石油は余っていても値上がりする理由
JALとANAの国内大手航空会社2社が昨年、燃油サーチャージを発表した。2月以降、数千円程度の燃油料金が航空券代に追加される。
昨年、OPEC(石油輸出国機構)が石油の減産を発表したことで、早くも今後の石油の品薄感が高まり、値上がりが始まったのか? 石油は今後、どんどん値上がりしていくのか?
結論を言うと、今回のサーチャージの原因は、100%円安による輸入コストの増大だ。
原油の価格はほとんど変動していないが、原油は1バレル○ドルという形で取引されているため、ドル自体が円に対し高くなれば、連動して価格も上がる。
この先も円安ドル高の状態は続くと考えられるため、しばらくは、かつてに比べれば、原油価格は高い状態が続くだろう。
経済評論家の加谷珪一氏によると、日本が買える原油は高くなるが、原油価格そのものは、この先もほとんど変化することはないという。2016年、OPECが取り決めた減産に、ロシアなどOPECに加盟していない産油国も同調したことで、強固に結束し、原油価格の上昇が起こりそうにも思われるが、その可能性は低い、そもそも減産はされるのかも疑わしい。
というのも、OPECの取り決めはそう守られない。イランを除いた多くの国が減産で合意したが、本当に減産できるのかは、大いに疑問符がつく。特にOPECの主要国、サウジアラビアとイランの思惑はまったく異なる。
減産して原油価格を高値に調整したいサウジアラビアと、核開発による経済制裁がようやく解除され、自国の経済を回すためにも石油を売れるならば価格など気にせずどんどん出していきたいイランとでは、考えが違いすぎる。
それに合わせて、OPEC非加盟国のロシアは、本当は値上げしてほしいがそう主張することはアメリカに負けを認めることになるため、形だけOPECに同意しながら様子見するなど、足並みはそろわない。
OPECの取り決めも、いつの間にか瓦解している可能性は高い。
「あの組織も、それぞれの国の利害が絡み合って、一枚岩になれないのが現状です。そのため、そう現状は変わらないでしょう」
加谷氏は語る。
アメリカによってエネルギーは安くなる? 日経平均も上がる?
また、加谷氏は「もう1つ産油国」の存在について触れている。今では世界第1の産油国でもあるアメリカの動きが、日本にも影響してくるという。
原油が安いことの悪影響を言う人はいるが、加谷氏は日本にとって、原油価格が安いことのデメリットは1つもないと語る。物流、製造などあらゆる部分に関わるコストの削減につながるため企業レベルでもありがたく、家庭でも暖房代等が抑えられるため、大歓迎してよい要素だ。経済の好循環にもつながっていきそうだ。
値上がりは市場の活性化にブレーキとなりマイナスのようにも思えるが、果たして原油価格の上昇は、日本という国にとってはプラスなのか?
なぜ、日経平均は上昇したのか?
その理由は、アメリカだ。資源輸入国であり、エネルギー大量消費国であったアメリカは、かつて原油価格が下がると消費が伸びるとされていた。アメリカにとっても、原油安は大歓迎だったのだ。
それが今やアメリカは、一大産油国でもある。産油国にとって、売る商品の価格が高いことは大歓迎だ。そのため原油価格の上昇は、アメリカの株価を上げる要因にもなった。
好調なアメリカの株価に引っ張られて、日本の株価も上昇する、そのように関係している。
日本で流通する石油の価格は、アメリカの影響で上がるが、同時にアメリカの経済が好調だと日経平均株価も上がるのだ。
日本のエネルギーに関しては、今後アメリカの存在感がどんどん増していくと考えられている。アメリカはこれまで原則として、自国の原油を輸出することはなかった。かつてはエネルギーを求めて世界中の争いを解決し、時に争いも起こしてきたくらい、自国で使用する石油の確保に奔走してきた。
現在、アメリカ国内はかなりの石油過剰状態になっていて、もう自国で使用する分を賄ってもあまりあるくらいの石油を生産できる見込みが立っていることもあり、輸出禁止をだんだん緩和していくことを目指す。
一番の輸出元になりそうなのが、日本だ。アラスカで採掘する石油を日本に輸入する計画が、まだあまり公になっていないが進んでいる。
現在、日本の石油輸入元はサウジアラビア30%、イラン20%と、中東の率が最も高い。中東から石油を運ぶとなると、サウジアラビア、イランを取り囲む紅海、ペルシャ湾を通る必要がある。
この部分は狭い海域で、同じように石油のタンカーが集中していることからスピードも出せず、交通整理も必要で、仮に中東で動乱が発生しこの海峡部分のコントロールができなくなれば一気に石油価格は上昇と、石油輸送のボトルネックになっていた。
それが、アラスカから太平洋で石油を運ぶとなると、ほぼ直線で障害物がほとんどない輸送が可能になる。中東経由と距離はほぼ同じだが、出せるスピードが変わり、待つ時間がほとんどなくなるので、輸送日数は大幅に減るだろう。そしてそのコストカットは価格に反映される。
日本は石油に関して、大きなアドバンテージを得ることになると言えるだろう。そうとも言える一方、アメリカに依存する部分がかなり高まる。
なお、アメリカにはエネルギーに関して、OPECにもない強みがある。アメリカは産油国であると同時に、シェールガスの開発でも世界をリードしているのだ。現在、シェールガスの開発コストよりも安いことから石油が選ばれているが、その価格はシェールガスとの競争のためにだいぶ無理に下げたものだ。
今後技術革新が進んだ結果、シェールガスの開発コストが石油よりも下がる可能性は大いにある。
そうなると、無理に値下げしている石油価格よりも、無理なく安くできるかもしれない。そうなると石油は完全にメリットを失うことになる。
かつて石油が石炭に代わったように、シェールガスが石油に代わる可能性も否定できない。
アメリカは石油を押さえていて、シェールガスも同時に押さえている。原油価格が上がればシェールガスを増産し、石油のほうが安ければシェールガスを減産する。両方を押さえている国はほかにない。
アメリカには、OPECなみの需給、価格コントロール力があるということだ。
その恩恵を、日本も今後大いに受けられる可能性がある。