近年人気が高まっている、セブ島英語留学。
そのメリットの1つに「東京から4時間半で行ける近さ」がある。移動の時間があまりかからないことから、欧米に留学するよりもハードルははるかに低い。
集中的に質の高い英語学習をすることで、高い効果をあげることができるという。
学生が夏休みなどを利用して行う長期間の留学のほかに、1週間単位の短期留学のコースがあり、外資系企業に勤務するビジネスマンなどが休暇を利用して留学をしている。
なかなかそこまで長期の休みを取ることのできないエグゼクティブなビジネスパーソンは、数日、最も短くて1日という単位で留学する。
留学というと数カ月は現地にいるもの、というイメージがあるが、果たして1日程度の短い留学でも効果はあるのか? セブ島で1日みっちり学習した結果をレポートする。
先に言っておくと、リゾート地気分を吹き飛ばす、それはそれはハードなものだった。
体験取材をしたQQ Englishで最初に行われたのは、留学生の英語力のチェックだ。簡単なやりとりなどから、どのくらいの英語力があるかを測定し、レベルに合わせたカリキュラムが組まれる。9月に受けた最新のTOEICテストのスコアが600点程度の記者の授業は、以下のようになった。
1.カランメソッド
2.ニュースアラート
3.スピーキング
4.ビジネスイングリッシュ
5.TOEIC対策
6.グループレッスン
7.リスニング
8.イディオム
※1コマ50分。間に10分の休憩が入る。
日本語が奪われる英語の嵐
最初に行われたのは、「カランメソッド」というカリキュラム。これはアメリカ軍が開発した、ネイティブでない人が英語脳をつくるためのトレーニングで、教師が英語で言ったことを、間髪入れず、意味など考えずに繰り返すものだ。
即座に答えるを続けることで、「母国語で考えるヒマ」を与えない。それが英語脳をつくるのに効果がある。
言うのは「I have a pen.」「It’s a pen.」「It isn’t a pen.」といった簡単な英文で、教師の言った通りの英文が言えていなかったり、発音が正確でないと言い直しをさせられる。
これをフィリピン人の教師とマンツーマンで、ひたすらに繰り返す。
50分とはいえ、ひたすら英語をしゃべる時間だ。結構疲れる。頭が痛くなる。普段使わない口の動きもするので、口も疲れる。
それでも続けられるのは、フィリピン人教師が頻繁に「Very good!」などの言葉をかけてくれるからかもしれない。
セブ島は年間の平均気温が26度、1年中半袖で過ごせる常夏の地で、南の島らしくそこに暮らす人々も陽気で常ににこやかだ。
彼ら、彼女らににこやかに「Good!」「OK!」といった言葉をかけられていると、なんだかできるような気がしてくる。
2コマ目はニュースアラート、1つのテーマについて教師と話をする。
話をするといっても、こちらの英語もたどたどしいものだ。文法や意味が合っているかもわからない。だがマンツーマンなので、こちらもどうにかしてしゃべらなければならない。知っている単語をつなげてなんとか話す。
教師の彼が話をしてくれたことは「かつては英語が嫌いで、どうして英語の教師になったか」フィリピンは英語が公用語の1つだが、元々の言語はタガログ語や、セブ島ではビサヤ語だ。つまりフィリピン人は英語のネイティブではなく、学校で英語を習い、身につけていく。
そのため自分はこんな苦労をしたとか、ここが難しかったといったことを話してくれた。教師をやっている人もかつては自分と同じような苦労をしたと思うと、なんだかやる気にもつながる。
フィリピン人教師だからこそのやりやすさ
フィリピン人教師の英語は、きれいな発音で聞き取りやすい。飛行機の中で聞いたものとは全く異なる。
聞いたところ、QQ Englishの英語教師は、英語学習に力を入れている学校を卒業し、しっかりと英語について学んでいるほか、全員外国人に英語を教えるための「TESOL」という資格を保持している。
英語の発音は国により結構異なるというが、フィリピン人教師の英語は偏りのない、教科書通りのものだ。
そのなかでも、教師は適宜こちらに質問をし、回答を引き出そうとする。トークをしながら、言ったことが文法的に間違っていたりすると、正しい言い方を教えてくれる。
