社長が腹をくくれるか
私が経営者の方からよく聞くのは『社員が俺くらいやってくれればもっと売上が立つのに……』といった声です。
それに対する私の答えは『経営者と社員の間には、絶対に埋まらない溝がある。社員に自分とまったく同じものを求めてはいけない』です。
先ほど申した通り、経営者は自分の意思で決められます。それと引き換えに、会社がつぶれれば家も土地も取られるとなれば、必死にやらなければならない理由もあるでしょう。
社員は自分で決めることはありません。決められることはあっても、経営者の意向に沿う、つまり、経営者の決めることの範囲内で決めるだけです。
もしご自分と同じ考えで、そして、まったく同じスキルとモチベーションをもってやってくれる社員がいたとしたら、すでにその方は経営者です。その人の独立もそう遠い話ではないでしょう。
今はこれだけ労働時間についての意識が高まっている時代です。長時間労働が理由での健康問題が表面化する機会も増えました。昔は『やる気が足らん』で終わっていましたが、今ではその原因が「病気」である可能性もあることも認知されています。
昔はどちらかというと心の病に関することは『滅多になる病気ではない』『公にするのは恥ずかしい』『本人も隠しておきたい』という風潮があったように感じますが、『メンタルヘルス』の認知度が上がった結果、その数は爆発的に増えました。
SNSが発達した結果、本人は自覚がなくとも『その症状、うつじゃない?』と周りに言われたり、『その会社、ブラックだね』と悪い情報が広まりやすくなってもいるのです。
社員に『うちの会社、ブラックなんだ……』と思われて、労働基準監督署に駆け込まれたりすれば、経営者は何かしら対応をしなければならなくなるでしょう。
会社が長時間労働をやめられるかどうかは、結局経営者の考え次第です。はっきり言ってしまえば、『売上は下がってもいいから帰れ』と言えるか、という覚悟が問われているのです。
みんな『早く帰れ。だが売上は下げるな』と言います。『残業やめたら売上上がった』というような話も聞きます。
もしかすると実は存在している様々な無駄を省くことで、売上を保ちながらも早く帰ることができるかもしれませんが、それは希望、楽観に過ぎません。本当に残業をやめた結果なのかどうかはわからないことも多いですので。
また、一般社員を強制的に早く帰らせることはできても、そのしわ寄せは、残業代のつかない管理職にすべて回ってくるケースもよくあります。
いずれにしても、何も手を付けないままでは経営者、従業員ともに大きなリスクを抱えたままになってしまいます。
まずは『売上よりも健康第一』と腹をくくる必要があるでしょう」
「ホワイト企業」が伸びていく時代
「カルビーや富士そばといった会社が、これもSNSを中心に、非常に評価を高めているのをご存じですか? カルビーの松本晃会長は『従業員はただの道具ではない。会社はお客さんへの責任があるが、次に従業員とその家族に対して責任がある』と語っています。
富士そばの創業者である丹道夫会長は、お店のアルバイトにもボーナスを払っているそうです。その理由をこう語ります。『売上を増やせば、自分たちに返ってくるとわかってるから、僕が何も言わなくても、なんとかして売りたいといろいろ考えてくれる。
ちゃんと待遇をよくしてあげれば、やめずに働き続けてくれるでしょう。従業員は資産だから。それに自分も楽ができる』
それらの会社のネット上での評判はどうでしょうか。
『なんていい会社』『ホワイト企業だ』『カルビーのポテトチップ買う!』『もう富士そばしか行かない』
そんな声が集まっています。
SNSが発達した現在、悪い情報はすぐに広まるようになりました。
ただし、広まるのは悪い話だけではありません。いい話も、同じように広まるようになったと言えます。
従業員の満足を追求することは、これからの経営戦略の1つとも言えるのです。そして、その具体的な方策として、長時間労働の是正を位置付けるべきでしょう」