監修:田中誠(相続専門税理士・税理士法人エクラコンサルティング代表)
相続人の足並みはそろっているか?
これまで、財産を残す相続の方法を説いてきました。
最後に、スムーズな、相続税額を少なくする相続をするために、もっとも大切なことをお伝えします。
それは「相続人同士がもめないこと」です。
相続がスタートする前から相続人同士で争いが起きている場合、遺産承継がスムーズにいかなくなります。
そうなると、次世代に資産を引き継ぐどころではなくなってしまいます。
相続人の間でこじれてしまい、解決できないまま相続税の申告期限がきてしまった場合、とりあえず財産は未分割にして、財産を共有という形で遺産分割を終えることもあります。共有にすると、後ほどさらなるもめごとに発展したり、税額で損をすることになったりします。
母親が亡くなり相続がスタートし、長男と次男で遺産分割協議が始まりました。しかし折り合いがつかず、自宅はどちらのものともせず、共有する形で結論を出しました。
相続分は長男次男それぞれ2分の1です。被相続人と同居していた長男の2分の1の自宅の土地には小規模宅地等の特例を適用でき、長男の相続税負担は限りなくゼロに近づきます。
一方、同居していなかった次男の持ち分の土地には、特例を適用することができません。評価は更地でのものになるので、それなりの相続税が課されることになります。
このとき、長男が自宅の敷地をすべて相続しておけば、土地のすべてに小規模宅地の特例を適用でき、税負担も大幅に減らせたでしょう。
次男にしてみれば、同じ不動産を相続したのに、長男ばかり相続税で得することを面白く思わないかもしれません。
次男が自分の分の不動産を売りたいと言い出したら、どうなるでしょうか。長男に買えるだけの現金があればよいですが、ほかの人の手に渡った場合、自宅は長男と次男の土地に建っていますから、自宅は取り壊さざるを得ないでしょう。
母親は生前、長男が住み続けやすいように建物を改築するなどしていても、取り壊しとなっては意味がありません。
相続のために行っていた被相続人の心遣いは、無駄になってしまうのです。
相続発生前の話し合いが、かなりのトラブルを防ぐことに
このような「争族」はどうすれば防げるのか? やはり被相続人が存命のうちに、相続人同士で話し合いをしておくことが一番です。関係者には全員「相続が発生したときにはこうしたいと思っている」という思惑がありますから、それを確認し、調整しておくことです。
先ほどの例で言えば、被相続人の生前に話し合って「家は長男に今後も住み続けてもらうのがいいと思っている。だから長男には自宅を引き継いでもらい、次男には代わりとして現金や、その他の引き継げるものを譲りたい」
事前にこのように話し合いをし、関係者の利害を調整しておけば、相続発生後も「まさか」が存在せず、スムーズです。先述した小規模宅地の特例をフルに適用できるなど、様々な節税策も考えられます。
相続はなかなか切り出しにくい、デリケートな話です。「俺が死んだあとの話をするなんて、縁起でもない!」と怒り出す方もいらっしゃり、お気持ちはわかります。
ですが、事前に話し合いをしておければ簡単に済ませられる話がたくさんありますから、残される家族のためと思い、ぜひ行っていただきたいと思います。
相続とは、その人の生きた証を、思いを、そして財産を次の世代に引き継ぐことだと思います。争い事の原因になったり、被相続人の意図しない形に引き継がれることなく、渡す側も、渡される側も、それぞれよい形で相続が行われることをお祈りしています。
微力ながら、相続専門税理士の立場と経験から、そのお手伝いをさせていただいています。