「英語学習では数をこなすことが大事」とされているが、実は効率よくいかない壁が「教師と話す内容がなくなる」ことだ。
初対面の人とは、仮に母国語でも、よほど共通の話題があるなど話が盛り上がらなければ、会話は尽きてしまう。ましてや使用が不自由な外国語ならばなおのことだ。だからしゃべれるのは挨拶や簡単な言葉だけ、ということになってしまう。
レッスンでは、指導要綱に従って教師が随時話のテーマをつくってくれるので、あとは言いたいことを英語にして言うだけだ。
そうしていくと、今まで英語でしゃべったことのない話をしていることに気づく。話したことのない内容なので、使っている単語が正しいかもわからないが、口からは発した。
「仮に目の前にいる人がアメリカ人やイギリス人だったなら、ここまで思い切ってしゃべれただろうか?」
このレッスンが終わったあとに、そんなことを考えた。ネイティブを前にすると「間違えたらバカにされるかも。間違えてはいけない」と力が入り「この言い方で合っているかわからないから、恥をかくなら黙っていよう」と思ってしまうこともある。
温かみのあるフィリピンの人の前だと、失敗しても大丈夫、という感じがする。
また、英語を聞く上でも、言われた英語が聞き取れなかった場合、西洋人だと聞き返すのを躊躇してしまったり、わからないことをそのままにする、笑ってごまかしたということは多くの日本人が経験していると思うが、フィリピン人はわからないにさせない。
きちんと理解できるまで、何度でも説明してくれる。また、わからないことをわからないとこちらが言いやすい雰囲気もある。
ここまでを終えて、午前中のカリキュラムはすべて終了した。
フィリピン人のにこやかなスパルタ教育!
1時間の昼休みのあとに、午後のカリキュラムがスタート。
4コマ目はビジネスイングリッシュ。ビジネスの場で役立つ英語の言い方などを習う。「こういうときはこのように言う」ということを知ってはいても、実際に英語を使って行うのは本番のビジネスの場であり、外国人を前にしての、実戦に近い練習は今までほとんど経験がなかった。
レッスンを前に「英語のどのような部分を伸ばしたいか」を聞かれ、「英語でのビジネスのやりとりや、英語インタビューなども行う力をつけたい」と伝えてあったため、それを想定したカリキュラムが組まれていた。
そのほかにもビジネスでよく用いられる英単語や言い回しなどを教えてもらえる。自分の言い方が英語的におかしいようであれば、正しい言い方もしてくれる。
先ほど、ネイティブでない日本人がしゃべる英語など、間違っていて構わないと書いたが、ビジネスの場であれば、間違いはやはりないほうがよい。度々出てきたのが「これはpolite(丁寧)な言い方」というセリフ。正確な言い方、間違ったニュアンスが伝わらない表現を習う。
ほかにもテキストを見ながら英文を読んでいき、内容を要約し伝えるといったことも行った。その際にわからない単語があれば、「文章の流れから、どのような意味だと思うか」を問われる。答えはそう簡単に教えてもらえない。いろいろ考えて、「このような意味だと思う」と伝えて初めて、正しいか間違っているかを教えてもらえる。
その際も「nevertheless」という単語がわからないとしたら「”Nevertheless” means “despite”」というように、回答も英語だ。授業に日本語は一切入らない。
英語について正確に日本語で学ぶことも大事だが、やはりとにかく英語漬けにできるのが、留学のよいところだろう。
5コマ目はTOEICのレッスン。レッスン開始時に、目標のスコアを言うと「低すぎる!」といきなり叱咤される。「990点の満点を目指す! 充分獲れるから!」とスパルタな授業が始まった。
この日のレッスンでは、Part5の短文穴埋め問題の解法について説明が行われ、実際に問題を解いてみるといったことが行われた。
問題の答え合わせでは、あてずっぽうで答えても意味がない。なぜその答えを選んだのかをきちんと説明することまでできなければ、正解にしてもらえない。
