この1~2カ月で、皇太子が国王の関係者をことごとく左遷し、自分の息のかかった者を要職につけた、という話もある。
 選挙が本当に2017年に行われるのかも、疑問視されてきた。

経済、世界への影響は微小?

 国王死去の正式発表がされたのは13日だが、予兆はその前からあった。店舗の営業が少なくなったり、タイの王宮が日中掲げているタイの国旗を、通常の掲揚よりも短い時間にしていたり、日系企業が現地企業に「これから忙しくなるから」とアポイントのキャンセルを受けたりした。
 実はタイ国民に向けて正式な発表があったのは14日で、13日は「王室から発表がある」というアナウンスがされたのみだった。ただし、ヨーロッパとシンガポールがタイより連絡を受けたことを先に発表し、またここ最近の動きから、正式発表がなされた頃には、多くのタイ人がその事実を認識していた。


着る服の色を重視するタイでは、 街には黒を着た人があふれた
 政府より、娯楽を30日控えるよう通達があり、このあとに予定されていたイベントの数々は中止になった。
 街はさぞかし悲観ムードかと思いきや、多くの人が黒い服を着ていても拍子抜けするほど人々は冷静だ。死去の発表がされた日は公休日とされたが、日系企業はタイ人スタッフが多いところでも通常営業しているところが多かった。
 交通機関やレストランなども通常営業している。

 タイにはトヨタの大規模工場があるなど、「アジアのデトロイト」と呼ばれている。日系企業が多々進出しており、現在タイで一番多い外国企業は日本のものだ。
 それらの会社も今まで通り営業している。

「内戦が起こる」「タイの通貨バーツの暴落を機にアジアの金融危機が起こる」といった事態は、タイの反応を見るに起こらないのではないだろうか。
 バーツは国王死去の発表直後に大きく下げたが、その後は持ち直してきており、短期的な資本流出はあるものの、タイや周りの経済に大きな影響はないだろうというのが大方の見方だ。

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