減産決定で原油価格はどうなるのか?

 石油輸出国機構(OPEC)が30日、ウィーンで開かれている総会で、石油の減産で合意したと報道された。減産は2008年以降初めてとなる。それを受けて、WTI、北海ブレント先物ともに価格は上昇し、1バレル50ドル前後で推移している。
 原油の価格やその原因については、ゆかしメディアでも何度も取り上げてきた。極めて地理的、政治的な理由が関係しており、サウジアラビアをはじめ、当事者たちも苦しい状態にある。
 今回の決定でどのような動きが起こるかを検証する。

 結論として言えるのは「減産=石油価格上昇」とはならない、だ。
 ポイントは3つある。

1.今の価格で充分儲かっているところがある
 信頼できる情報筋によると、原油の価格は下がっているとはいえ、技術革新の結果、以前よりも産油コストは大幅に下がっているという。
 コストは1バレル20ドル前後まで下がってきている。ここ最近の価格帯だった1バレル40ドル台でも、充分に利益は出る計算だ。
 すべての産油国がそのように安くできているわけではないが、この価格でも持ちこたえられるのであれば、値上げをとりわけ望まない国もある。 
 また、「アメリカ国内だけでも世界が250年使える石油がある」という説もあり、石油が枯渇することは考えにくい。むしろ減産を考えるくらい余っているのが現状だ。

2.サウジはしばらく原油安でもかまわない?
 一方で、アメリカとならび産出量1位のサウジアラビアは、原油安でとにかく苦しい。財政は悪化し様々な投資はストップ、国の成長にも陰りが見えている。
 そのため「石油に頼らない国づくりを目指す」とし、投資を柱に掲げるなど様々なアクションを起こしている。今のところうまくいっている兆しはまだ見られないが、王族の重要なポストにある人物が海外を回るなど、国として本気であることは伝わってくる。

 サウジは苦しいが、ライバルの産油国、イランは歓迎とまではいかないものの、原油安をチャンスともとらえている。経済制裁が解除されたばかりで、石油を売れるものならばどんどん売りたい。
 サウジアラビアとイランはライバル関係にあり、お互い引くことは相手を利することになるため、双方の利害が一致することはほとんどない。
 そのためOPECでも足並みがそろわず、あまり効果的な決定が下せないことが多かったが、今回の決定では、核開発で経済制裁を受けていたイランが、産油量を制裁前の水準にすること、それにサウジアラビアは同意した形で、今回はイランにサウジアラビアが譲歩したと言える。
 OPEC全体は減産だが、イランは減産を要求されていないのだ。

 なぜサウジアラビアはイランに譲歩したのか? その裏には、サウジアラビア王国の国営石油会社、サウジアラムコの上場を見据えた動きがある。アラムコは原油埋蔵量、生産量とも世界最大規模の会社だ。

 アラムコが上場し、株式市場から資金を調達することができれば、サウジの財政にはある程度の余裕を持たせることができる。原油価格が安い以上、根本的な解決にはなっていないが、当面の危機は乗り切り、サウジが掲げる「石油に頼らない国づくり」のための投資もしていけると踏んでいる。

3.値上げは脱石油を加速?
 最後に、減産してもそう簡単に原油価格を上昇させられない大きな理由に触れる。
 アメリカが中心となって開発の進んでいる、シェールガスの存在だ。

 減産というOPEC内の足並みは一応揃えた。
 しかし、シェールガスは原油が劇的に安ければ開発コストがペイしないが、原油価格が上がり、「原油価格が上がったから、値段が同じくらいのほかのエネルギーも考えよう」となったとき、一気に視野に入ってくる。そうなれば石油そのもののシェアが奪われてしまうかもしれない。
「苦しくても安ければ買ってもらえる」が、「高くすればまったく買ってもらえない」になるのだ。

 これらの理由から、減産=簡単に値上げとはならないと考える。
 また、OPEC非加盟国の動きも気になる。今の価格でも充分に儲かっている産油技術を持つ国が、OPEC非加盟であったなら、OPECが減産しているのをいいことに増産しOPECのシェアを奪いにかかるかもしれない。

 ここ最近の原油価格の上昇といった動きは、あくまでも投資家の気分による部分が大きく、根本的な動きはしばらくなさそうだ。

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