ここ最近よく言われるようになった「働き方改革」。長時間労働をやめて、生産性を上げようという考えだ。
「長時間労働は悪いこと」と多くの人が思っているが、問題の本質をきちんと理解できている人は少ない。たとえば「どうして長時間労働は悪いことなのですか?」と聞かれて、誰もが納得できる理由を持ち合わせている人はどれだけいるだろうか。
一昔前とは「仕事の質」が変わった!
経営者にしてみれば「残業代がかかる」が一番のネックだろう。だが社員にしてみれば「残業代をもらえるならいくらでもやる」という人も多い。
「家族と過ごす時間の確保」「ワーク・ライフ・バランス」といったこともよくいわれるが、仕事が終わっても家に早く帰りたくない人もいるので、「大きなお世話」ということになる。
「最近はみんな働かなすぎ。俺の若い頃は、朝から晩まで土日も関係なく働いたもんだ」と思う方も大勢いるだろう。「時代が違う」と言ってしまえばそれまでだが、時代が変わったことで何が変わったのか、それを説明できる人は少ない。
まずは長時間労働の何が問題かを知ろう。特定社会保険労務士の大槻智之氏によると、「昭和の頃と大きく変わったのは、仕事の質」だという。
「ひと昔前は、朝から晩まで働いていたとしても、仕事の密度は現在ほど濃いものではありませんでした。たとえば、会社に電話をかけて担当者がいなければ、『ではまた明日かけます』で済んでいました。
アナログな作業も多く、仕事をする範囲そのものも狭く、限られていました。遠方との仕事に関しては、時間がかかるもの、という前提で動いていたと言えます。
その後時代は大きく変わりました。会社に電話をかけて担当者がいなければ、『では携帯にかけます』となり、会社の側も『携帯に連絡し折り返させます』といった対応をすることが多いでしょう。競争も激しく、スピードが遅いと『ライバルに顧客を奪われてしまうかもしれない』との思いで、急ぎの対応をせざるを得ないようになってきました。
リストラ等の影響もあり、少ない人数で従来の業務量をこなさなければならないことも多く、業務の急激な効率化が進む一方、1人にかかる業務量も相当に増えてきました。
また、パソコンの登場が、業務の処理量を劇的に増加させた大きな要因の一つと言えます。エクセルやワードを使用することにより、処理量は大幅に増えました。文書の作成や計算は格段に楽になりましたが、その一方でそれらのチェックも含めた処理量が増大したので、神経をすり減らす機会も増えたのです。
メールもバンバン届くようになりました。昔はゆっくり決めればよかったのが、すぐに、その場で決める必要のあるものが爆発的に増えていったのです。『レスが遅い』なんてのも業務にメールを使用し始めてからでしょう。電話と異なり、たとえ深夜でもメール送信は出来るので、そういったっことも長時間労働に拍車をかけた要因でしょう。
自分で判断、決断する機会が増えた結果、頭脳や神経を使う量が増大したということです。
さらに、交通機関や遠隔地を瞬時につなぐシステムも発達したため、昔ほど1つの仕事にかける時間を多くすることはできません。
仕事の量が増え、それに伴い情報も判断を迫られる機会も増大し、さらに判断にかける時間は減っている、そのような状態ですから、とても昔のように長い時間働き続けていたら体が持ちません。休みも取っていかないと、健康も保てないのです」
過労死の原因はストレスではない!?
「その他、もう一つの質の変化としては『成果主義』や『目標管理制度』の拡大もあります。個人ごとの『見える化』が進み、給与等の処遇も個別化が進んだのです。本来は経営者が努力して改善すべき内容が社員に転嫁されたといってよいでしょう。
『目標達成するまで働き続ける』といった長時間労働へ突き進むきっかけとなったわけです。
『そうはいってもベンチャー企業の経営者などはどうだ。朝から晩まで働いているじゃないか』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、経営者と社員では、働き方に対するそもそものスタンスが違います。
経営者は自分で判断ができ、なんなら働く時間も自分で決めることができます。それに対し社員は会社の方針に従う、上司の命令通りに動く、勤務時間も決められているなど、自分で決定できない部分がたくさんあるのです。
『過労死』はその名前の通り、働きすぎたことによる疲労が蓄積した結果体に異変をきたすことですが、一番大きな要因は、ストレスであると言われています。
ある精神科医に聞いた話ですが、自分が決めて行うことと、無理やりやらされることとでは、受けるストレスの量がまったく異なるとされています。
ですから、同じように朝から晩まで働いているように見えても、経営者はほとんどストレスなく(もちろん、経営者ならではのストレスはあります)働くことができ、社員はひどいストレスで……と違いがあるのです。