フィリピン人教師は学習者がわからないことも、そのままにせず、生徒が納得できるまでしっかり聞けるのがよいところだが、一方で教師の側も、わからないことをそのままにすることを許してくれない。ここは厳しい点だが、それを繰り返すことで、しっかり力がついていくと思われた。
なお、4コマ目では、わからない英単語も英語で説明がされるのがよいところと書いたが、TOEIC、特に文法に関する問題が多いPart5については、すべてが英語なのは少々苦しい。
「名詞」「動詞」「副詞」「形容詞」と日本語でわかっていても「noun」「verb」「adv」「adj」と説明されると、どうしても理解に1テンポ遅れが生じる。
また、解法の説明を受けてもその説明がすでに英語のため、それを理解するのにも時間が必要だ。
また、今回は1日だけのため、Part5の授業のみだったが、総合的にしっかりスコアアップを目指すのであれば、すべてのパートの授業を受け、しっかりやっていく必要があるだろう。
カリキュラムは用意されているものの、実は、QQ English代表の藤岡氏自身『40歳を過ぎて英語をはじめるなら、TOEICの勉強は捨てなさい』という本を書いているくらい、英語を話す力を伸ばすうえでTOEICに対しては懐疑的だ。
と藤岡氏は語る。
事実、学校のフィリピン人カリスマ英語教師にTOEICの問題を対策なしで解いてもらったところ、そのスコアは800点台だったという。実は英語を話す力とTOEICのひっかけ問題を解くための力は関係がない。
ただし、昇給や転職等でTOEICのスコアが必要という場合は、仕方がない。TOEICのための勉強と割り切り、そのための対策に専念することが重要だ。
「英語を英語のまま理解する」の連続
5コマ目はグループレッスン。それまではすべてマンツーマンレッスンだったが、このときだけ教室は大きな部屋になり、数人でまとめて授業を受けた。
あるテーマが与えられ、それに対し生徒がプレゼンテーションを行った。
この日、ある生徒が行ったプレゼンのテーマは「タバコの害について」自身も喫煙者だという来年の春に卒業予定の大学生が、自身の経験や考えを述べる。
周りはそのプレゼンを聞き、またプレゼンに対する教師のフィードバックなどを聞きながら、自身のプレゼンを練っていく。英語の文法や言い回しなどに間違いがあれば指摘してもらえる。
再びマンツーマンのレッスンに戻り、リスニングのクラス。教師が用意した数分程度の英語音声の教材を聞き、用意された問題に答える。その前に問題を教師の発音チェックのもと、声に出して読んだ。
私の英語力から判断して、「中級」と「上級」の2つの教材を指定され、1つずつ聞く。どちらもしっかりわかったところもあれば、あまりよく聞き取れなかった箇所もあった。
答え合わせをする。中級は5問中2問正解、正解率は40%で、難関は3問正解、正解率60%だった。
回答の根拠となる部分を確認し、どのような根拠から正解が導き出されているかを確認する。テキストを見ながら、テキストの通り英語を聞き取れているかもチェックが入る。
リスニングをしていてわからなかった単語はチェックし、意味を確認する。このときもわからないものをわからないままにしておくことは許されない。
わからない単語は教師が意味を説明してくれる。ここでも日本語は一切なく、説明はすべて英語だ。
単語の説明は、わからない単語を記者が知っている近いものに置き換えることで行ってもらえる。たとえばこのレッスンでは「steep」という単語がわからなかったのだが、「high」や「expensive」と同じ意味であるというように説明してくれる。知っている単語に置き換えてもらえることで、だいぶ腑に落ちた。
最後のレッスン「イディオム」ではその工程にさらに時間をかけた。辞書に載っている意味だけでなく、用例や派生などについての説明がなされた。
このレッスンでポイントになったのは「suit」と「fit」の違いだ。どちらも「合う」といった日本語に訳されるが、英文での使われ方はまったく異なる。
フィリピン人の教師が、例文を用意してその2つの違いを説明してくれた。実際の例文は以下だ。
Tom bought a red shirt. It fits him but doesn’t suit him because of his dark complexion.
