退職金運用で、買ってはいけない3つの商品

初めての運転が高速道路!?

 長年勤めた会社を定年で退職し、今後の生活のために退職金を受け取る。
 かつては退職金を少しずつ切り崩し、年金と合わせ使っていけば、今まで頑張ってきた分のご褒美として、贅沢をしながらでも充分に余生を送れたものだが、現在は平均で男性が80歳、女性が90歳まで生きる時代である。年金や退職金の制度がつくられたころとは状況が変わりすぎている。
 加齢とともに、病気やけがのリスクも高まり、治療費もかさむ。介護等、生きるための費用はどんどんかかるようになる。
 超高齢化社会を生きていくためには、取り崩すだけでなく、退職金も運用して増やしていく必要がある。

 退職金のメリットは、ある程度自由に使える、1000万円レベルの大きな金額を手元に置けることだ。だが、そのお金の使い方がわからないという人も多い。サラリーマンであるならば、退職金がまとまった金額の収入として最大のものである場合が少なくないため、どう使ったらよいかがわからないケースが多く発生する。

 車の運転は、どのように覚えていっただろうか。まずは教習所内のコースを走り、次は路上に出て、それらがクリアできたならば高速道路というように、段階を踏んで走れるところを増やしていったのではないだろうか。
 いきなり1000万円レベルの運用からスタートとは、車を運転したことのない人に、まず高速道路を走れと言うようなものだ。あまりにハードルが高すぎる。


 運転したことのない人の前に広がる巨大な高速道路。そこに現れるのは「私が運転して差し上げましょうか?」の声だ。

 退職金が振り込まれるのは、これまでの給与振り込みやカードの決済などに使っている銀行口座がほとんどだろう。
 銀行は顧客の口座情報、文字通り懐具合をよく知っているため、退職金の振り込まれた段階で「みなさん当行で退職金を運用されていますよ。どうされますか?」と聞いてくる。

 楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏は「退職金運用を金融マンに相談するのは、赤ずきんちゃんがオオカミに道を聞くくらい愚かなことだ」とまで言う。
 山崎氏曰く「銀行が販売するような商品で運用に適切なものは1つもない」

3つのダメな金融商品

 山崎氏は、金融商品を販売する会社が扱う商品には、顧客の利益にならず、販売する側ばかり儲かるものが多いことを指摘、金融庁の発表した「平成27事務年度版 金融レポート」を読み解き、以下の見解を示している。

「金融庁が“ダメな金融商品”であるとしているのは

1.毎月分配型投資信託
2.個人年金保険(特に外貨建てのもの)などの貯蓄性保険商品
3.ラップ運用(特にファンドラップ)

の3つだ」

 1の毎月分配型投資信託は、月ごとに支払いがされるので買った側は得な気がしているが、毎月支払われるとは、運用資金を毎月減らしていることを意味する。せっかく退職金というまとまった額を運用し、時間をかけて大きくしていくことができるのに、小さく取り崩して運用で得られる利益を小さく、小さくしてしまう。
 投資慣れしていない人が陥ってしまう典型のような失敗例だ。

 加えて、山崎氏は金融庁が「顧客の運用方針にかかわらず、販売会社は、主として収益分配頻度の高い商品を提案している」ことに着目。投資信託の収益分配頻度の高い点は販売とそれに伴う手数料だとしている。

 要は「投資信託から金融機関や証券会社が受け取る収益構造は、長期間運用することで顧客が充分に利益を得たところから手数料を受け取る、これが本来の姿であるべきなのに、金融機関や証券会社は短期間の売買でばかり儲けようとしている」ということだ。
 同レポートでは、その様子を「投資信託が短期的なリターンを狙う回転売買の商品として使われ、長期的な資産形成に資する商品としては十分活用されていないといった状況」だと結論づけている。

 2について、ここでも問題になっているのは販売に伴う手数料だ。外貨建ての個人年金保険などの貯蓄性保険商品についても、「一時払い保険の販売手数料が、投資信託等の金融商品と比べ、高めに設定されていることが挙げられる」(同レポート)と説明している。
 外貨建ての個人年金保険など貯蓄性保険商品の販売手数料について、金融庁は額を開示すべきだと言い、地銀を中心とする銀行業界は開示すれば収益にとってマイナスになることから拒否している構造がある。

 3も、数百万円から投資できるものから、数千万円を預けることのある形まであり、証券会社は退職金を受け取った人たちを囲い込もうと躍起になっている。
 ファンドラップについては山崎氏も批判的であり、また顧客の支払う運用手数料の額を見ても、割高であることをデータが物語っている。
全部損!? ファンドラップサービス、リターン率ランキング

退職金だからできる運用を

 あれはダメ、これはダメでは、一体何ならばよいのか? 再び山崎氏のレポート解説に戻ろう。
 山崎氏は、金融庁が分散投資、積立投資、長期投資を推進しようと考えているとし、積立投資を前提として非課税期間20年を設ける「つみたてNISA」を構想中だとも報じていることなどに触れている。
 つまり、国として長期投資を税制面で優遇するなど、サポートする姿勢だということだ。
 結局は「長期で行おう」という、王道のような方法を国も推進することになる。

 実際に、この1年で日本の資産運用に関する環境は大きく変わった。
 森信親金融庁長官は、日本の金融機関が「手数料で儲けることばかり考えていて、顧客のためになる金融商品を販売していない」と批判するなど、金融庁は立てている
方針に対し本気である旨をアピールしている。

 その動きを受けて、各金融機関は「ダメな金融商品」とされるものの販売を自粛。その後実現したつみたてNISAの対象商品の販売を積極的に行うなどしている。

 現在は「買ってはいけない商品」を目にする機会も減るようになった。運用のしやすい環境が整ったと言えるだろう。
 投資は資金が多ければ多いほど効果の出やすいものであり、また資産運用をするうえで最も避けたいことの1つが「資金が尽きたため行いたい形での運用ができなくなる」だ。
 退職金は、せっかくのまとまった自由に使えるお金を入手できるチャンスだ。
 本来の役割である「退職後も安定した生活を送れるための資金」として有効活用できるよう、運用に関してもしっかり考えて臨みたい。

関連記事

・中小企業と大企業で退職金額に約1000万の差
・退職金にかかる税金は非常に優遇されている
・退職金、4つの退職給付制度の違いを知ろう
・高所得な人ほど知っておきたい退職金の賢い運用方法 完全版

参考記事

・金融庁がダメ出しする運用商品ワースト3

よかったらシェアしてね!
目次
閉じる