故人の思いを受け継ぎ、争いをなくす遺言書の書き方入門

監修:田中誠(相続専門税理士・税理士法人エクラコンサルティング代表)

目次

遺言書が効果を発揮する場面、しない場面

 相続税をできるだけ減らし、次世代に確実に財産をつないでいくためには、「誰に何をどれだけ遺贈するか」を記した遺言書が必要になります。
 遺言書がなければ、相続人は被相続人の財産をもう一度調べ直し、遺産分割協議を経て遺産を分割する手続きを行わなければなりません。
 思いのほか時間のかかるものであり、10カ月後の相続税の申告期限は、予想していたよりも早くやってきてしまうことがほとんどです。
 遺言書は、遺族の手続きを楽にし、「争族」を生まないためにも、必ず用意しておきたいものです。

 遺言書が効果を発揮するのは、単純に法定相続人の数で分割できない財産をどのように分けるかや、法定相続人でない人に財産を分割したいときです。
 婚姻関係はなくとも内縁の妻、夫がいるなどの場合、その人たちは法定相続人になれませんから、財産を残したい場合は、遺言書にその旨を書いておかなければなりません。


 事業の承継に関することや、不動産などの財産に関する扱いを取り決めるうえで、遺言書は非常に効果があります。

 遺言書の内容は、被相続人の意思として法的に最優先されるのはもちろんのこと「故人の希望なら」と、相続人も心情的に納得しやすいものなので、スムーズな相続の執行にも大いに役立ちます。

 遺言書が効果を発揮しない場面というのはほとんどありません。あるとすれば、家は手放し不動産などの財産はなく、相続の対象になるのはほぼ現金のみ、法定相続人以外に財産を譲りたい人もいないといったケースです。
 その場合は法定相続分に則って、相続人に均等に相続されるだけですが、本当にきれいに分けられる財産だけということはほとんどなく、混乱を招くようなものでない限り、作成して悪いことは何もないと言えます。

遺言書の3つのパターンとメリット、デメリット

 遺言書には、次の3つの種類があります。

①自筆証書遺言
 自分で書いた遺言書のことを言います。この遺言書を書くときは、前文と日付、氏名はすべて自筆、自分の手で書き、押印する必要があります。
パソコンやワープロでの作成、代筆、録画、録音したものなどは認められません。
 氏名を正確に記入するほか、ペンネームなどの通称名や雅号なども使用不可です。

 そして忘れがちなのが、「書いた日付を必ず入れること」です。日付の記載がないものは、遺言書として認められません。日付は西暦でも和暦でも良いのですが「●年●月●日」と記載する必要があります。

 押印は実印である必要はありませんが、遺言書の信ぴょう性を高めるためにも、押印に使う印鑑は実印にし、印鑑証明も同封するなどしたほうが確実です。

 遺言書は、原則として被相続人1人につき1通と決まっています。夫婦連名の遺言書などは無効です。

 自筆証書遺言は、自分で書くのでいつでも書き直せるメリットがあります。デメリットは、訂正方法を間違えると法律上有効な遺言書にならないといったことです。

エンディングノートに法的効力はゼロ

「エンディングノート」が流行りました。今までしてきたことをまとめ、自分が生きた証を残す。残された家族に、最後の思いを伝える。
 それ自体はとても尊いものですが、エンディングノートに法的な効力は何もありません。
「自社株は会社を手伝ってくれる長男にすべて引き継ぐ」とエンディングノートに書いておいても、長女が「エンディングノートではこう言っているが、私の法定相続分は自社株で受け取る。自分にはその権利がある」と主張し、裁判にでもなったら、長女の言い分が通ります。被相続人の願いは叶えられないかもしれません。

 自筆証書遺言も、不備があり法的効力を発揮できなかった場合、同じことが起こり得ます。必ず法的に有効なものにしなければならず、そうなると弁護士や司法書士などの専門家にチェックしてもらう必要があり、自分で手軽に書けることはメリットにはなり得ません。

 なお、自筆証書遺言は発見されたとき、その場で開封せず家庭裁判所で中身を確認する「検認」が必要です。相続人に遺言書の存在と内容を知らせることと、遺言書の偽造を防ぐために、家庭裁判所が内容を確認したときの状態を保存することが目的です。
 加えて、検認は遺言書が法的に有効であることを証明するものでありません。「内容については確認したが法的には無効」となることもあります。

 遺言書の検認を家庭裁判所に申請してから、検認済みであることを証明する検認証明書を発行してもらうまで2カ月ほどかかることもあり、それまで遺言書に基づいた不動産登記等ができない可能性もあります。
 繰り返しますが、相続の手続きは急ぎで行う必要があるのです。

②公正証書遺言
「公証人」と呼ばれる法律の専門家が作成する遺言書です。遺言書には3つの形式がありますが、もっとも信頼性の高いものです。

 被相続人が各都道府県の公証役場に行き、公証人に遺言書を作成してもらいます。被相続人が、公証人に口述で遺言書の内容を伝えることで作成可能です。公証人を自宅や病院に呼んで作成することもできます(交通費等は別途発生)。

 遺言書の原本が公証役場で保管されるため、紛失等の恐れもなく、相続発生後は公証役場で遺言書が簡単に検索可能です。家庭裁判所での検認の必要もないため、自筆証書遺言で発生する待ち時間もありません。

 公正証書遺言の作成には、必要な書類と費用、ほかにも遺言書作成時に2人以上の公証人が立ち会う等が必要になります。
 公正証書遺言は作成に手間や費用がかかり、そこがデメリットでもありますが、その分信頼性の高いものであることがメリットとお考えください。

③秘密証書遺言
 遺言の内容が公証人にも知られない遺言です。遺言の内容を記載した書面は被相続人が作成し、封をして公証人に提出します。公証人は遺言の存在は確認しますが、封がされているので内容についての確認は行いません。
 そのため、実は内容に不備があって法的に無効となる可能性はあります。
 公証人役場に行く必要があり、費用も発生するものの、遺言書自体は検認を受ける必要があるなど、秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言のいいとこどりをしたものというよりも、両方の手間のかかる部分をそれぞれ負うものと考えたほうがよいかもしれません。

 そこまで手間のかかる秘密証書遺言が使われるのは、たとえば被相続人に愛人や隠し子がいて、生前はそのことを絶対に家族の法定相続人に知られてはならない、しかし必ずその人たちに財産を残したいといったときです。

 メリットとしては、秘密が守れて遺言書の存在が記録される、デメリットは不備がある可能性や費用、手間暇がかかるといったことがあります。

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