「トムが買った赤いシャツは、大きさは彼に『合って』いたが、彼の黒い肌には『似合って』いなかった」
最初、この2つの単語の違いは説明を受けてもよくわからなかったが、例文を出してもらったことでようやく、しっかりと理解できた。
1日留学を終えて得た実感は?
合計約8時間の授業を終えた頃には、英語のインプットが多すぎて脳の処理能力を超えてクタクタになった。
1日中英語を学んだからといって、それで英語ペラペラには残念ながらならない。果たして1日学習しただけで、どこまで英語力が伸びたのだろうか? 学習前と学習後で試験等を行ったわけではないので、明確な英語力の差を計測することはできない。
だが1つ確信したことがある。それは日本に帰国後のことだ。アメリカ大統領選のニュース等で、テレビからクリントン候補やトランプ候補がしゃべる英語が流れてきたときに、ふと実感した。
「前よりも明らかに耳が反応している! 音を聞き取れるようになっている!」
その後、TOEICの模試を説いてみたところ、大きく向上していたのがリスニングスコアだ。以前よりも、はるかに簡単に解ける。以前ほど必死に聞かなくとも、耳に入ってくる。リスニング問題100問のうち、かなりの数を以前はカンでマークシートを埋めていたが、「答えはこれ」と選びとることができるようになっていた。
QQ Englishに1カ月以上の留学をした人に話を聞いたところ、1週間ごとに自分の英語力がアップしていくのを実感することができたという。もちろん長い時間をかけられればそれに越したことはないが、誰もが長期間留学できるわけではない。
1週間や、1日の留学も効果がある、それを実感したセブ島留学だった。
「“英語を話せる”ことを“楽しみ”に」
QQ English代表の藤岡氏によると、セブ島留学のよいところは、何度も来られることだ。東京から直行便であれば4時間半で行くことができ、物価も日本に比べだいぶ安いため、欧米に留学するのに比べ時間、費用ともに大幅に抑えられる。
そのため、短い期間でも何度も訪れる人がたくさんいる。みっちり教えてもらった先生にまた会いたいというのは、セブ島を再訪するモチベーションになるという。
藤岡氏はそれまでまったく英語を使わない仕事、英語に関係ない人生を送っていたが、イタリアのバイクを扱う仕事をした際に、大好きなそのバイクのメーカーの社長とじっくりバイクについて語り合いたい、通訳を介するのではなく自分自身の言葉で話したい、そう思い英語を始めた(本当はイタリア語を見につけたかったが、英語よりもはるかに複雑で難解なため挫折したという)。
英語を話せるようになったことで、その社長と深い話をできるようになったほか、彼自身大きく世界が広がった。英語を通じて出会うことやものの楽しみを知ったという。
「英語で話をするとは、本来“楽しい”ことなのです。セブ島に何度も留学する人がたくさんいるのは、その楽しみを知ってしまったからなんですね。多くの人がクセになり、虜になる。そうなれば、さらに英語は身についていきますよ」
限られた時間で集中的に英語を学習するならばITパークにある校舎がよいが、「せっかくセブ島に行くのだから、学習の前後には観光やレジャーを楽しみたい」という人や、親子留学といったニーズもあることから、高級ホテルが立ち並ぶセブ島で一番のリゾート地にも校舎がある。
セブ島の観光事情とともにお届けする。次週更新予定。